12 王妃の瞳
翌日。
俺は王妃エリーゼの部屋へ向かった。
部屋の前には護衛の騎士が立っている。
俺の姿を見ると、緊張したように背筋を伸ばした。
「コウスケ様」
「王妃様はお休みになられております」
「なにとぞ、ご容赦いただけないでしょうか」
俺は騎士を一瞥する。
「そうか」
そう答えながら、そのまま扉に手をかけた。
騎士が慌てる。
「お、お待ちください!」
だが無視した。
ノックもせずに扉を開ける。
室内は薄暗かった。
窓際のカーテンも半ば閉じられ、重苦しい空気が漂っている。
ベッドの上には王妃エリーゼが横たわっていた。
俺が入ってきたことには気付いているはずだ。
だが、こちらを見ようともしない。
一瞬だけ視線を向けた後、再び虚空へ目を向けた。
生気のない目だった。
「見舞いに来てやったぞ、王妃」
「元気そうで何よりだ」
嫌味を込めて言ってみる。
だが返事はない。
表情も変わらない。
俺は肩をすくめた。
「それにしても、この前は傑作だったな」
「ジャック伯爵が泣き叫んでいた」
その瞬間。
王妃の肩が小さく震えた。
だが、それだけだった。
「父親だったか?」
「それとも弟だったか?」
「どちらもなかなか見応えがあったぞ」
肩がまた震える。
俺は構わず続けた。
「そういえば、ジャック伯爵みたいな連中がまだ何家かいるらしいな」
「心配するな」
「騎士隊長たちに捕縛命令を出しておいた」
「きっと頑張るだろう」
「ジャック伯爵を捕まえた時には褒美も出したからな」
俺がジャック伯爵の名を口にするたびに、王妃の肩が震える。
だがそれ以上の反応はない。
涙も流さない。
怒鳴りもしない。
睨みもしない。
まるで人形だ。
俺はつまらなさを覚えた。
せっかく来たというのに。
こんな顔を見に来たわけではない。
しばらく考えた後、俺は口を開く。
「そうだ」
「喜べ」
王妃の瞳が僅かに動く。
「ゴージマ四世の後継者を決めることになった」
「一か月後だ」
「王族を全員集めて、俺が次の王を選ぶ」
沈黙。
そして――。
王妃の目から涙が零れ落ちた。
ぽたり、とシーツに染みを作る。
ゆっくりと顔を向けてくる。
その瞳には感情が戻っていた。
悲しみ。
怒り。
憎しみ。
そして恐怖。
王妃は震える声で言った。
「親だけではなく……」
「今度は私の子供にまで手を出そうというのですか……」
その言葉を聞いた瞬間。
俺は笑った。
「ああ」
「やっと見せたな」
王妃が睨みつける。
俺はその視線を受けながら満足そうに頷いた。
「そうだよ」
「俺はその目が見たかった」
「怒りと憎しみで燃える目がな」
胸の奥が熱くなる。
黒く淀んだ感情が喜んでいる。
さっきまでの虚ろな目より、ずっと良い。
ずっと生きている。
「その目を見ると安心する」
「俺の中にある黒いものが燃え上がる」
俺は王妃へ歩み寄った。
王妃は下がれない。
ただ睨み返す。
「覚えておけ」
「俺はこの国を許さない」
「ゴージマ王国を」
「ゴージマ王家を」
「決して許さない」
部屋の空気が重くなる。
俺は続けた。
「お前たち王族は、この国の象徴だ」
「だから一番最初に壊してやる」
「お前たちが苦しむ姿を見ると気分が良い」
「少しだけ溜飲が下がる」
王妃の目から涙が溢れ続ける。
それでも目は逸らさない。
俺を睨み続ける。
その姿に、俺は再び笑った。
「安心しろ」
「お前は殺さない」
「死なせてやらない」
「だから見ていろ」
「この国が落ちていく様を」
「お前たち王族が失っていく様を」
「最後までな」
俺は高らかに笑った。
王妃は涙を流しながら、俺を睨み続ける。
その憎しみに満ちた瞳を見ながら、俺は満足して部屋を後にした。




