35話 閃光。
35話 閃光。
――5000億年が経過した頃には、またセンはぶっ壊れていた。
必死になって、折れることなく、馬鹿みたいに地道にコツコツと、
気が遠くなるベビーステップで、センエースは、積み重ねていく。
8000億年、9000億年と、繰り返していくセンエース。
繰り返す、繰り返す、繰り返す。
――そして、ついに大台となる1兆年を超えた。
センは途方もなく強くなった。
けれど、まだ足りない。
ここはまだスタート地点ですらない。
★
血と肉が渇いて、眼球がジュワっと干からびそう。
五感の全部が痛みを伴うほど研ぎ澄まされていく。
逆にすべての感覚がモノクロになる瞬間もあった。
じくじくと、魂のどこかが腐っていくのを感じる。
ばきばきと、自分の刀心が壊れていくのを感じる。
ぐにぐにと、根幹の背骨が歪んでいくのを感じる。
★
――繰り返し続け、ついには『5兆年』を超えた。
ありえないほどの地獄を積んで、センエースは、極端な力を手に入れた。
流石に、もう誰が相手でも楽勝。
そう思った。
――だが、ここで驚愕の新事実が判明。
『悪神・蝉原勇吾』の強さが、
『想定をはるかに上回る』という最悪の事態。
蝉原に勝とうと思ったら、『200兆年』は積まないといけないらしい。
流石のセンエースも、この前提を前に膝から崩れ落ちた。
体が動かなくなった。
全部無駄だった。
意味なんてなかった。
頑張る事には、結局、意味なんてないんだと悟った。
努力は才能には勝てない。
この世にはバッドエンドしか存在しない。
……けど……
『……ほしいものがあった……』
『……どうしても……ほしいものが……あったんだ……』
『……せんおにいちゃん……たすけて……』
『……輝く明日を……大事な命をぜんぶ守れる力が……どうしても、ほしかった……』
『……俺は、まだ持っていない……』
悩み、苦しんだ末に、センは、立ち上がった。
どれだけ辛くても、前を見る。
そうやって生きていくと決めた誓いをレプリカにしないために。
大事なもの全部を完璧に守りきるために。
★
10兆年……20兆年……50兆年……ひたすら地道に時間を重ねる。
一分、一秒を、じっくりとかみしめながら、一つ一つの課題と向き合い、前に進む。
――センエースの永い旅も、だいぶ遠いところまできていた。
★
――『100兆年』を超えた時、センエースは、恐ろしく強くなっていた。
強くなった……が、その分だけ、心は摩耗している。
『ぐぎゃがやが【やが《やがやが『「やあやあややややや「やあ』ああああああああああ」あああああああああああ」」ああ》ああ】あああ」あ」』
心の完全崩壊は、もう目の前。
それでも歯を食いしばる意味を、自分に問い続ける。
★
120兆……150兆……170兆……
一足飛びの裏技やバグ技なんてない。
地道に、一つ一つを積み重ねていく。
『もういいよ』と。
『わかった』と……言いたくなるほどに、
『いつまで同じことやってんだ』と文句を言いたくなるほどに……
――ただ繰り返し続ける。愚かに。惨めに。分様に。美しく。
★
177兆年が経過した時……センは一度、壊れた。
アダムに心臓を貫かれたセンは、ボソっと、
『お前は綺麗だな……アダム……実は俺、お前のこと、めっちゃ好き……』
無意識に飛び出した言葉。
それに対し、彼女は、
『消えろ、おぞましい悪魔め』
『……ふふ……はは……はは……』
『なにがおかしい。気持ち悪い』
『……辛い……なぁ……』
★
180兆年が経過した。頻繁にヘラったり、ピーピー泣いたり、ストレスで全身が痙攣したり、爆発級の頭痛に見舞われたり、たまに目が見えなくなったり、まれに耳が聞こえなくなったり、喉がつまって呼吸ができなくなったり、暴力的な倦怠感で指一本動かせなくなったり、諸々、なんだかんだ、すったもんだありながらも、どうにかこうにか、頑張り続ける。
★
――『190兆年』が経過した。
センは『心の労働組合との闘争に明け暮れる日々』を過ごしている。
『心のセンエースエンジン』と『体のセンエースエンジン』が、
毎日毎日『終わりの見えない世界大戦』を繰り広げ続けている。
センエースエンジンなんてものは存在しない。
そんなものは嘘さ。
寝ぼけた人が見間違えたのさ。
……焦点の定まっていない目で虚空と見つめ合いながら、
センエースは、今日を積んでいる。
『実質永遠』を、何度も何度も繰り返して、
『命の答え』みたいなものを追い求めていく。
『命に答えなんてないんだろう』なんて、
賢しらな言葉でお茶を濁すのも飽きた。
悟った風な言葉遊びで、世界を斜めから見たところで痛々しいだけだって気づく。
けれど、その気づきだって、時間の経過を経て、また別の意見に代わっていくんだ。
『そうやって繋いでいく意思』のことを――『命』と呼ぶんだろう、
――なんて、ハンパな結論で世界をケムにまいてみたりして。
中身のない言葉で世界をケムに巻く『ファントムトーク』だけが魂魄の支え。
まともに向き合ったら壊れてしまうだけだから。
★
無我夢中で駆け抜けてきた『実質永遠』の中で、ふと足を止めて、後ろを見てみた。
駆け抜けてきた茨道は、とても人が通れるとは思えない、血だらけの男坂。
グチャグチャになった足と、血だらけの足跡だけが、今、ここにある……命の答え。
――センエースは、
『……さあ、いこうか……』
死んだ目で、『死んでいない言葉』を口にする。ゴールは、まだまだ遠いけれど、今日という日を積み重ねれば、確実に少しは近づくから、歯を食いしばって、前を向く。
大丈夫。まだ歩ける。
『もう少しだけ頑張ってみる』
そのセリフを……一生、言い続ける。
★
……そして、達成した……200兆年。
『死銀の鍵』は完全に砕け散った。
――馬鹿みたいに多くの時間を積んだ凶神センエースは、
――その全ての『積み重ね』を背負い、戦場へと望んだ。
敵は確かに強大だった。
悪神セミハラユーゴは、本物のカリスマを有する絶悪。
有能な人間しか生まれない『第1アルファ人(日本人)』の中でも飛びぬけて優れた才能と思想を持つ狂人。
ゆえに戦いも舌戦も苛烈を極めた。
想いをぶつけあって、殴り合って、魔法もスキルも散々使って、それで……
『センくん……わかるよ。君の全部が花開く……そうして【完全な存在になった君】を……俺は超えるんだ……それが、本当のフィナーレ。この蝉原勇吾こそが生命の終着点!』
そんな宣言をしてくる『悪神セミハラユーゴ』に、センは、
『……ナメんなよ、蝉原……』
とことん上から、
『俺が今から届く世界に……お前の居場所はねぇよ』
繰り返してきた命の業。
病的なほどの献身。
多くの命を愛して、多くの命に愛されて、
だから――センエースは――
――ほんの少しだけ、自由になる。
「――【【永久閃光神化】】――」
ここではないどこかの外。
とてもまばゆい雷の円環。
破格に美しい結晶だった。
――すべての命がセンの輝きに目を奪われる。
無数の『輝く龍』を背負い舞う、雷神のような閃光。
恍惚を超えて、もはや罪悪を感じる。
これほどの『喜び』が他にあるだろうかと心酔。
……センエースがたどり着いた『輝きに満ちた今日』は、
――神化の向こう側。
命の到達点。
『最終固有神化』。
『本物』を積んだ神だけが辿り着ける極地。
これまで、センエースを抑えつけていた『いくつかの命の縛り』が砕け散る。
その、あまりにも『荘厳』が過ぎる『異次元の光』を目の当たりにした蝉原は、
『は、はは……かっこいいなぁ、セン君は。間違いなく、疑いようがなく、君が、君こそが、全てを照らす光……俺では超えられない永遠の輝き……』
想定をはるかに超える閃光を前に、膝を屈するしかなかった。認めざるを得なかった。
涙すら流して、センエースの光を見つめた。
……そのあとは、もう、闘いにならなかった。200兆年を積み、真なる覚醒を果たしたセンエースに勝てる者など存在しない。しなやかな暴力が蝉原の命を砕いた。
肉体も意識も、完全に、この場所から消えてしまった。
サラサラと、ゆらめいて、世界の中心へ溶けていく。
こうして、センエースは、『輝く明日』を、自力でつかみ取ったのだった。




