Climax
僕はジェニファーを連れて階段を登っていた。
ジャックが言っていた部屋はどこなんだろう?階段近くのドアが壊れた部屋なんて言ってたけど……
見つけた!あのドアだ!
十字に板を打ち付けられていたらしいドアが痛々しく砕かれている。きっとジャックが蹴り破ったんだ。何があるのかな……
しかし、ドアに近づいた瞬間に酷い異臭がして身を引いた。
「コーダ?」
ジェニファーが鼻を抑えて心配そうに声をかけてきた。
「ここで待ってて。中を見てくる」
僕はジェニファーを廊下に残し慎重に部屋に入った。
どんよりした空気が立ち込めてる。部屋の隅に物が散らばった事務机があるだけだ。その前には白衣を着て顔にスカーフを覆い被った人が……
いや、様子が変だ。被っているスカーフはジャックのスカーフだ。しかも作り物のようにピクリとも動かない……
まさか……
恐る恐るスカーフをめくる……
そこには干からびたドクロが浮かんだ。
「ひいっ!?」
死体だ!干からびてミイラ化している!
僕は驚きと恐怖が混ざった表情で尻もちを着いた。
「どうしたの!?何があったの?」
不審に思ったジェニファーがドアから覗き込もうとする。
「見ちゃダメだ!」
すかさず血相を変えて大の字に体を広げてジェニファーの視界を遮った。こんな恐ろしい光景、見せるわけにはいかない!
「絶対に見ちゃダメだ!ここで待ってて!」
困惑する彼女を廊下に押し返して、改めて死体に向き合った。
ジャックは
「この部屋に行けば俺の言ってることがわかる」
と言った。ここに重大な手がかりがあるはずなんだ。早速調べよう。(それにしても死体があるなら言って欲しかったよ。ああ心臓に悪い…)
怖い為遺体から離れた所から机の上を調べる。
医療器具にカルテ、皮のカバンだ。
カルテに目を通す。
患者名は「チャールズ・デイモン」。さっき聞いた名前だ!続きを読み進める。ドイツ語が少ししか分からないが医者の勉強をしてて良かった。
病名や薬などで件のチャールズがどういう経過で怪物化したかがある程予想できる。
チャールズは指定難病の「筋軟化症」に罹っていた(文字通り筋肉がみるみる柔らかくなり、最終的に壊死してしまう怖い病気)
それを藁にもすがる思いでDrドラモンドの作った筋力増強剤で治療を試みた。
しかし実験は失敗。筋軟化症は克服したが体が突然変異を起こし現在の姿になった。
その筋力増強剤の成分が書いてあるけど……
その中には一般的なステロイド剤以外に「エナジウム」という成分が入ってる。
なんだ?エナジウムなんて成分、聞いた事ないぞ?
不審に思いつつもカルテを読み進める。
この遺体=お医者さんは患者を元の人間に戻す為の研究をしてたらしく、鎮静作用の薬剤の名前が並ぶ……がいずれも失敗してる。
最後のページをめくった時にカルテとは違うメモ書きのような書類が出てきた。
なになに?
それは遺体=ウォルター・ヨーク氏からここに来た人に対する置き手紙だった。
これがジャックの言ってたことか。書かれてる「抹殺する薬」を僕に取ってきて欲しかったんだ。これでジャックの話が理解できたぞ!
僕は怖々亡骸の白衣のポケットを調べ始めた。
胸ポケットに薬品の入ったアンプルと写真を見つけた。きっとこれが例の薬剤だ!
写真には赤ん坊と女性が写っている。Drヨークの妻子だろうか?それはまだ置いておこう。先にアンプルだ!
注射の扱い方も勉強してて良かった。えーと、これを机の注射器に充填してと……
よし!これで準備はできた!無くさないようにポケットにしまう。
問題はこれをどうやってあの小さいの(チャールズ)に打つかだけど……
「ねぇ……なんて言ったの……?」
口から心臓が飛び出すかと思った。
慌てて振り返るとジェニファーが青ざめてすぐ後ろで佇んでいた。
「ジェニファー!見ちゃダメだっ…」
「答えて!今、誰の名前を言ったの!?」
「う、ウォルター…ヨーク……」
「……ウォルター…ヨーク!?」
オウム返しに名前を繰り返した。取り乱した彼女は僕を押しのけて遺体にすがり、床に散らばった書類を読み始めた。書類と遺体の顔を交互に見比べている。どうしたんだ?かなり狼狽している…
「……パ……パ……?」
立ち上がり更に彼女の表情が青ざめた。
今、「パパ」って言ったのか?
