88話 異次元トラック。
88話 異次元トラック。
――今日は運命の日。
この日、センエースは死ぬ。
そして――異世界へと転生する。
多くの信者が、それを理解していた。
ゆえに世界は総力を挙げ、運命を拒絶しようとした。
地上から地下深く。
幾重にも装甲と結界を重ねた、完全密閉型避難シェルター。
その最深部に、センエースはいた。
外界との物理接続は完全に遮断。
空気、電力、情報、すべてが独立系統で維持されている。
侵入経路は存在せず、脱出経路すら厳しく制限されている。
その周囲を、さらに幾重もの警備網が覆う。
上空では軍事衛星が常時監視を行い、地表にはドローンの編隊が隙間なく巡回。
半径数キロ圏内は完全封鎖され、あらゆる車両、あらゆる人員が排除されていた。
電子的な監視もまた完璧だった。
通信はすべて管理下に置かれ、未知の信号は発生と同時に遮断される。
人類史上、最大規模の防衛体制。
その中心に、センエースはいた。
白い照明に照らされた、無機質な空間。
壁も床もすべて均質で、影すら薄い。
その中で、センは雑に寝転がり、静かに笑っていた。
「無意味だよ、カルゲ。俺の死は、おそらく、シュタイ〇ゲートの選択だ。何をしようと回避できない。母さんも、結局、色々対処したけど、心筋梗塞で死んだし」
センが13歳の時、ステラは心筋梗塞でなくなった。
救世主を産んだ聖母の死は世界を大いに揺るがした。
ちなみに、田中・イス・咲紅爛も事故で死んでいる。
センエースが何をしようと絶対に避けられない『先天的寿命』という名の『死の運命』は存在する。
対面するカルゲは、わずかに眉を寄せ、
「英雄を殺す運命を、私は拒絶する。この世界にセンエースは必要だ。絶対に手放さない」
続けて星桜も、
「ボクも、この歳で未亡人になるのは勘弁っすね。運命なんかねじり殺す」
「感動的だな、だが無意味だ。既に俺のダンス相手はハードラックだと決まっている」
★
「最終チェック、完了。全セクター異常なし」
「監視系統、全グリーン」
「外部侵入経路、ゼロを維持」
無線の向こうで、報告が淡々と積み重ねられていく。
完璧だった。
理論上、この状況で『事故』は起こりえない。
交通事故はもちろん、暗殺者による殺害も、毒物による死も、隕石による死も……あらゆる死という死を拒絶する隔離空間。
「完璧な警護体制だ」
「流石にこれだけやれば、さしもの運命といえど、救世主を殺すことはできないだろう」
「可能性としては……心臓発作とか?」
「メディカルチェックも完璧だよ。医師も世界屈指級が徒党を組んでスタンバっている」
――間違いなく守り切れる。
そう思った時期が、人類にもありました。
しかし、空間が、わずかに歪んだ。
――そう認識した次の瞬間、そこにあった。
トラック。
白い車体の、ありふれた配送用トラック。
シェルターの最深部。
侵入不可能なはずのその場所に、それは何の違和感もなく突入してきた。
空間を切り裂くように、
運命を配送するように。
「はぁああああ?!」
「ど、どこから現れた?!!」
監視カメラはそれを映している。
ログに、異常はない。
センサーも沈黙したまま。
慌てふためく周囲を尻目に、
センは薄く笑って、
「……だろうな」




