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軽バンを走らせながら目出し帽を脱ぎ助手席に放ると、ダッシュボードにあったタオルで頭や顔を拭う。頭髪は雨に当たったようにびしょ濡れだった。
藤松邸がある高台から坂を下りはじめると、前方に田舎町の夜景が見えた。車のデジタル時計は2:35を示している。人家の灯りなどはまばらで、外灯が寂しげに点いている程度だ。
私は国道へ出る手前の路地を左折して、町営住宅が立ち並ぶ区域に入っていく。直線路の路肩にバンを停めて降りると、団地内の路地を歩く。ひっそりと静まりかえっているので、足音に気を配った。
4世帯がひとつの平屋の群れの一角に、『川瀬稔』のプレートを見つけると、玄関の周りを見回す。自転車や野球のバットがあった。窓に明かりは見えないが電気のメーターはゆっくり動いているので、住んでいるのは確かだろう。
私はベストのポケットから100万の一束を出すと、玄関ドアの真ん中に付いている郵便受けの口にねじ込む。指で押し込むと向こう側にドサッと落ちた。
国道に出ると西に向かう、この時間になると長距離トラックも少ない。途中で左折するとその先は勾配のきつい山道になる。私が向かうのは慶城湖だ。
慶城湖の飾り門を過ぎると道は二股に分かれる、右へ行くと管理棟のあるにぎやかな場所だ。私は左の道を進む。林道のような未舗装道路をしばらく走るとまた分岐する。分岐点の右進路に『路肩崩落のため立ち入り禁止 慶城湖観光開発』のバリケードが設置されている。私はバリケードをどかして進入する。
車がやっと通れる程度の藪道をしばらく進むと、湖畔が見える場所に出る。ちょうど管理棟のはるか対岸になる位置だ。観光地とはいえこの場所を知る者も入り込む者もほとんどいないだろう。
私はバンを停めると、マグライトを照らしながら近くの雑木林に入る。小藪をかき分けて進むと、枝に紛れて緑色のキャンバスが見えた。枝をへし折ってからテントシート地のキャンバスを剥ぐと、手漕ぎボートが現れる。脇に『慶城湖観光開発』の文字が見える。
ボートは以前、私が管理棟の脇から盗んだものだ。バス釣り目的のために運んできて、ここに隠しておいたのだ。中に置いた2本のオールもそのままになっていた。
藪の中からボートを引きずり出す。だが軽い船体といえど手前にはびこった木や雑草が抵抗になって、なかなか出てこなかった。
一度バンに戻りリアゲートを開けた。勇市はドアの音にビクッと反応し、尺取虫のように身をくねらせたが、私は無視して仕事の道具箱から鉈鎌を持ち出す。
湖面までの通路の伐採を終えて、ボートを引きずり出す。陸すれすれに寄せると、前後のロープを立ち木に縛りつけた。