そのまま彼女は机に置いてある皮のカバンを手に取る。
カバンの隅の刺繍を見つけ凝視して、呆然とカバンをその場に落としてしまった。
「あ……あ……」
ゆっくりと言葉にならない声を呻きながら遺体に近づき、へたりこんだと思ったらそのまますがりつき、彼女は咽び泣いた。
「パパぁ!」
……まさか、ジェニファーのお父さんなのか?
確かに、半年以上前に蒸発したとは聞いていたけど……
ということはさっき見つけた写真の赤ん坊はジェニファーか?
「どうして……どうして……」
嗚咽する彼女を見て気の毒で仕方なかった。
まさかジェニファーのお父さんが、こんな所で変わり果てた姿で見つかるなんて……
無音の部屋で、ジェニファーのすすり泣きだけが響いていた……
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「Drヨーク、どうか安らかに眠ってください……」
神妙な面持ちで十字を切る。
僕はさらに決意が固まった。何としても彼女を守り抜いてあの化け物を止めないと!
この様子だとジェニファーはここに置いて言った方が良さそうだ。こんな状況で連れていくのは酷だ。
「ジェニファー…ここで待ってて。あいつは僕らで止めるから…」
背後から静かに声を掛けたら、彼女はキッと睨んで急に立ち上がった。
「私も行くわ」
泣き顔になり鼻息を荒らげながらなおも怒ったようにキリッと睨んでいる。
「ええ…?で、でも……」
「パパをこんな事にして……!アンや他の子達も酷い目に合わせて…!私は…!アイツらを…!許さない!」
タジタジになっている僕に彼女は顔を腫らして声を荒らげた。
僕は数秒の間酷く悩んだ。確かに彼女は大胆で度胸も凄い。でも、みすみす危ない目に合わせる訳にも行かない。かと言ってここに一人残すのもそれはそれで危険かもしれない……
数十秒悩んでようやく僕は結論を出した。
「……わかった!でも、少しでも危なかったら逃げてね」
ジェニファーは力強く頷いた。
部屋を出て僕はジェニファーの手を引いて廊下に出た。
「……大丈夫よ……一人で歩ける」
ジェニファーは恥ずかしそうに僕の手を離した。顔は腫れてるが涙は落ち着いて冷静になってきたみたいだ。
「そっか……」
本当に強いなぁ。周りの近しい人が凄惨な目に遭って、自分も命を狙われて、こんな状況になったら僕だったらきっと耐えられない。本当に彼女は強い。
「ところでさっき注射を持ってたけど、何するの?「あれ」に打つ気?」
穏やかに見つめていた所ジェニファーが眉をひそめて質問してきた。
「ええと、そうなんだけど……」
言葉に詰まってしまった。
一筋縄では行かない。さっきのアンプルに書かれてた成分を見た限り、単に打つだけじゃダメだ。血管から注射しなきゃいけない。
あんな動き回るものに対してどうやって打ち込もうか……
そう考えてふと顔を上げたら、
チャールズの顔が目の前にぶら下がっていた。
明かりの点いてない照明にぶら下がり研ぎ澄まされた巨大なナタを持っている。
「ふひょほほほほほはははは!」
舌なめずりをしつつ下品な歓喜の大笑いをしだした。
照明のそばの天井に穴が空いている。あそこから出てきたのだろうか?
「うわぁああああ!」
思わず後ろに飛びのいた。間一髪、奴の振り下ろしたナタを避けた。
「ジェニファー!走って!」
叫んだ僕は彼女の手を引き全力で反対へ走り出した。
「ふひょはははぁ」
大変気持ちの悪い笑みを浮かべて奴も追ってきた。
夢中で階段を駆け下りる……
(((ドンッ!)))
