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11 恐怖による支配

王妃の鞭打ちから数日後。


ジャック伯爵一家の絞首刑が王都の広場で執行された。


俺は刑を急がせなかった。


一人ずつ。


時間をかけて。


じっくりと。


見せしめとしては、その方が効果的だからだ。


王妃エリーゼは絞首台の正面に用意した椅子へ拘束されている。


逃げることも目を逸らすことも許さない。


自分の家族が死んでいく様を最後まで見届けさせる。


それが今回の罰だった。


さらに王都にいる貴族たちにも見学を命じた。


拒否は許さない。


俺の命令に逆らえばどうなるのか。


そのことを全員に理解させる必要がある。


ジャック伯爵家と王妃は良い教材になった。


広場を埋める民衆も異様な空気を感じ取っているだろう。


事情など知らない。


だが誰もが理解している。


何かがおかしい。


この国は変わってしまった。


そして、その変化が恐ろしいものだということを。


俺は広場を見渡しながら笑う。


恐怖は便利だ。


人は正義では従わない。


恩義でも従わない。


だが恐怖には従う。


心を縛り、口を閉ざし、膝を折らせる。


この恐怖を忘れさせないためにも、たまには公開処刑も悪くない。


そんなことを考えながら、一人で笑った。


やがて最後の刑が終わる。


ジャック伯爵一家は誰一人残らなかった。


エリーゼは椅子に拘束されたまま動かない。


虚ろな目で前を見ている。


鞭打ちの時までは残っていた怒りも憎しみも、もう見当たらなかった。


あの強い芯のある目は消えていた。


抜け殻のようだった。


もう俺に歯向かうことはないだろう。


そう思う。


だが少しだけ残念でもあった。


あの憎悪に満ちた目は嫌いではなかった。


少なくとも今の空っぽな目よりはずっと良かった。


俺は踵を返した。


☆★☆★☆★☆★☆★


その日の夕刻。


謁見の間。


俺はゴージマ四世、マリウス宰相、騎士隊長、副隊長を呼び出した。


玉座に腰掛けながら尋ねる。


「ジャック伯爵家以外で、王都へ来ていない貴族はいるのか?」


誰も答えない。


俺は眉をひそめる。


「聞こえなかったか?」


「いるのか、いないのか聞いている」


広間の空気が重くなる。


しばらくしてマリウスが口を開いた。


「三つの子爵家と二つの男爵家が、未だ参上しておりません」


「ほう」


俺は頷いた。


そしてゴージマ四世へ視線を向ける。


「どういうことだ?」


「王命に背くことが許されるのか?」


「それも子爵や男爵程度の下級貴族が」


ゴージマ四世の肩が震える。


先日蹴り飛ばした際に肋骨を折ったらしい。


それでも王としてこの場に立っている。


責任感というやつだろう。


俺にはどうでも良いことだが。


ゴージマ四世は額に汗を浮かべながら答えた。


「申し訳ございません……」


「現在、使者を――」


「謝罪は聞いていない」


俺は遮った。


ゴージマ四世が口を閉じる。


俺はしばらく王を眺める。


そして笑った。


「お前ももう年だな」


「昔の王なら、こんなことにはならなかった」


広間が静まり返る。


「お前は従順だ」


「命令にも逆らわん」


「だが王としては弱すぎる」


ゴージマ四世の顔色が変わった。


「国をまとめる力もない」


「貴族を従わせる力もない」


「そのくせ俺の顔色ばかり窺っている」


俺は肘掛けに頬杖をつく。


「そんな王では国を治められん」


誰も反論しない。


反論できない。


「一か月後」


「家族を全員連れてこい」


「俺が次の王を選んでやる」


マリウスが顔を上げた。


「お待ちください!」


「それは王家の継承に関わる重大事で――」


「だから何だ?」


俺が睨む。


マリウスは言葉を失った。


「王家の問題だから口を出すなと?」


「この国は誰が守っている?」


「誰が敵を潰している?」


「誰が王国を存続させている?」


マリウスは何も言えなかった。


俺は鼻で笑う。


「勘違いするな」


「王位を決めるのは俺だ」


広間に沈黙が落ちる。


誰も反論しなかった。


いや、できなかった。


俺は満足して頷く。


そして隊長と副隊長を見る。


「お前たちに命じる」


二人は即座に跪いた。


「三つの子爵家と二つの男爵家を捕縛しろ」


「一か月以内だ」


「一族全員を牢へ入れておけ」


「処罰は後で決める」


「はっ!」


迷いのない返答だった。


従うしかないのだ。


それを理解している。


俺は立ち上がった。


「さて」


「俺は王妃の見舞いにでも行くか」


ゴージマ四世の表情が強張る。


マリウスも目を伏せた。


俺は構わず続ける。


「その後はエジュマを叩きに行く」


「最近は身体を動かしていなくてな」


「魔法抜きでやろうと思う」


その瞬間。


隊長の肩がぴくりと動いた。


副隊長は俯く。


マリウスは額を押さえる。


ゴージマ四世は静かに目を閉じた。


国家同士の戦争。


何万もの兵士が命を懸ける戦場。


それを俺は運動不足解消と言った。


誰も笑わない。


笑えるはずもない。


だが俺だけは楽しそうに笑った。


「なに、安心しろ」


「今の俺は機嫌が良い」


「エジュマがどこまで耐えられるか、少し楽しみなだけだ」


その言葉に広間の空気はさらに冷え込む。


誰も顔を上げない。


誰も目を合わせない。


この場にいる全員が理解していた。


二百年前の勇者はもういない。


今ここにいるのは――。


人々を救った英雄ではなく。


世界を恐怖で縛ろうとする災厄なのだと。


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