20 王と王妃の抵抗
その後、隊長と副隊長の報告を聞くため、俺はその場に残った。
反逆の罪に問うた三つの子爵家と二つの男爵家についてだ。
隊長と副隊長は、昨日、自分たちの部下である騎士たちが俺に刃を向け、命を落としたにもかかわらず、何事もなかったかのように跪いていた。
「昨日、騎士たちがここにいるゴージマ四世らに唆され、俺に歯向かってきた」
俺は玉座にもたれながら言った。
「よって、手打ちにしたが、何か問題はあったか?」
隊長は即座に頭を下げた。
「何も問題ございません」
「そうか」
俺は満足そうに頷くと、ゴージマ四世へ視線を向けた。
「精鋭と言っていたが、そうでもなかったのか?」
そう言って笑うと、ゴージマ四世は悔しそうに唇を噛んだ。
顔を赤くしたかと思えば青くなる。
忙しい男だ。
そんなことを考えていると、隊長が報告を続けた。
「ご報告いたします。反逆していた三つの子爵家と二つの男爵家は、一族郎党すべて捕縛し、地下牢へ収監いたしました」
「よくやった」
俺は頷く。
「マリウス、この者たちには褒美を取らせろ」
「承知いたしました」
マリウスは恭しく頭を下げた。
俺は少し考えるふりをしてから、エリーゼへ視線を向ける。
「そうだな。まずは子爵家の一つを見せしめに処罰するか」
そして口元を歪めた。
「なあ、エリーゼ。ジャック伯爵も向こうで仲間を欲しがっているだろうしな」
だがエリーゼは何も答えない。
俯いたまま、俺を見ようともしなかった。
「ほう……」
俺は少し感心した。
無視か。
最近は色々と覚えてきたらしい。
「ならば、お前の可愛い娘に経験を積ませてやろう」
その言葉に、エリーゼの肩がわずかに震えた。
「アンナに伝えろ。三つの子爵家と二つの男爵家の中から一つ選び、明日、広場でアンナ自ら裁きを執行するようにな」
場の空気が凍り付いた。
ゴージマ四世は目を見開き、エリーゼは勢いよく顔を上げる。
「やめてください!」
初めてエリーゼが声を荒げた。
「アンナは関係ありません!」
その声には怒りよりも焦りが滲んでいた。
「どうかあの子だけは……」
エリーゼは一歩前に出る。
「私が代わりに罰を受けます」
場にいた者たちが息を呑んだ。
エリーゼは震える声のまま続ける。
「鞭打ちでも、幽閉でも構いません」
「私が受けます」
「ですから、あの子だけは巻き込まないでください」
俺はしばらく黙ってエリーゼを見つめた。
そして笑う。
「母親らしいことを言うじゃないか」
エリーゼは唇を噛みながら俺を睨んでいる。
その目には恐怖があった。
だが、それ以上に娘を守ろうとする意思があった。
だからこそ面白い。
すると今度はゴージマ四世が前に出た。
「違う!」
その声は震えていた。
「責任は全て我にある!」
ゴージマ四世は膝をつき、頭を下げた。
「王として国をまとめられなかったのは我だ」
「貴族を統率できなかったのも我だ」
「だから罰するなら我を罰せよ」
必死だった。
王としてではなく、父として。
夫として。
それでも家族を守ろうとしていた。
「アンナにもエリーゼにも罪はない」
「責任は全て我にある」
そう言って頭を下げ続ける。
広間は静まり返っていた。
俺はそんな二人を見下ろしながら、ゆっくりと立ち上がる。
「面白いな」
俺は笑った。
「今さら家族を守ろうというのか」
ゴージマ四世が顔を上げる。
俺は続けた。
「お前たちは、俺から何もかも奪った」
「ならば俺も、お前たちから何もかも奪う」
「それだけの話だ」
エリーゼが拳を握り締める。
ゴージマ四世は悔しそうに俯いた。
「おっ、今度は無視できぬか」
俺はエリーゼを見て笑った。
「お前が腹を痛めて産んだ子だからな」
「俺も特別に目を掛けてやるよ」
「これから先、ダントン連合国との戦で多くの人間が死ぬ」
「ならば王族も、それを知っておくべきだろう?」
エリーゼは涙を流しながら俺を睨みつける。
その目には憎しみが宿っていた。
俺はその視線を受けて満足そうに頷いた。
まだ折れていない。
まだ燃えている。
だから面白い。
「さて――」
俺は踵を返す。
「そろそろ風呂にでも入るか」
そして振り返らずに言った。
「エリーゼ、背中を流せ」
広間が静まり返る。
「ゴージマ、お前は風呂の前で控えていろ」
誰も何も言えなかった。
俺はそのまま大広間を後にする。
背後には、悔しさと絶望に沈む王と王妃だけが残されていた。