乾いた破裂音がしたと思ったら黒い何かが僕の頬を掠めた。
階段の下にマリア先生が待ち構えていた。先程のライフル銃を僕に向けていた。銃口からは煙が上っている。
「どこに行こうというの?」
ジャックに負けず劣らずな凶悪な笑みを浮かべている。
挟み撃ちだ!
「せっかくうちの坊やがかまって欲しがってるのに…酷いわねぇ…」
酷いのはどっちだ!
どうしても言いたかったがそんなこと言ってる場合じゃない。
僕らは階段を駆け上がった。
後ろからはナタを振り回してはしゃぐチャールズが追いかけて来ている。
「ふひひほひゃひゃひゃひゃ!」
階段で最上階まで来てひとつの部屋に逃げ込む!
殺風景な部屋だ。この状況を打破できるものはない。あるのは大きなクローゼットだけ…
待った!クローゼットなら時間稼ぎに使える!
すぐさまクローゼットをドアの前にずらし始める。
「ふんぬぬぬ!」
何とか間に合った。クローゼットでドアを塞いだ!
ドアの反対からナタを叩きつける音(偶に刃の一部がドアを貫通してこちらにめり込んできている)や強く叩く音が響いた。
すぐに部屋の窓から外を覗いた。
地上六階。すぐ上は屋上。手足を引っ掛けるようなくぼみは少なく、地上まで降りられそうもない。部屋を見渡したが脱出に使えそうなものはない。
なおもドアは強烈な勢いで打ち付ける音が聞こえる。
どうする……?どうする……!
「コーダ…考えがあるの……」
焦っているとジェニファーが静かに、覚悟を決めた硬い表情で僕に言った。
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数分後、僕らは窓から伝って屋上に登っていた。屋上出入口(他の階段から屋上まで行けるようだ)に隠れて強い不安に苛まれていた。
ジェニファーが、自ら囮になると言い出したからだ。カルテが正しければ、チャールズは先ず「乱暴」を働こうとする。きっと組み伏せてくるだろう。その彼女に気を取られている隙に僕が注射を打ち込むという作戦だ。
当然僕は猛反対した。彼女をそんな危険に晒したくないし、薬剤の効果がどれ位で出るかも分からない。そもそも効果が無いかもしれない(試作品で臨床実験もしていない)
しかし彼女は頑として引き下がらなかった
「アイツを倒せるなら、私は何をされても構わないわ!」
とまでいう始末だ。
「私はあなた達のようには闘えない。だったら出来ることであなたを手伝いたい」
とうとう折れて僕は渋々了承した。
こんな時ジャックがいたらなぁ……
考えていたら遂にチャールズが登ってきた。
屋上の真ん中で、ジェニファーが待ち受ける!
「来なさい!私はここよ!」
なんとも勇ましい。固唾を飲んで注射器を構える。
「ふひょほはははぁ!」
チャールズは踊るように跳ねならがら喜んでいる。
すぐさま走ってジェニファーに迫る。
彼女を押し倒して首元のコンクリート床にナタを突き刺した。
「う!くぅ…!」
ジェニファーは必死に揉み合いになり抵抗する。
チャールズは大変気持ち悪いニヤニヤ笑いを浮かべて服を引き剥がそうとする。
いまだ!!
僕は静かにチャールズの後ろに周り、首元に注射器を近づける。
しめた、血管がくっきり浮かんでるぞ!
落ち着いて……集中……最小限傷つけないよう血管に対して平行に……
プスリ。
針が通った!そのままプランジャーヘッドを押して薬剤を注入した!
異変を感じ、すぐにチャールズが僕に振り向いたた!
お楽しみを邪魔されたからか、怒りに顔を歪めている。
「ふはほぁあ!」
奇声を上げながら僕目掛けてナタを振りかぶってきた!
スウェーバックで紙一重で避けて後退する。
続けてチャールズは飛びながら再度ナタを振りかぶった。
またこのシチュエーションだ!薬剤は注入した!後は効果が出るのを待つだけだ!アンを投げ落とした時の感覚を思い出せ!やってやる!
前足を斜め前に踏み込み、ナタの振り下ろす軌道から身を外す。
そのまま片手で相手のナタを持つ腕を導きながら……
刹那、右腕に激痛が走り、目の前が真っ赤に染まった!
