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32話 六日目 その2

「業天が勝つとはな……」


「しかも、能力を身に纏《まと》う戦法か……黒神のやつ、よく勝ったな……」


 亮太たちは試合会場へ向かいながら、先ほどの試合を振り返っていた。


「アイツが特殊なんだよ」


 亮太が吐き捨てるように言う。


「氷のドームで細かい動きは見えなかったが……間違いなく身体能力も反射神経も上がってる。それを真正面から叩き潰した」


 苦虫を噛み潰したような顔して、続けた。


「——異常だよ。だからあれを基準にするなよ」


 その言葉に、阿久津は肩をすくめる。


「言われなくても分かってるさ。むしろ逆だ」


「……あ?」


「みんな、気を引き締めてる。国能附を倒したんだからな」


 短い沈黙。

 亮太はわずかに口元を歪めた。


「そうだな」


 そして前を見据える。


「んじゃあ、やりますか」


*****


 市街地エリア。

 無機質なビル群が規則的に並ぶ人工の戦場だった。

 広い道路、入り組んだ路地、無数の遮蔽物《しゃへいぶつ》。

 視界は通る——だが、死角もまた多い。

 ガラス張りの外壁は光を反射し、位置感覚を狂わせる。

 ——隠れる場所には困らない。

 しかし同時に、どこから撃たれてもおかしくない。


 亮太たちは前回と同様、象徴機械《レガリア・コア》を隠し、ありとあらゆる場所に罠を張る作戦をとっていた。しかし——。


「これで三つ目か」


 爆音が響く。だが罠に引っかかったのではなく、正確に罠の張ってある位置を能力で破壊しているのだ。


「しかしどうやって場所を特定している?」


 亮太はビルの高い場所に身を隠しながら、思考をまとめるように独り言を呟く。


「なんらかの能力の可能性が高い。だとすると複重能力者《マルチスキル》だよな。だが」


 一呼吸置いた。空気が重くなった気がした。


「それが全員の可能性があるだと……索敵《サーチ》能力に、攻撃性の高い能力を身に纏う技術……厄介極まりないな……」


 苦笑いを浮かべ、冷や汗をかく。


「問題はどうやって、索敵《サーチ》能力を使っているかだ。何故か、感知出来ないぞ」


 亮太の罠には索敵《サーチ》能力を逆探知する機能を備わっているのだが、それが機能せず破壊されているのだ。


 次の瞬間、窓ガラスが破壊され、一人が侵入した。


「……なっ!?」


 その選手は、手足に水でできた鉤爪のような籠手《こて》を装着し、さらに全身を覆う鎧を身に纏っている。


「……どうやって、諜報双封《ちょうほうそうふう》の撹乱《かくらん》を潜り抜けたんだ?」


 警戒態勢を取りながら、時間稼ぎにそう問いかけた。


「ホントだ、同じ顔が二人いる。アレはニセモノで、オマエがホンモノか」


 相手は惚けた顔でそう言い、亮太は冷や汗をかく。


「えっと、どうやって見つけたかだっけ? ……カンだけど」


 亮太は言葉を失った。だがすぐにその場から撤退を始める。


(冗談じゃねー! ふざけんな! どおりで索敵《サーチ》能力の発動を感知できないわけだ!)


 逃げる亮太を追って、相手は獣のように身を低くして走った。


(こんな野生児があと二人!? 勘弁してくれよ。索敵《サーチ》能力持ちの複重能力者《マルチスキル》の方がまだ現実的だぞ)


 亮太は通信機を取り出して、


「阿久津、作戦変更。相手の象徴機械《レガリア・コア》を一旦探すのをやめて、俺たちのを守ってくれ!」


『わかった、けど何で走っているんだ?』


「追われているんだよ!」


 すると通信機の奥から、ガラス片が割れる音が聞こえる。


『………ッ!? 悪い、こっちも捕捉された! 通信を切る!』


「クソ、佐々島。お前はどういう状況だ?」


 しかし数秒経っても応答がない。

 やられているわけでは、ないはず。敗北していれば、アナウンスがされるはずなのだ。


「おい、返事をしろ!!」


『……コチラ佐々島。手短に話す。敵と接触中。悪いがあんまり話せない』


 ようやく返事が来たかと思えば、それだけを言って一方的に通信が切れる。ただ声は楽しげであった。


「例のカンで俺たちを捕捉して、全滅狙いか……しょうがねー」


 亮太は足を止め、敵と向き合い。


「——水獣武装」


 止まったのに気づいて、相手は鉤爪を剣に変える。


「防戦はいけるが、倒さないと……か」


 人工心器の拳銃を構えて、苦笑いを浮かべた。


「じゃあ……やりますか」


*****


 佐々島は戦斧を振るい、業天の指揮官は雷の能力を纏い、力と力をぶつけ合っている。


「アハハッ、黒神のやつはどうやって、お前を倒したんだ?」


 佐々島は戦斧を振るい、テンションを上げながら話しかけた。


「動きが直線的だってよ! まったく明星は、交戦的なやつが多いな!」


 業天の指揮官は牙を向きながら吠える。

 そして、豪雷を纏い、獣の如く突進してきた。


「確かに直線的だが、速いぞ! なんで黒神は対処出来たんだ?」


「この動きに対応してくるヤツが、何人もいてたまるか!」


「じゃあ、その動きに対応してくるヤツの一人になってやるぜ!」


 佐々島が接近し、戦斧を兜割りの要領《ようりょう》で大振りに振り抜く。だが——


「テメェこそ、直線的だな! そしてオレよりおせぇな!」


 業天の指揮官は斜めに跳び、ビルに張り付く。電磁波によって鉄骨に吸い付くように足場を得て、そのまま壁面に立っていた。


 強く蹴って文字通り、電光石火の如く佐々島に向かう。その衝撃でビルの窓ガラスが割れて宙に舞った。


「はぁぁぁあああ!!」


 佐々島は道路のコンクリート掴み上げ、数メートルの破片を業天の指揮官に向かって暴投する。


「そんなモンで、オレを止められると思うなー!!」


 コンクリート片を雷の鉤爪で切り裂き、そのまま突っ込んだ。


「じゃあ、これならどうだ!!」


 佐々島は今度はビルの壁面《へきめん》を掴み、約三分の一を持ち上げる。そして、それを暴投した。投げたと同時に、ガラス片が飛び散る。


「単純な『怪力』ってところか。——関係ねーな!!」


 業天の指揮官はそれも切り裂いた。だが、今度は壁面やコンクリート片が無数に飛んでくる。


 それらを切り裂き——

 砕けた瓦礫《がれき》を足場にして、さらに加速した。

 距離が、一気に詰まる。


「オレはこの二日間でさらに強くなった。アイツ以下のオマエに負けるわけがねぇ」


 佐々島に強い電気ショックが加わった。

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