11話 本来は、そんなに簡単に昇格できませんよ、と。
11話 本来は、そんなに簡単に昇格できませんよ、と。
ドナが一歩前に出る。
床に刻まれた紋様が、彼女の動きに呼応するように微かに光を変えた。
それだけで、場の空気が一段、引き締まる。
ゆっくりと視線を巡らせ、四人を一人ずつ値踏みするように見たあと、口を開いた。
「――もし、そなたらが末席昇格試験に見事合格した暁には、その全員を、我が直系の配下として迎え入れることとなる」
声は低く、静かでありながら、講堂の隅々にまで澄み渡るように響いた。
拡声の魔法など不要だった。
言葉そのものが、場を支配していた。
「本来、ゼノリカにおける昇級は、厳正かつ苛烈な基準のもとに定められている。段階を踏まずして高位へ至ることなど、まずもって許されぬ。しかし――そなたらには、その例外的特権が与えられている」
ゆるやかに細められた双眸の奥で、黒い熱が揺らぐ。
それは歓喜であり、選別の愉悦でもあった。
「それがいかなる意味を持つか、理解していような。選ばれし者であるという事実は、単なる栄誉にとどまらぬ。大いなる祝福には、大いなる責務が伴う」
わずかに顎を上げ、見下ろすように言葉を重ねる。
その視線は、個人を見ているようでいて、同時に『素材』として値踏みしている冷たさも帯びていた。
「この世界で研鑽を積む許可を与えられているそなたらはすでに、この上ない恩寵を賜っている。そのうえでなお、九華の末席という座に至る可能性まで与えられるとは――まこと、僥倖というほかあるまい」
声の奥に、抑えきれぬ恍惚が滲む。
その熱は、聞く者の皮膚にまとわりつくように重かった。
「そのすべては、ひとえに――この上なく尊き神帝陛下の御導きの賜物に他ならぬ」
そこから先は、もはや儀式に近かった。
神帝センエースへの賛美。
その偉大さ、尊さ、そして救済。
繰り返される言葉は、内容よりも『信仰の強度』そのものを示しているようだった。
講堂の空気が、じわりと濃くなる。
まるで見えない圧が満ちていくかのように、息苦しさすら帯びていく。
それを真正面から受け止めている者もいれば、ただ流している者もいる。
壇上に立つ四名も、反応はそれぞれだった。
(う……うざすぎる……)
幹部候補の一人、レンは、内心で顔をしかめていた。
(いつまで喋ってんだ、このオバハン……もういいって……長いって……もう2時間経つぞ……)
時間感覚は正確。
途中で時計を見ることもできない状況でありながら、彼女の中では秒単位で経過が刻まれている。
それだけ、この時間が苦痛だった。




