表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/39

17

 強烈すぎる激情は、却って私を無表情にさせた。勇市が横たわる金庫の前に戻ると、札束を黒いバッグに淡々と詰めていく。勇市は憎悪に燃える眼で、その様子を眺めていた。

 バラの札まで1枚残らず詰め込むと、金庫の下の引き出しを開けてみる。重い引き出しの中には貴金属らしきものが入っていた。

引き出しを抜き、中身を床の上にぶちまける。金やプラチナのリングやネックレス・ブレス、文字盤に宝石を埋め込んだ高級時計類がひと山になった。これも誰かから搾取したものであろう。

 ううう…と呻く勇市の目の前で貴金属類をわしづかみにして、それもバッグに放り込んだ。バッグはほぼ満タンに膨れ上がっている。持ち上げてみるとけっこうな重量だ、10キロ以上はありそうだった。

 

 麻ロープを2メートルほどナイフで切って片側に輪を作ると、ナイフの切っ先で勇市に立ち上がるよう促す。勇市は途端に目の色が変わり、激しく首を振った。上体を起こして尻と足で後ずさりする。冷房が効いた部屋だが、顔中に脂汗を浮かべている。

 私を単なる強盗と思い込んでいたのか、金品を奪ったら退散するとでも思っていたのだろう。自由の利かない上半身を振り、聞き取り不能な声をあげていた。口内の汚れた下着は唾液を吸って濡れていた。

 後ろ手に固定された両腕を持ち上げると、骨折の痛みに耐えきれず腰をあげ立ち上がる。勇市の頭にロープの輪を通し、首のところで輪を縮める。私は左手でロープの端末を握り、右手のナイフを背中に突きつける。

 出口に向かって背中を押すと、しぶしぶ歩き出した。裏玄関ホールを出て竹藪を過ぎると、私は勝手口の扉を薄めに開けて、外の様子を窺った。人の気配はない、遠くの水田で鳴いているカエルの声だけが聞こえる。


 路上に出た勇市は路肩に停まっている私の軽バンを見た途端、激しく暴れだした。頭と肩を使って体当たりしてくる。どうやら私の正体を見破ったようだ。

 自分の配下としてさんざん顎で使ってきた人間にぶちのめされるのは、相当な屈辱であっただろう。

 サバイバルナイフを握ったままの拳を頬に叩き込むと、ぐらりと傾いたので首をつかんだまま引きずり、バンのリアゲートを開けて勇市の体を押し込んだ。

 足をばたつかせて抵抗するので、ナイフの甲をふくらはぎに叩きつけておとなしくさせた。その隙に結束バンドで足も固定する。

 助手席を開けグローブボックスからガムテープを持ち出すと、勇市の目の高さに巻き付けて目隠しをする。なにか喚いていたが構わずにリアゲートを閉めた。

 私は助手席にバッグを放り込むと、一度離れ部屋に戻った。金庫周りを片付け、扉を閉めるとダイヤルを回してロックした。

 部屋を点検して自分の痕跡がないことを確認すると、エアコンと部屋の灯りを消す。

 暗闇の中で地下に眠る女たちに手を合わせると、裏口を施錠してキーをブロックの穴に戻した。

 

 運転席に戻りエンジンをかけた。軽自動車のアイドリングは騒がしく、深夜は周りに響く。

 ルームミラーの角度を下げ、勇市の様子を眺めたあと元の角度に戻した。その瞬間、私はミラーを凝視する。

 軽バンの後方にぼんやりとふたつ、青白い発光体がミラー越しに見えた。人の形のようなふたつの光は少し間隔を置いて立ち、こっちを向いているように見えた。

 振り向いてみると、そこにはなにもない。ふたたびミラーを見ると今度はなにも映っていなかった。

 私は軽バンを静かに発進させた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