「うわっ!」
失敗した!人間離れした凄まじいスピードで右腕が切りつけられた!
僕はそのまま右腕を抑えて膝を着いた。
幸い、致命傷までいってないが腕に力を込められない。血も止まらない。
くそぅ、調子に乗りすぎた…あんな一回の成功だけで上手くいくわけ無かったんだ…
体制を立て直したチャールズがニヤニヤしながら再び鋭い鉈を振り上げた。
「ふひゃほはぁ!」
今度こそ終わりだ。世界がスローモーションで動いている……
向こうからジェニファーの悲鳴が聞こえる。
月光に照らされて血にまみれた鉈がギラリと光り、僕の頸動脈目掛けて振り下ろされる……
歯を食いしばりぎゅっと目を瞑る。
(ジャック……ごめん……!)
その時だった。
ナタが振り下ろされた瞬間、おヘソの下あたりから全身に向かってものすごい熱気が込み上げてきた!
身体が熱い。まるで暖炉に放り込まれたようだ。全身から熱い「何か」が、蒸気の様に青白い光として噴出しだした。
一体どうなってるんだ?
振り下ろされたナタは、僕を切り裂くどころか僕の体に弾かれ刃こぼれしていた。チャールズは驚いたように刃こぼれしたナタと僕を交互に見ている。
僕はゆっくりと立ち上がった。
右腕から「ミシミシ、メキメキ」と軋むような音が聞こえる。
「う……あ……ああ」
右腕を激痛と高熱が襲う!そのまま力んでいたら信じられないことが起きていた。
右腕の傷がみるみる塞がっていった。数秒の間に傷は塞がり、健康そのものになっていた。
怯んだチャールズが持つナタに自分が映り込んでいるのが見えた。
身体中を青白い光が走り、目からは青白い光の涙の筋が垂れ、少しだけ体格が大きくなっていた。
「ターボ」だ!僕は今「ターボ」を発動している!
「ふひはあぁ!」
チャールズが飛びかかってきた!
凄い!今度は動きが見える!
ギリギリで踏み込みうなじに手刀を打ち込み、そのままナタを持つ腕を引き上げチャールズの右肩から思いっきり地面に叩きつける!
今度は上手くいった!
背中から叩きつけられ咳き込むチャールズから距離を取る。よろよろと立ち上がった瞬間、すぐにチャールズの懐に飛び込んで顎に強烈な掌底を叩き込んだ!
「ぶば!?」
怯んだすきに前足を踏みつけバランスを崩し、そのまま全身を使いチャールズの体で大きく円を描いた!
「うわああああああああ!」
月夜に強烈なインパクト音が轟いた。
コンクリートにめり込みチャールズは失神した。
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俺は階段を駆け上がっていた。
六階に辿り着いた時にものすごい勢いで物を叩きつける音が上から響いたからだ。コーダ、ジェニファー!無事でいてくれよ!?
辿り着いたのは屋上の出入口だ。施錠されているが間違いなくこの先にいる!
「あーもうメンドクセー!!」
焦って苛立っていた俺は渾身の力を込めてドアノブごと鍵を破壊した!
勢いよくドアを開けて屋上へ踊りでる!
「コーダ!!ジェニファー!!……ありゃ?」
屋上を見て俺は目が点になった。
コーダは体から湯気を立てて床に座り込み、傍らにジェニファーが座り込み心配そうに介抱している。更にその傍にはブサイクな小さいのがナタを握ったまま床にめり込みノビている(ははぁ、さてはこいつが「チャールズ」だな?)
こりゃどーいう状況だ?
予想外の光景に俺はトコトコと二人に近づいた。その途中の床に微かに焦げ跡が残ってるのを見つけた。
まさかコーダのヤツ!
