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「あの頃、勇市さんが行方不明になったってこと以外、俺等にはなんの情報も入ってこなかったよな。まるで意図的に隠蔽してるようだった。…俺は勇市さんが貯めこんでた金も持っていかれたんじゃねえかと思っててね、部屋の隅にでかい金庫があったじゃねえか」
椿本はタバコを挟んだ指で、空中に四角い形を作った。
「まあ、あらゆる悪どい手段や犯罪で手に入れた金だったから、藤松側はひた隠しにしたんだろうが、俺は独自に調べてみたよ。…勇市さんの失踪時、施錠されてた金庫を警察が開けてみたら、小銭1枚も入ってなかったんだとよ。勇市さんに近い人間の情報だと、推定1億近い金品があったはずだって言ってたのにな」
私はふと、地下ピットのふたつの死体を思い起こした。警察の捜索が入れば間違いなく発見されるだろうし、死体遺棄事件になるはずだ。そうならなかったのは多分、捜索願いを出す前に藤松の人間が処分したのだろう。
「立花、黙ってねえで答えろよ。…俺はお前が金と一緒に勇市さんを連れ去ったと確信している。そして殺した」
椿本は挑むように三白眼をギラつかせている。しかしすぐに勝ち誇ったような表情に変わる。
「言っとくけどこれはハッタリじゃねえんだぜ。軽バンのことも車内で見つかったリングのことも、毛髪の鑑定結果も、全部裏付けを取って書面にしてある。失踪の当日、お前のアリバイがないこともな」
椿本は私の動揺を窺うように見つめてきた。私はただ無表情のまま対峙している。
「それとな、俺はついに決定的な事実をつかんだんだ」
そう言うと、椿本はもったいぶるように沈黙した。
「…あの頃、深夜の慶城湖の湖面で、白い人影を見たって話が出たよな。俺はそのふた組の目撃者をやっとの思いで突き止めたんだ。そして話を聞いた。…ひと組めの男は記憶が曖昧すぎて大して参考にならなかったが、ふた組めの男が決定的なことを話してくれたよ」
そこでまた椿本はしばし沈黙した。
「言いたくないと突っぱねていたが、何枚か握らせてやっと喋ってくれたよ。絶対に身元を明かさないという条件でな。…それを目撃したのは、やはり勇市さんが行方不明と判明した前夜だった。深夜にその男は、慶城湖の手前の分岐路付近の林に車を停めて、中で性行為をしてたんだそうだ。言いたくなかったのはお互いに不倫の相手だったかららしい。…午前3時近くにヘッドライトの灯りが見えたから、車内で身を沈めて様子を見ていたら、白い軽バンが立ち入り禁止のバリケードの前に停まり、黒づくめの恰好の若い男が出てきて、バリケードをどかして藪道に入っていったとな。…その不倫カップルはそれで気分が萎えちまって、セックスをやめて湖畔に行ったそうだ。白い人影を見たのはそのあとだったと答えている。…湖面にいたのはお前だったんじゃねえのか?」
私は黙っていたが、椿本の行動力と推理頭脳には感心していた。探偵稼業と名乗るだけのことはあると思った。




