06 作戦会議
「貴様らの臣従、快く受けてやろう」
俺は玉座に深く腰掛けながら言った。
「だが、言葉だけで忠誠を信じるほど、俺は甘くない」
広間が静まり返る。
「王族、貴族、その一族の者たちは全て王都へ集めろ」
「当面はこの城の監視下に置く」
ざわめきが広がった。
予想していた反応だ。
俺は口元を歪める。
「言いたいことがあるなら聞いてやる」
視線をゴージマ四世へ向けた。
「どうした、王よ」
「何か不満でもあるのか?」
ゴージマ四世は言葉を選ぶように沈黙した後、恐る恐る口を開いた。
「王族も……でしょうか?」
俺は大きくため息を吐いた。
「同じことを何度も言わせるな」
「王族もだ」
「俺は二度、お前たちを救うことになった」
「その程度の要求は受け入れられるだろう」
誰も反論しない。
いや、できないのだろう。
先ほど北方戦線を消し飛ばしたばかりなのだ。
俺の機嫌を損ねることがどういう結果を招くのか、全員理解している。
「それと」
俺は周囲を見回した。
「偽りがあった場合、その家は反逆とみなす」
「覚悟しておけ」
広間から音が消えた。
☆★☆★☆★☆★☆★
しばらくして、他の者たちを下がらせた。
残したのは、
ゴージマ四世。
宰相マリウス。
ヨハン侯爵。
騎士隊長と副隊長。
その五人だけだ。
俺はふと疑問に思ったことを口にした。
「そういえば侯爵は三人ではなかったか?」
俺がいた頃はそうだった。
するとマリウスが答える。
「以前は御三方でした」
「しかし現在はヨハン侯爵お一人です」
「残る二家は反逆行為により爵位を剥奪されております」
俺は眉を上げた。
「ほう」
どうやら俺の知っている王国とはかなり状況が違うらしい。
その後も質問を続ける。
そして分かったことは多かった。
俺が去ってから、およそ二百年が経過していること。
俺が魔王を倒したことで平和な時代は訪れたが、それも永遠ではなかったこと。
魔族たちは国家を築き上げ、ユーグス帝国を名乗るようになったこと。
そしてゴージマ王国は長きにわたり戦争を続けていること。
「なるほどな」
俺は肘掛けに頬杖をついた。
「ゴージマ王国の国土はどうなっている」
「最盛期と比較して三分の一ほどでございます」
マリウスが答える。
俺はしばらく考え込んだ。
するとゴージマ四世が恐る恐る尋ねてきた。
「何をお考えでしょうか……」
俺は王を見た。
そして笑った。
「なに」
「どちらの裏切り者から潰してやろうか考えていただけだ」
隊長と副隊長が苦笑いを浮かべる。
「安心しろ」
「お前たちの出番はない」
「俺の苛立ちが収まるまでは鍛錬でもしていろ」
「それと戦況の悪い戦場をまとめておけ」
「当面、俺が暴れる場所が必要だからな」
二人の顔が引きつる。
ゴージマ四世もマリウスも複雑な顔をしていた。
そんな中、ヨハン侯爵が一歩前に出た。
「まずはジロンヌからかと」
「理由は?」
俺が問うと、ヨハンの表情が険しくなる。
「ジロンヌは領民を魔族へ差し出しております」
広間の空気が重くなった。
「コウスケ様がかつて救った民をです」
俺は目を細めた。
「そうか」
短く答える。
「なるほどな」
ヨハンは頭を下げた。
俺は立ち上がる。
「ならば決まりだ」
「ジロンヌから潰す」
「明日には出発する」
「数日もあれば終わるだろう」
誰も何も言わない。
だが、その沈黙の中には安堵があった。
自分たちへ向いていた災厄が、別の場所へ向かうからだ。
もっとも。
それが一時的なものに過ぎないことを、俺は知っていた。
☆★☆★☆★☆★☆★
会議が終わりかけた頃。
俺はゴージマ四世へ視線を向けた。
王はびくりと肩を震わせる。
「王よ」
「は、はい」
「お前たち王族は今後、この城から出るな」
「許可なく行動することも認めない」
ゴージマ四世は黙って頷く。
「理解していると思うが」
俺は玉座から立ち上がった。
「俺はお前たちを信用していない」
「今後の行動次第では処遇も変わる」
王は青い顔のまま答えた。
「承知しております」
その姿を見て、俺は小さく笑った。
二百年前。
俺はこの国を救うために戦った。
今は違う。
俺はこの国を支配するためにここにいる。
その事実を理解した時。
ゴージマ四世はゆっくりと俯いた。