「やぁ、ジャック…」
「ジャック…」
肩で息をしながら二人が返事をしてきた。
「コーダ…オメー、まさか……」
「やったよ…ターボができた…」
コーダは弱々しく微笑みながら親指を上げた。
「おおお、ついににやりやがったかこのヤロー!」
こんな状況だが俺はつい嬉しくなっちまった。
コーダの肩に手を置き揺さぶる。
「こんにゃろー!俺が一年がかりで習得したターボをよくもこんなに早く成功させるたぁ、やっぱオメーはスゲーよキョーダイ!」
「え、えへへ……」
尚も照れくさそうに微笑む。ジェニファーもなんのことか分からねーだろうがとりあえず微笑んでいた。
「さぁ、グズグズしてられないよ。まだやることがあるんだ、うっぐっ…」
コーダはよろよろと立ち上がったがジェニファーが心配そうに支えた。
「大丈夫?あなたさっき光り出しておかしくなってたんだから、無理しないで」
「大丈夫だよ。それよりジャック、よく聞いて」コーダはキリッとして続けた。
「チャールズには薬剤を…ああ、Drヨークが残した例の「抹殺する薬」の事ね。それを打ち込んだけど本当に効くか分からない。それに先生がまだ残ってるんだ」
ヘロヘロになりながらも必死に立ち上がってきた。
そういやドクターの置き手紙に試験できてないと書かれてたな?っつーことはあの変態小僧、まだ生きてるかもしれねーのか。しかもオバンも残ってるとは……
……その立ち上がる根性は素直にすげーがそんな身体で戦えねーだろう。
「分かった。安心しろキョーダイ。あとは俺に任せろ。俺があのオバンをとっ捕まえてやる。んで、そのオバンは何処にいるんだ?」
コーダとジェニファーは急に真顔になった。
……何か変なこと聞いちまったか?
「そういえば私達、下で鉢合わせて逃げてから先生を見てないわ…」
「……なに?」
2人が不安げな表情になり始めたその時、背後から殺気と火薬の臭いがした。
「ヤベェ!!」
咄嗟に二人をかばい床に伏せた!
背後から銃弾が亜音速で俺の右肩を貫いていった。
「うっ!」
右肩が燃えるような激痛に苛まれる。
ジェニファーは悲鳴をあげ、コーダは目を見開いた。
「このガキ共ぉ!!」
後ろから怒号が鳴った。
振り返るとそこにはオバンが般若の様な形相でライフル銃を向けていた。
「よくも私の可愛い坊やを!お前たちだけは!お前たちだけは!」
本性を表しやがった、湯気立てて怒ってやがる。すげー表情だ。
「先生……どうしてこんなことを……」
ジェニファーが怒りと悲しみがごちゃまぜになった悲壮な表情で泣きながら問いかけた。
「お黙り!ジェニファー!貴方も坊やのために死ぬのよ!」
オバンがライフル銃を構え直していると、チャールズまでモゾモゾ動き始めた。やべーぞ薬が効いてねー。
「チャック!良かったわぁ。ちょうどあそこにご馳走とおもちゃがあるわよ」
どうやらご馳走とおもちゃとは俺らのことらしい。変態小僧が立ち上がり笑っている。
ちくしょー、盛り上がってきやがったぜ。
コーダは初めてのターボで体力を使い果たしてダウン。俺は右肩やられちまった。
幸いなのは利き腕(左腕)は無事な事だ。腹ぺこだがまだターボはいける。こうなりゃもうひと踏ん張りしようじゃねーか。
「ふひははーーーー」
起き上がった小僧がぴょんぴょん跳ねてかかってきた。よーし来やがれ!
満身創痍になりながら構えたその時、ジェニファーが耳をつんざくような悲鳴をあげた。
それと同時に異音が響き渡った。
何だこの音は?ビブラートの効いた甲高い高周波の振動音、まるで金属音だが不快にならない程度の振動音だ。
小僧が苦しみ出した。ナタを落として首を掻きむしっている。薬が効いたのか!?
「坊や!どうしたの?しっかりして!」
オバンがライフル片手に小僧に駆け寄った。
そして小僧を抱きしめた瞬間…
小僧がオバンの頸動脈を爪でえぐり割いた。
首元から噴水のように鮮血が吹き出した。
「ぼ……ぼう……や…………」
オバンは悲しそうな顔をして倒れ、動かなくなった。
小僧はその場で見境なく暴れている。
あれはファイナルアタック(野生動物が死に際に起こす大暴れ)か?
呆然として眺めていたら小僧が口からどす黒い血を吹き出し、ゆっくりと倒れた。
謎の振動音も治まってきた。
……何が起こったんだ?
3人でへたり込んでいたら、遠くの空が白んできた。




