85話 きれいごとはいらない。
85話 きれいごとはいらない。
「――『バカ親を捕まえて終わり』じゃ意味ねぇ」
ISA会議室でセンは言う。
提案されたのは、
新しい管理システム。
一言で言えば、児童保護施設と親の矯正施設の併合。
子供を隔離したり、
虐待親を刑務所に入れるだけではなく、
親子ともども、心理矯正と教育を受けさせる施設。
「親になるのに資格は必要ないが……『覚悟のないバカ』には『資格』を強制的に獲得させる。まずはガキが受けた痛みをそのまま与える。同時に、強制労働と、極端なほどの厳格な生活を強いる。必要なのは、二度とここに戻ってきたくないと心底から思い知らせること。痛みなくして人は反省なんかしねぇ」
「何をしても反省しない者はどうする? 罪人の大半は出所後に再犯する」
「どれだけの痛みを受けても反省できないやつは、社会から永久に断絶する。命の最前線に、きれいごとはいらない。命は平等じゃねぇ。まっとうに頑張って生きている奴の命は、手前勝手な罪人の命の万倍重い。ミスを反省する気があるなら、例え人殺しであっても、まっとうなやつカテゴリに入れておいてやってもいいが、反省する気すらないゴミは人じゃねぇ。血の色すら聞いてやりたくないね」
★
施設の建設資金。
それは、センの未来知識から生まれていた。
未然に回避された金融危機。
先読みされた資源市場。
適切なタイミングでの国家投資。
世界は大きな損失を回避し、
その一部が、静かに回される。
それプラスして、星桜が正史でやっていたように、
犯罪組織が貯め込んでいた金をゴッソリと回収していく。
金を集めるために、センは一切手を抜かない。
金の重みを、センエースは正しく理解している。
「金は命より重い……時もあるっ!」
★
――施設の運営記録を眺めているセンに、
カルゲが、
「どうしてそこまで聖人でいられる?」
そんな質問を受けて、
センは、モニターを閉じると、
鼻で笑い、
「はい?」
「望めばなんでも手に入る身分でありながら、なぜ、己の欲望ではなく他者の安寧を求める?」
「この世で最も愚かな質問の一つだな、レオ〇オ」
「カルゲだ」
「短絡的にモノを見るのはアホの愚行だぜ、カルゲたん」
センは鼻で笑ってから、
「あのユズってクソガキは、放っておくと、将来、存在値数百京ぐらいのバケモノになる。他のネグレクト経験者も、似たような結果になる可能性は十分にあるだろう。第一アルファ人はポテンシャルが有能すぎて、悪側に上振れした際のマイナスインパクトがデカすぎる。その芽を摘んでおくことは、将来的な俺の利益につながる」
「……」
「でかい家だのいい車だのうまい酒だの、そんなもんいくらあっても、『全部をぶっ壊そうとしてくる巨悪』の前では何の価値もねぇ。最優先すべきは世界の安寧。世界が終われば俺も終わる。目先の金より、巨悪になりうるガキの隔離。ただの損得勘定だよ。俺は俺の利益のためにしか動かない」
「……」
「なんだ、その目は」
「あと80年はやく産まれていたら……星桜と同じく、君にプロポーズしていたよ」
「たかが80年を、遠い数字みたいに呼ぶんじゃねぇよ。こちとら2垓年生きてきて、その上で、また2垓年生きようとしてんだぞ」
「ふふ……凄まじい話だ」
「アホな話と言ってやってくれよ、せめてもの慰めに」




