12話 彼のことを分かっていない。
12話 彼のことを分かっていない。
苦悶を抱えるレン。
だが、その感情は一切、表には出さない。
表情は無機質なまでに整っている。
視線も姿勢も、完璧に『従順な優等生』を演じていた。
呼吸すら一定に保ち、余計な力みを排除する。
ほんのわずかな違和感すら拾われかねない場であることを、理解しているからだ。
この場で余計な感情を漏らすことが、どれほど愚かなことかは理解している。
だからこそ、内側でどれだけ毒づこうと、外側は一切揺らさない。
その隣に立つミカンは、まったく別の意味で動じていなかった。
ドナの言葉を、正面から受け止めている。
彼女は紆余曲折の果てに蒼穹原典を獲得し、神という存在の規模と、その裏側にある膨大な痛みを、ある程度まで理解している。
だからこそ、ゼノリカの狂信には同調しきらないまでも、その中心にいる神帝センエースへの敬意は本物だった。
ドナの語る賛美は、さすがに過剰ではあるが、完全に空虚とも思えない……という認識。
ドナの言葉の奥にある『実在する重み』を、彼女は知っている。
だからこそ、その温度差を、否定も肯定もせず、ただ静かに受け止めている。
さらにその隣。
ユズは、わずかに苦笑を浮かべていた。
センエースに救われた過去を持つ彼女にとって、センエースという存在は確かに特別。
間違いなく特別な感情を抱いている。
だが――
(これは……彼、嫌がるでしょ、普通に……重すぎるって、流石に……)
ドナの語りは、さすがに度を越している。
ユズは、もともと、かなり冷めた女で、誰か一人に対して狂ったように傾倒する性格ではない。
だからこそ、目の前で繰り広げられている『信仰の熱量』に、少し引いている。
(……センエースのことを、何もわかっていない……ま、別にいいけど。そうやって、勝手に嫌われていればいい。……その分だけ、距離感を理解しているアタシの価値が、彼の中で上がる)
そんな感想を抱きつつも、表情は崩さない。
軽く笑っているように見えるのも、単なる癖。
その笑みは、場に対する適応であり、本心の露出ではない。
そして――
四人目。
最後の一人は、心ここにあらずといった表情だった。
死ぬ気で心を殺しているような――そんな風にも捉えられる奇妙な表情。
ただ静かに、ドナの言葉を聞きながら、ひたすらに堪えている。
周囲の熱も、視線も、言葉も、すべてを『外側の出来事』として処理しようとしているように見えた。
この中で唯一の男――彼の名前は『ペン・ケース』。
中肉中背で黒髪。
姿勢は悪くないが、どこか印象に残らない立ち方をしている。
意識して『埋もれている』ような、不自然な自然さ。
他の三名が軒並み美女そろいであることもあり、余計に目立たない。
顔立ちは……なんとも特筆すべき点がない。
まるでギャルゲーの主人公が如き平凡さ。
あえて数値化するならば、顔面偏差値は48といったところ。
――だからこそ、誰も注視しない。
誰の記憶にも、強くは残らない。




