89話 ひゃっほい。
89話 ひゃっほい。
せまりくる異次元トラックを前に、
カルゲが泣きそうな顔で、
「待て、やめろ……奪うな……やめてくれ……この世界から……私から、センエースを奪わないで……」
少女のように懇願するカルゲ。
いつもの凛とした『ISA長官としての威厳』は、そこにはなかった。
星桜は血走った目で、
「ふざっけんな、くそがぁああああ!! やめろぉおおおおおおおおおお!!」
必死に拒絶するカルゲと星桜だが、運命は止まらない。
無慈悲に、トラックがセンエースの体をさらっていく。
衝突。
音が、遅れて響いた。
鈍く、重い破砕音。
均質だった空間が、一瞬だけ現実に引き戻される。
「「センッ!!」」
カルゲと星桜の絶叫。
真っ青な顔で、彼女の心臓も止まりそうだった。
警備部隊が一斉に動く。
銃口が向けられ、制圧命令が飛び交う。
「車両確保! 運転手を――」
犯人を徹底的に糾弾しようとした……が、
「……き、消えた!?」
そこにあったはずのトラックは、もうなかった。
最初から存在しなかったかのように。
ただ、床に残された痕跡と、
動かなくなった少年だけが、そこにあった。
やがて、この事件は結論づけられる。
――人の手では介入できない、世界線の収束。
どれほど抗おうと、どれほど備えようと。
決められた結末は、必ず実行される。
★
世界は、涙に沈んだ。
センエースを失った喪失は、国家の枠を越え、宗教の枠を越え、文明そのものを揺るがした。
やがて、センエース教による大規模な追悼儀式が、世界中で執り行われる。
その中心で。
カルゲと星桜は、ともに深く息を吐いた。
「……これが運命論の結論というわけか。なんとも無慈悲な話だ」
「……別に、これで全部終わったわけやない……センは転生しただけ。やり方しだいで必ず再会できる……絶対にボクは彼を諦めない」
★
そんなこんなで、『第一アルファ』から、異世界『第三ベータ』に転生したセン。
「ひゃっほい! やっと異世界に転生できた! やっぱ、いいねぇ! 異世界いいねぇ! 制限なしで魔法が使えるのと、普通にレベルが上がるの最高だねぇ! 第一アルファ、ダルかったぁ! やっぱゴミ! なんの価値もない世界! もう二度と帰りたくないねぇ! フゥっ!!」
ここから、剣と魔法のファンタジーライフがはじまる。
『かつてのセン(理銀のカギを使う前)』は、この第三ベータで、
『59年ほどかけて、2000万匹以上のスライムを殺し続ける』という、
非常に頭の悪い『地味なレベル上げ』をしていた。
効率は無視して『地味な土台作り』に大量の時間をかけた。
それ自体は正解だった。
ある意味で非常に効率的だった。
おかげで、確かな力を獲得することができたから。
――しかし、今回のセンは、そんな悠長なベビーステップに目もくれない。
土台なら、すでに十分なものがある。
2垓年の知識と、第一アルファでの下地。
――よって、雑魚スライムになど目もくれず、
初手から全力で、『龍』を狩りまくった。




