15
勇市は床に突っ伏したまま動こうとしない。私はゆっくり近づき、もう一度頭髪をつかもうとした瞬間だった。急に体を起こすと蜘蛛のように素早く這い、金庫の右側の木製キャビネットに手を伸ばし、引き戸の中に手を突っ込んだ。
素早く手を抜くと同時に上体を起こし、振り向きざま腕を振った。ヒュッと空気を裂く音に私は跳び退った。勇市の右手には、サバイバルナイフが握られていた。
口に詰めた下着を吐き飛ばすと、ガーッと叫びながら立ち上がる。血走った眼をギラギラさせながら、右手を滅茶苦茶に振り回した。
私は冷静に勇市の攻撃をかわしながら、周りに目をやる。そして視界の端のテーブル上のエアーライフルに気がついた。木製ストックの狩猟用空気銃だ。
上から振り下ろされたナイフを避けて身体を左に寄せ、腕を伸ばしてその銃身をつかむ。体をひねりながらライフルを水平に薙ぐと、ナイフに激しく衝突した。金属音と火花を散らして、引き金上部のスコープが吹っ飛んだ。
勇市は叫びながら一歩踏み込む。私はライフルの黒い銃身を右手に持ち替え、横に薙いでくるナイフをかわしたあと、真上に持ち上げたライフルを振り下ろした。ナイフを持つ手の甲に銃床が衝突した。骨が砕ける手ごたえをライフル越しに感じる。
ナイフは床に跳んだ。勇市は悲鳴を上げながら右手を抱えこむと、床にぶっ倒れ咆哮しながら転がり回った。私はナイフを拾い上げる、けっこうな重量だ。
刃渡り15センチほどのごついサバイバルナイフは、柄の部分が黒檀製だった。かなり高価なナイフであろう。
私は転げ回る勇市の頭を踏みつけて動きを止める、そして奪ったナイフの刃を首筋に当てる。切れ味のいい刃物は、少し動いただけで一文字の血の線を付けた。勇市は脂汗を滲ませていたが、全身を硬直させた。
もう一度金庫を指さすと、
「…右手が使えねえだろうが。無理だ」
勇市は頭を踏まれたまま呻いた。
私は足をどけるとTシャツの後ろ襟をつかんで上体を起こさせ、背中に切っ先を突き付けた。途端にビクッと身震いし、観念したように金庫に向かってのろのろと這った。
勇市は唸りともため息ともつかぬ呼吸をしながら、左手でダイヤルを回す。ジーッという細かいラチェット歯が回る音と、エアコンの吹き出し音しかしない。
私は背中にナイフを突きつけたまま、あたりに目を配る。クローゼットの前に、巻いた状態の細めの白い麻ロープがあった。小娘たちとの性行為に使うためのものであろう。
カチャリと音がして金庫が解錠した、勇市は素早くダイヤルの左側にある取っ手に手をかけた。私はその動きを見逃さなかった。左手首をつかんで背中の後ろに捩じり上げる。勇市は痛みに耐えかね頭を床につけた。
そのままの姿勢で金庫の扉を開ける。中にはぎっしりと札束が積んであった。そしてその上段には案の定、拳銃が載っていた。
『ワルサーPPK』全長15センチほどの小型なセミオートマチック拳銃だった。装弾数は7発。私は金庫から拳銃をつかみ出すと、勇市は「チッ」と舌打ちをした。




