19 後継者選定
次の日。
謁見の間は前日の戦いによって半ば崩壊していたため、王城の大広間が使用されていた。
マリウスから連絡を受けた俺は、大広間へ向かう。
既にゴージマ四世、エリーゼ王妃、マリウス宰相が前方に控え、その後ろには王都にいる貴族たちが整列していた。
俺が玉座に腰を下ろした瞬間。
全員が一斉に跪き、臣下の礼を取る。
昨日は俺を討とうとした連中だ。
それが翌日には頭を垂れている。
つくづく貴族という生き物は現実的だな、と俺は思った。
もっとも、そのことを責めるつもりはない。
今日はそれ以上に愉快な催しがある。
俺が顎で促すと、マリウスが前に出た。
「本日をもちまして、ゴージマ四世陛下は退位されることとなりました」
広間にざわめきが走る。
だが、誰も声を上げない。
異議を唱えた者がどうなるか。
それをこの場にいる者たちは嫌というほど知っていた。
マリウスは続ける。
「後継の国王は、コウスケ様によって選定されます」
再びざわめきが起こる。
しかし、それだけだった。
俺はゆっくりと立ち上がる。
「ゴージマ四世よ」
「長らくの執務、ご苦労であった」
ゴージマ四世は跪いたまま顔を上げない。
「俺は貴様から王国の脅威を排除するよう依頼された」
「その任務に当たる中で、王命に逆らう者が次々と現れた」
「これは貴様の統率力不足だ」
「このままでは俺の仕事に支障が出る」
「よって退位してもらう」
広間は静まり返っている。
誰も反論しない。
いや、できない。
「なお、退位後のゴージマ四世だが――」
俺は口元を歪める。
「俺の召使として雇ってやることにした」
その瞬間。
ゴージマ四世が顔を上げた。
苦渋と屈辱に満ちた顔だった。
だが俺は構わず続ける。
「そしてエリーゼ」
エリーゼ王妃がゆっくり顔を上げる。
「お前は王妃の座を退き、俺の妻となる」
「今日より寝食を共にする」
広間の空気が凍り付いた。
誰も声を出さない。
出せない。
ゴージマ四世は俺を睨みながら大粒の涙を流していた。
エリーゼは何も言わない。
ただ強い憎悪を宿した目で俺を見据えている。
その目が実に良い。
俺は手を打った。
パンッ――と乾いた音が響く。
「うるさい」
「静かにしろ」
ざわめきは一瞬で消えた。
「エリーゼは俺の横へ」
「ゴージマは玉座の一段下で跪いていろ」
二人は動かない。
俺が視線を向けると、ようやく従った。
屈辱に震えながら。
それを見ているだけで楽しかった。
「さて、マリウス」
「子供たちはどこだ?」
呼ばれて三人が前へ出る。
青年が一人。
少年が一人。
少女が一人。
「名を言え」
「ジョージです」
「ニックです」
「アンナです」
順番に名乗る。
ジョージは二十七歳。
ニックは十六歳。
アンナは十四歳。
ジョージは前妻の子らしい。
「ほう、前妻の子か」
俺はエリーゼを見る。
「継母に虐げられたりはしなかったのか?」
ジョージは少し迷った後、首を横に振った。
「母上は……私にも良くしてくださいました」
「ニックやアンナと差別されたことはありません」
俺は思わず笑った。
「良き母だったわけだ」
そしてエリーゼを見る。
「すまんな」
「その良き母は俺がもらうことになった」
ジョージもニックも俯く。
だがアンナだけは違った。
俺を真っ直ぐ睨んでいる。
その目に、俺は少し感心した。
「ほう」
「アンナは母親似か」
「気が強いな」
アンナは何も言わない。
だが視線だけは逸らさなかった。
面白い。
俺は再び玉座に腰を下ろす。
「では、後継者選定の方法を伝える」
広間の空気がさらに重くなる。
「マリウス」
「西のダントン連合国は健在か?」
「はい」
「我が国とは友好関係にございます」
俺は笑った。
「結構」
そして三人を見る。
「ジョージ」
「ニック」
「アンナ」
「貴様ら三人に命じる」
三人の顔が強張る。
「一年以内にダントン連合国を取ってこい」
広間がどよめいた。
今度は誰も隠せなかった。
だが俺は気にしない。
「最も大きな武功を上げた者を王とする」
「成果の無かった者は王族の身分を剥奪し、平民へ落とす」
三人とも顔色を失った。
ジョージは言葉を失い。
ニックは震え。
アンナは唇を噛み締める。
三人は両親を見る。
助けを求めるように。
だが。
ゴージマ四世もエリーゼも何も言えない。
何もできない。
その現実を理解した瞬間。
三人の顔はさらに青ざめた。
俺はアンナを見る。
「その目だ」
「その目は気に入った」
「王になりたければ必死に足掻け」
「一年後にどんな顔をしているか楽しみにしているぞ」
アンナは泣きそうな顔になった。
エリーゼほどの強さはまだ無い。
だが、一年もあれば変わるだろう。
俺は今から楽しみだった。
そして視線を貴族たちへ向ける。
「お前たちも同じだ」
「この三人に従い、死ぬ気で武功を上げろ」
「何の成果も出せぬ家は不要だ」
「取り潰される覚悟をしておけ」
「はっ!」
広間に声が響く。
恐怖による服従。
実に美しい。
俺は最後にゴージマ四世とエリーゼを見る。
「さて」
「誰が王になると思う?」
「賭けでもするか?」
二人は無言だった。
ただ俺を睨みつけている。
俺は満足そうに笑った。
一年後。
誰が生き残り。
誰が堕ちるのか。
その過程こそが楽しみだった。
結果など、どうでもいい。
俺は玉座にもたれながら、その光景を想像して笑った。




