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10 ジャック伯爵家への裁き

王妃の謝罪から、きっちり五日後。


隊長と副隊長が謁見の間へ現れた。


二人は俺の前で跪く。


「ご報告いたします」


「ジャック伯爵を拘束し、一族全員の身柄を確保いたしました」


俺は玉座に座ったまま笑った。


「おいおい」


「五日以内と言ったんだぞ」


「別に初日で終わらせても良かったんだ」


そう言うと、隊長と副隊長の肩が僅かに震えた。


二人は頭を下げたまま動かない。


その様子がおかしくて、俺は大声で笑った。


「はははは!」


「冗談だ」


「充分だよ」


「満足している」


二人は安堵したようだった。


俺はマリウスへ視線を向ける。


「宰相よ」


「この二人には褒美を与えておけ」


「忠義を尽くした者は報われねばならん」


マリウスは頭を下げた。


「承知いたしました」


隊長と副隊長も深く礼をする。


そして退出していった。


俺はマリウスへ尋ねる。


「伯爵一家はどこだ?」


「地下牢に収監しております」


「そうか」


俺は頷く。


「王妃と一緒に連れてこい」


☆★☆★☆★☆★☆★


しばらくして。


ジャック伯爵一家と王妃エリーゼが謁見の間へ連れて来られた。


王妃は父と母、弟の姿を見た瞬間、目を見開く。


拘束された家族の姿。


やつれた顔。


傷だらけの姿。


驚愕。


悲しみ。


怒り。


様々な感情が一瞬で浮かんだ。


そして最後に残ったのは――憎悪だった。


エリーゼは俺を睨みつける。


その目を見て、俺は笑った。


まだ理解していない。


まだ自分たちが何をしたのか分かっていない。


まだ自分たちが何を奪ったのか分かっていない。


この目を見るたびに、胸の奥の黒い感情が燃え上がる。


本当に素晴らしい女だ。


俺の怒りを忘れさせてくれない。


俺はジャック伯爵を見る。


「何故、王命に従わなかった?」


伯爵は唾を吐き捨てるように言った。


「誰が王だ!」


「お前は国を盗んだ盗賊だ!」


「王国の敵め!」


俺は静かに立ち上がった。


勇者の剣を手に取る。


そして伯爵一家へ向かって歩き出した。


広間の空気が張り詰める。


「お待ちください!」


マリウスが慌てて前へ出る。


「謁見の間です!」


「どうか刃傷沙汰だけはお止めください!」


だが俺は歩みを止めない。


するとゴージマ四世が玉座から飛び降りた。


そして俺の足にしがみつく。


「コウスケ様!」


「どうかご容赦を!」


「この者たちは愚かなのです!」


俺は無言で王を蹴り飛ばした。


ゴージマ四世は床を転がる。


それでも誰も動けない。


俺は歩みを続ける。


その時だった。


エリーゼが前へ出る。


そして家族の前に立った。


黙ったまま俺を睨んでいる。


俺は少し感心した。


「ほう」


「俺を止めるか」


返事はない。


それでも目だけは逸らさない。


俺は笑った。


「こいつの不敬は許し難い」


「それでも止めるのか?」


エリーゼは静かに頷いた。


俺はしばらく見つめた後、剣を下ろした。


「良いだろう」


「ならばお前が罰を受けろ」


広間がざわめく。


「王都の広場で鞭打ち百回」


「それで許してやる」


エリーゼは一瞬だけ顔を強張らせた。


だが逃げなかった。


黙って頷く。


俺は衛兵に命じた。


「連れていけ」


☆★☆★☆★☆★☆★


その日の夕刻。


王都中央広場。


王妃が柱に拘束されていた。


集まった民衆は困惑している。


何が起きているのか分からない。


いつもは遠くからしか見られない王妃が。


今は目の前で縛られている。


やがてジャック伯爵一家が連れて来られた。


「エリーゼ!」


「すまん!」


「許してくれ!」


「お姉さま!」


泣き叫ぶ声が響く。


そして鞭が振り下ろされた。


乾いた音。


王妃の悲鳴。


再び鞭。


また悲鳴。


広場は静まり返る。


誰も声を出せない。


三十発を超えた頃。


俺は姿を現した。


広場中央に椅子を置かせる。


その横にはゴージマ四世。


さらにマリウス。


王と宰相が立っている。


民衆は混乱していた。


なぜ王が立っているのか。


なぜ王妃が打たれているのか。


なぜあの男が座っているのか。


誰にも分からない。


それでも鞭打ちは続く。


王妃は俺を罵った。


「悪魔!」


「化け物!」


「人でなし!」


だが回数が増えるたびに、その声は弱くなった。


やがて罵声は悲鳴へ変わる。


悲鳴は懇願へ変わる。


「お願い……」


「もう……」


「許して……」


俺は黙って聞いていた。


八十発を超えたところで手を上げる。


鞭が止まる。


俺は立ち上がった。


「王妃よ」


優しく声をかける。


エリーゼは震えながら顔を上げた。


「その願い、聞き届けよう」


そう言うと、王妃は力なく首を垂れた。


俺は今度はジャック伯爵一家を見る。


「貴様らの罪の処分を王妃が拒んだ」


「よって処罰は裁き直しだ」


伯爵一家の顔色が変わる。


「後日、絞首刑に処す」


「そしてその姿を王妃に見せてやる」


ジャック伯爵が叫ぶ。


エリーゼが泣く。


弟が震える。


俺はそれを見下ろした。


「不思議そうな顔をしているな」


俺は笑った。


「二百年前のことだから関係ないとでも思ったか?」


誰も答えない。


「お前たちにとっては二百年前だろう」


「だが俺にとっては違う」


俺は空を見上げる。


「昨日のことだ」


静まり返る広場。


「昨日、人生を奪われた」


「昨日、家族も友人も未来も奪われた」


「昨日、使い潰された」


俺はゴージマ四世を見る。


「お前たちは勇者を称えた」


「英雄と呼んだ」


「その恩恵を受け続けた」


「そしてまた俺を呼び出した」


広場中が静まり返る。


「今さら被害者面をするな」


「ゴージマ王国は俺から人生を奪った」


「だから俺は返してもらうだけだ」


俺は大きく笑った。


「俺に歯向かう者には、とことん地獄を見せてやる」


高笑いが広場に響き渡る。


誰もその声を止めることはできなかった。


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