07 ジロンヌ討伐
翌日。
俺が謁見の間へ向かっていると、正面から豪華なドレスに身を包んだ女が歩いてきた。
数人の侍女を従え、堂々とした足取りでこちらへ向かってくる。
美しい女だった。
だが、その目には明確な敵意があった。
俺は立ち止まる。
「おい、女。俺に何か用か?」
女は眉をひそめた。
「あなたが召喚された異世界人?」
そして蔑むように言った。
「ずいぶんと不敬な態度ね」
俺が一歩踏み出した瞬間。
慌てた様子で宰相マリウスが割って入る。
「お待ちください、コウスケ様!」
「こちらは王妃エリーゼ様でございます!」
俺は王妃を見下ろした。
「だからどうした」
「俺に対する態度を教える必要がありそうだな」
マリウスは青ざめた顔で頭を下げる。
「ご容赦ください」
「王妃様はまだ事情をご存じありません」
「私から必ず説明いたします」
「どうかお怒りをお鎮めください」
そう言って床に額を擦り付ける。
俺はしばらく無言で見下ろしていたが、やがて興味を失った。
「俺に逆らう者に容赦はしない」
「そのことだけは理解させておけ」
そう言い残し、俺はその場を後にした。
背後から鋭い視線を感じたが、振り返ることはなかった。
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謁見の間へ入ると、ゴージマ四世が慌てた様子で駆け込んできた。
そして俺の前で跪く。
「妻が失礼な態度を取ったと聞きました」
「責任は私にございます」
「処罰ならば私がお受けいたします」
俺は面倒そうに息を吐く。
「今からジロンヌを潰しに行く」
「余計なことで苛立たせるな」
王は顔を伏せた。
「……承知いたしました」
「王妃には、俺が戻ったら謝罪に来るよう伝えろ」
それだけ言うと、俺は立ち上がる。
王者の鎧を身にまとい、勇者の剣を腰に下げる。
そして城を飛び立った。
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ジロンヌ領。
上空から見下ろした領地は豊かだった。
城があり、街があり、人々が生活している。
俺は静かにその光景を見つめる。
昨夜から考えていた。
どうすればジロンヌを最も効率よく滅ぼせるか。
だが考えているうちに、別の結論に辿り着いた。
効率よく滅ぼす必要などない。
俺は急いでいない。
二百年。
俺からすれば昨日のことのような出来事でも、この世界では二百年が過ぎている。
ならば数日や数週間など誤差だ。
俺は空中で笑った。
「一瞬で終わらせるには惜しいな」
まず城の上空へ移動する。
そして魔法を発動した。
≪グラビティ・プレス≫
空気が震える。
城全体を覆うように重力が増していく。
城壁に亀裂が走る。
塔が軋む。
だが俺はそこで止めた。
崩壊する寸前で魔法を解除する。
城は辛うじて形を保った。
人々は混乱し、城から飛び出してくる。
何が起きたのか分からないのだろう。
俺はその様子を眺めながら呟く。
「恐怖を知れ」
そして領内を飛び回る。
街道を寸断する。
橋を落とす。
倉庫を破壊する。
だが街そのものは残す。
人が生きられる程度には。
領主も兵も民も。
全員に理解させるためだ。
自分たちの運命が俺の気分一つで決まることを。
数日後。
ジロンヌ領は完全に麻痺していた。
流通は止まり。
行政も機能しない。
兵士たちは怯え。
領主は城に閉じこもっている。
それでも俺は終わらせない。
まだ足りない。
俺の胸の奥にある怒りは、こんな程度では消えない。
空から領地を見下ろす。
人々は空を見るだけで怯えるようになっていた。
俺が現れるかもしれないからだ。
その光景を見ても、胸は晴れなかった。
少しだけ軽くなった気もした。
だが本当に少しだけだ。
失った十年は戻らない。
壊された人生も戻らない。
俺は空を見上げる。
「まだ足りない」
その呟きは風に消えた。
そして俺は次に何を壊すべきかを考え始めていた。




