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 トランクケースから出した服に着替えると、部屋の隅に置いてある所持品を両手に玄関を出る。冷えた夜気はだいぶ湿気を含んでいた。

 レンタカーに荷物を積み、エンジンをかける。すべてのガラスは結露していた。デジタル時計は3:07を示している。

 運転席に乗り込むと、居間から持ってきた茶封筒を確かめる。表裏とも無記入のA4サイズの封筒は1センチほどの厚みがあり、書類としてはそこそこの重量があった。封はきっちりと閉じてある。

 助手席のグローブボックスに封筒を放り込むと、エンジンが温まるのを待たずに未明の道へと発車した。

 実家から国道までは、約8キロほどの下り坂だ。その間すれ違う車は1台もなかった。レンタカーといえど、目撃される回数は少ないに越したことはない。

 国道の交差点は、感応式の信号だった。夜中だと反応が早いので、停車してから30秒も待たずに信号は変わった。

 青信号で発進しかけると、いきなり派手なエアホーンの威嚇音がして、松本方面からの大型トラックが目の前を通過していく。時速100キロ近いスピードで爆走していた。

 左折して国道を走る。気持ちは冷静なつもりだが、スピードメーターを見ると80キロに達していた。その先に派出所があるので、少し減速した。

 開いたままのグローブボックスに放り込んだ茶封筒に目をやる。…椿本は5000万と引き換えに、この報告書を焼却すると言っていたが、そんなものは信用ならない。この中にあるのが原本か複写なのか不明だが、取引が済んでほとぼりが冷めた頃には、また何らかの形で強請りの手段を考えてくるだろう。父親を脅していた件にしても然り。…湧いてくるウジ虫は潰す以外に手はない。 


 やがて隣町との境の看板が現れ、その地域の観光案内のPR板が見えてきた。交差点を右折し国道から外れると、そこからは峠道だ。

 急勾配でカーブの多い路線に入る。路面は綺麗に舗装されているが、カーブの各所に赤い縞の凹凸施工がされていた。コーナー攻め目的のスーパースポーツバイクや、走り屋系車両の速度低減対策のためだ。ヘッドライトが照らした路面には、幾筋ものドリフト痕がついていた。路肩の隅には、履きつぶされた丸坊主のタイヤがいくつも放置されている。

 春から秋にかけては無謀な運転も楽しいレーシングロードかもしれないが、冬場は積雪・凍結でコントロール不能になった車両が大破する、地獄の路線でもある。

 峠道を過ぎると道路はようやく平坦になり、比較的に民家が多い集落に辿りつく。山奥の割には密集していて、それまで皆無だった外灯も点々と現れ、郵便局や農協の支所などがある。

 しかし、それもほんのわずかな距離で、そこを過ぎるとまた途端に淋しい光景に変わる。

 しばらく走ると右折した。標識も案内板もないまるで林道のような支線に入る。途端に舗装は途切れて砂利道になる。…砂利があればまだましな方で、風雨に洗われた路面は深い2本の轍があるだけで、泥濘の悪路といった方が早い。

 幾筋もの雨溝が掘られたカーブでは、前輪駆動のレンタカーのタイヤがスリップした。一度降坂してタイヤの軌道を変えて、やっと坂を登っていく。

 そんなカーブを何度か乗り越えて、ようやく幅員の広い場所に出た。

 路肩にグレーのピックアップトラックが停まっていた。ゴツゴツしたタイヤを履いた車高の高い四輪駆動車だ。

 

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