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 レジャーブームが下火になったある頃、町のとある民家が取り壊された。老朽化して倒壊寸前の危険な状態であったからだ。

その際、物置から古く大きな金庫が見つかり、その中から慶城湖反対派住民が書いたと思われる一通の書状が出てきた。

書面にはこう書かれていたという。

 『この谷が、欲望と欺瞞の邪悪な水で満ちた時、我々の姿はどこを探しても見つからないであろう。なぜなら我々は湖底に沈められているからである。この怨みは決して決して永久に忘れぬ』

書状には反対派全員の血判も押されていたという。

取り壊された民家の主は、反対派住民の親戚だったというが、だいぶ前から行方知れずだったため、誰が広めたかわからないこの話の真意は定かではなかった。

しかしこの噂話は瞬く間に町中に流れ、当時の町長や役場職員はしばらくの間、町民の猛烈な問い合わせの対応に追われたという。

町と施工業者側は、噂は完全な作り話であり、行政に不満を持つ何者かの意図的なでっち上げだとした。

反対派住民には代替え地を提供して、現在もそこに居住しているはずだが、本人たちの強い希望で代替え住所を明かすことは出来ないと発表したが、大半の町民は信用しなかった。


そして約20年前のことだ。夜中に湖畔までドライブに来た若いカップルが、湖の中央あたりの水面に立っている白い人影を見たとの噂が立った。

出まかせだと笑う人もいたが、別の日にそのカップルとは無関係の人間からも同時刻・同内容の目撃情報が寄せられたらしい。

同じ頃、町商工会青年部長の男が、『個人的に懸賞金を出すので、反対派失踪事件の真相を調べてくれ』と町中に募った直後、失踪して行方知れずという事件も起こった。

町中大騒ぎになり大規模な捜索と、警察の徹底した捜査が行われたが、現在に至っても青年部長は見つかっていない。

不穏で不可解な出来事の連続で、ついに慶城湖は観光名所どころではなくなり、いつしか『幽霊湖』と呼ばれるようになった。

以来、昼間でも気味悪がって訪れる人は少なくなったという。


私はハンティングベストを着こみ、車からバスロッドとタックルボックスを持ち出し、湖の岸へと向かう。

10代の頃、ここで50センチオーバーのバスを上げたことがあった。思わずその時の高揚感が蘇ってきた。



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