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34 ニックへの命令

俺とエリーゼの結婚式から四日後。


ヨハン侯爵から、ダントン連合国の炎がようやく収まったとの報告があった。


ダントン連合国は一面が焦土と化し、生命の気配すら感じられない状態らしい。


俺はその報告を聞きながら、小さく笑った。


あの国はもう存在しない。


街も、人も、歴史も。


全て灰になった。


俺は大広間にニックを呼び出した。


しばらくして、ニックが参上し、俺の前に跪く。


以前より痩せたように見えた。


腕は俺が治した。


だが心の傷までは治していない。


むしろ深くなっているだろう。


「ニックよ、ダントン連合国の火が収まったことは聞いたか?」


「はっ。先ほど報告を受けました」


「そうか」


俺は満足そうに頷く。


そして玉座に深く腰掛けたまま命じた。


「ではニックに命じる」


「ダントン連合国の調査を行え」


「残党がいるかもしれん。見つけ次第殲滅しろ」


ニックは黙って聞いている。


俺はさらに続けた。


「そして――ジャックの消息を探ってこい」


その瞬間。


ニックの肩がわずかに震えた。


俺は見逃さない。


「お前の兄だ」


「生きているなら連れて帰れ」


「死んでいるなら遺品を持ち帰れ」


「何かしらの手掛かりを掴むまで帰還は許さん」


大広間が静まり返った。


マリウスもヨハン侯爵も何も言わない。


言えるはずがない。


俺はさらに言葉を重ねる。


「兄を探すのだ」


「弟として当然の務めであろう?」


「それとも諦めるのか?」


ニックは俯いたまま拳を握った。


俺は笑みを浮かべる。


追い詰められた人間は面白い。


希望を捨てることもできず。


信じることもできず。


その狭間で苦しみ続ける。


実に面白い。


「それに」


俺はわざと考える素振りを見せる。


「ダントン連合国との戦いで劣勢になったのは、お前が負傷したからだと言う者もいる」


もちろん嘘だ。


そんなことを言う者はいない。


だがニックは真面目だ。


責任を背負う。


だからこそ利用価値がある。


案の定、ニックの顔が強張った。


俺は内心で笑う。


これで逃げられなくなった。


兄を探さなければならない。


自分の責任を証明しなければならない。


そう思い込む。


「その者たちを見返してやれ」


「お前ならできるだろう?」


優しい言葉を掛ける。


だがその優しさは毒だ。


ニック自身は気付いていない。


だから効く。


俺は玉座から立ち上がり、ニックの傍へ歩み寄った。


そして耳元で囁く。


「エリーゼが夜になるたび聞いてくるんだ」


ニックが顔を上げる。


俺はわざと下品な笑みを浮かべた。


「ジャックはどうしているのか、と」


ニックの目が見開かれた。


怒り。


嫌悪。


そして屈辱。


様々な感情が混ざり合う。


俺は楽しそうに続ける。


「心配で仕方ないらしいぞ」


「毎晩な」


ニックは唇を噛み締めた。


血が滲むほど強く。


だが何も言わない。


言えない。


俺に逆らえないからだ。


長い沈黙の後。


ニックはゆっくり頭を下げた。


「コウスケ様の命に従い、ダントン連合国の調査及び兄ジャックの消息を探って参ります」


声は震えていた。


それでも続ける。


「兄ジャック、もしくはその遺品が見つかるまで戻りません」


「では失礼します」


一礼し、踵を返す。


その背中はどこか壊れかけているように見えた。


俺はその後ろ姿を眺めながら笑う。


ニックは知らない。


あの炎は全てを燃やし尽くす。


人も。


建物も。


武具も。


遺品すら。


ジャックが生きている可能性は限りなく低い。


死んでいるなら、なおさら何も残っていない。


つまり――


ニックが探しているものは最初から存在しない。


見つかるはずのないものを探し続ける。


終わりのない旅だ。


希望を捨てられない限り。


永遠に。


俺は玉座に座り直した。


さて。


ジャックは戦場で消えた。


ニックは焼け野原を彷徨う。


残るはアンナだけだ。


俺はゆっくりと口元を歪めた。


次はどんな顔を見せてくれるのだろうな。


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