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33 勇者と元王妃の結婚式

魔国の王との間でアンナの縁談をまとめてから、一か月。


ついに俺とエリーゼの結婚式の日がやってきた。


当然ながら、ゴージマの参列は認めていない。


今のあいつは壊れた人形のようなものだ。


何を見せても、何を聞かせても、大した反応を返さない。


それでは面白くない。


今仕込んでいるものが形になったとき、その結果だけを見せてやればいい。


その時こそ、本当に絶望するだろう。


俺はそんなことを考えながら、隣に立つエリーゼを見る。


純白のウェディングドレス。


元王妃に相応しい、美しい装いだった。


だが、その表情は硬い。


何が起きるのか。


何をさせられるのか。


何を見せられるのか。


それが分からないのだろう。


僅かに青ざめた顔が、それを物語っていた。


やがて時間となり、城門が開く。


本来であれば馬車で向かうところだ。


だが今日だけは違う。


俺が「国民の祝福を受けながら歩きたい」と言ったからだ。


当然、誰も反対できない。


俺とエリーゼは並んで歩き始める。


城門の外には大勢の人々が集まっていた。


歓声。


拍手。


祝福の声。


人々は勇者と元王妃の結婚を心から祝っている。


少なくとも、そう見えた。


だが、その祝福を受けながら歩くエリーゼの足には、確実に負担が蓄積していた。


重いドレス。


高いヒール。


慣れない長距離の徒歩。


城を出てしばらくした頃には、その白い靴の縁にうっすらと赤い染みが浮かび始めていた。


靴擦れだろう。


それでもエリーゼは歩く。


笑顔を崩さない。


元王妃として。


王家の人間として。


国民の前で苦痛を見せることはできない。


額には脂汗が滲んでいた。


だが、それでも笑みを浮かべ続ける。


俺は気付かないふりをした。


いや、気付いていても何もしなかった。


本番はここではないからだ。


やがて王都中央広場へ到着する。


広場には貴族だけでなく、多くの平民も集まっていた。


大勢の視線が俺たちへ向けられている。


その最前列にはニックとアンナの姿もあった。


二人は席についていた。


だが、その視線は冷たい。


祝いの席にいるはずなのに、祝福の色は見えない。


エリーゼもそれに気付いている。


何度か二人を見ようとしていた。


だが、目が合うたびに視線を逸らしていた。


式典は進んでいく。


祝辞。


祈り。


貴族たちの挨拶。


そして最後。


新郎が参列者へ感謝を述べる時間となった。


俺は前へ出る。


「今日は集まってくれてありがとう」


「これからエリーゼと共に歩んでいこうと思っている」


そう言ってエリーゼへ微笑みかける。


観衆から歓声が上がった。


実に分かりやすい。


俺は再び正面へ向き直る。


「みんなも知っている通り、俺は異世界から来た」


「異世界にも結婚式というものがある」


「そして最後に、夫婦が永遠の愛を誓う習わしがある」


広場が静かになる。


人々は興味深そうに聞いていた。


俺はゆっくりとエリーゼへ向き直る。


エリーゼは僅かに身を強張らせた。


何かを察したのだろう。


だが逃げることはできない。


俺はその顎へ手を添えた。


そして顔を上げさせる。


エリーゼの瞳が揺れる。


次の瞬間。


俺はそのまま口づけた。


広場が静まり返る。


誰も予想していなかったのだろう。


異世界の習わし。


そんなものを知らないのだから当然だ。


長い時間だった。


十分すぎるほどに。


エリーゼは抵抗しなかった。


できなかったのかもしれない。


ただ、その瞳から涙だけが零れ落ちていた。


やがて俺が離れる。


一瞬の静寂。


そして――


大歓声。


拍手。


祝福の声。


人々は感動したのだと思ったのだろう。


涙を流す花嫁。


永遠の愛を誓う夫婦。


そう見えたに違いない。


誰一人として、その涙の意味など理解していない。


俺は観衆へ手を振る。


さらに歓声が大きくなる。


その中で、俺はニックとアンナへ視線を向けた。


二人とも立ち上がることなく座ったままだった。


拍手もしない。


笑顔もない。


ただこちらを見ている。


その目にあるのは祝福ではない。


困惑。


嫌悪。


怒り。


そして理解できない何かへの戸惑い。


エリーゼもまた二人を見ていた。


涙を流しながら。


だが二人は母へ近寄ろうとしない。


ただ距離を置いたまま見つめている。


その光景を見て、俺は小さく笑った。


良い傾向だ。


親子の間にできた小さな亀裂。


それは放っておいても広がっていく。


この世界で口づけが持つ意味は重い。


永遠の愛。


夫婦の誓い。


観衆はそう受け取った。


そして今日、この場で。


勇者コウスケと元王妃エリーゼは、誰の目にも本当の夫婦として刻み込まれたのだから。


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