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  桟橋に渡り、いくつかのルアーを選んで試してみる。桟橋の歩み板は老朽化し半腐れになっている場所があり、真っ赤に錆びた釘が板から浮き出ている。

水面化の丸太は腐っているようで、少し移動するだけで足元が沈下し、「キー、キー」と不快な音を立てた。

かつてアタリがあったポイントを中心に何度も投げるが、手応えはない。

湾を狙える草むらに移動して、湖面に覆いかぶさる立木の下に小型のルアーを落とす。何度か投げているうちに初めてロッドがしなった。

年季もののスピニングリールのハンドルを素早く回し、手前に引きつけた。水面から上がったのは、口が小さく平たい体型のブルーギルだった。

バス釣りの外道魚だが、20センチは超えている。ギルの中ではかなり大きな方だろう。この湖で対面するのは初めてだった。おそらくどこかの湖か池で釣ったものを誰かが放流したのだろう。私はフックを外すと、湖面に放った。


慶城湖にはもともとブラックバスもいなかった。レジャーブームが盛んな頃に放したのは、ヘラブナやコイやワカサギだ。釣り人に遊漁券を買ってもらうのも観光開発の重要な資金源なので、他の魚を獰猛に喰らうブラックバスなど放流するはずはなかった。

観光が廃れた頃に、やはり誰かが持ち込んで繁殖したのだろう。

ブラックバスは獰猛な上に生命力が強いので、一度放流すると絶滅する可能性はかなり低い。

山上の湖や池でも低地の澱んだ沼でも、この町を流れる一級河川でも生息している。適応能力も高いのだ。


私は湖を周遊しながら、ルアーやワームを替えては投げ続けたが、掛かるのはギルか20センチ程度の小型のバスだけだ。

昔、破損扱いの手漕ぎボートが置き去りにされていたことがあり、沈没覚悟で少し沖まで出して、陸からは絶対狙えないポイントで大物を上げたことを思い出した。


いつの間にか手元が見えづらいほど暗くなっている。西側の山に陽が落ちようとしていた。

私はかつて最大のバスを上げたポイントに向かう。最後にと残しておいた場所だ。

笹が茂る藪を踏んで、立木に巻き付いた藤蔓をかいくぐって過ぎると、岸のすれすれまで松が生えた湾に出る。

何種類かのワームを用意して、水面に浸かった倒木の周りや、蓮が密集したポイントを狙った。

何度目かのキャスティングに、強いアタリが出た。ロッドは鞭のようにしなり、手首が返される。ラインはブルブルと震えるように水面を左右に移動する。

私はロッドを支えながら、リールを調整する。ラインが逃げる方向にロッドを向けながら、抵抗が少なくなった瞬間に少し巻く。それを何度か繰り返す。

突然、ラインが強く走り出す。湾から出ている岩の向こうに引っ張られた。私は少しでも抵抗を減らそうと身体を移動させる。

ラインは岩の角に接触して擦ったかと思った瞬間、無抵抗になりヘナヘナと垂れ下がった。完敗だ。


フックもワームも切られたラインを巻きながらしゃがみこみ、傍らのタックルボックスに手をかけた。

その瞬間、違和感を覚えた。背後にこちらを窺う人間の気配がする。

私は一度手にしたロッドとタックルボックスを置き、気づかないふりでゆっくりと腰を上げた。



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