31話 六日目 その1
「さてと、そろそろ試合か」
亮太は立ち上がったまま、モニターを凝視する。
「五日目までの貯金で、俺たちと国能附はシードだ。一回戦はパス。その分、相手の試合を見てから動ける」
「いいねぇ、さすが指揮官様」
快活に笑うチームメイトの佐々島。
「その呼び方やめろって言ってんだろ、馬鹿。それに『ライディング・ウィング』の決勝、明星はあまり結果出せてないしな」
「……ああ。四試合連続で業天が優勝してる。このままだと、あいつらが一気に上に来る」
同じくチームメイトの阿久津が低く呟く。三人は控え室を出て試合会場に向かった。
「さっき勝ったのは北辰か……微妙なとこだな」
「鬼龍院。それで、作戦は?」
佐々島は複雑そうな顔しながら呟き、阿久津は真面目な声で話す。
「あの動きなら——決めた」
亮太は少し逡巡した後、言い切った。
「アレで行く」
そして、わずかに口角を上げる。
「――勝つぞ」
『おう!!』
その目には、すでに勝ち筋が見えていた。
『レガリア・サプレッション』競技ルール
•三人一組で行われる対戦型チーム競技である
•各チームには、指揮官役の選手が一名設定される
•各チームのには、象徴機械が一基設置される
•トーナメント方式
フィールド・試合条件
•本競技は、専用フィールドで実施される
•フィールドには、草原、市街地、森林、砂漠、遺跡など、ランダムに選ばれる
•使用フィールドは試合ごとに抽選で決定される
•地形、遮蔽物、高低差、視界条件はフィールドごとに大きく異なる
•戦闘エリアの半径は五キロメートルである
•競技の制限時間は十五分間である
•試合中に戦闘エリアの縮小は行われない
勝利条件
•以下のいずれかを達成したチームを勝者とする
- 相手チームの指揮官を戦闘不能状態にする
- 相手陣地に設置された象徴機械を完全に破壊する
•制限時間内に決着がつかなかった場合、 象徴機械の残存状態および指揮官の戦闘継続状況を基準に勝敗を判定する
•象徴機械は競技用に設計された高耐久機械構造体である
•短時間での破壊は困難である
•特定の攻撃手段や属性によって、一方的に破壊されることはない
•制圧、妨害、連携を伴う継続的な攻勢によってのみ攻略が可能となる
•本競技では、撃破、制圧、妨害、連携を含む総合的な戦術判断力が求められる
遺跡エリアは、崩れかけた石造建築が連なる迷路のような構造をしていた。
ひび割れた壁、半ば倒壊した柱、瓦礫の山。
視界は悪く、足場も安定しない。
わずかに残った天井の隙間から光が差し込み、明暗のコントラストが死角を増やしている。
——隠れるには最適。
そして、仕掛ける側にとっても。
それが亮太たちの初戦エリア。
「–縛術式–隠蔽封《小》」
亮太の能力で象徴機械は周りから見えなくなる。
「これで時間稼ぎは出来るな」
佐々島は胸を撫でおさらした。
「いや。あんまり強いのは、レギュレーション違反で掛けられないからな。特殊な眼や感知できる能力がいた場合、無駄骨になるがな」
亮太が淡々と説明する。
「……じゃあ、絶対じゃねぇってことか」
阿久津が低く確認した。
亮太は肩をすくめる。そして顔つきを変えて真面目な顔になった。
「んじゃあ、作戦通り行きましょうか」
初戦の相手は北辰のチーム。
そのうちの一人は窓ガラスがない建物内で象徴機械を守りながら周囲を警戒している。
そのとき、守っているはずのモノに波動弾が撃ち込まれた。
「……!?」
北辰の選手は周囲を見渡しながら二弾目を警戒する。
しかし待てど、二弾目はこない。
(遠距離狙撃? ——陽動か?)
阿久津は遮蔽物を使いながら全力で疾走していた。
象徴機械を確認した直後、一発目を狙撃したと同時に移動して別のポイントに向かっている。
「急がなくちゃ、急がなくちゃ!!」
その直後、遠くで爆音が鳴った。
「罠にかかったか……」
強襲を掛けようとしていた北辰の選手は爆音と共に身動きが取れなくなっている。
「封印系の罠か」
動きづらいが通信機を手に取り、二人のチームメイトに連絡した。
「応援はいい!! 罠に警戒しながら強襲しろ!!」
『了解!!』
動けない北辰の選手相手に佐々島が奇襲をかける。
「はぁぁぁあああ!!」
北辰の選手は意識を失った。
佐々島は通信をする。
「とりあえず、一人倒したが指揮官ではなかった。阿久津は早くしろー」
『ウルセェ、今向かっているわ! よりによって遺跡エリアだから、ポイントが難しいんだよ!!』
すると爆音が遠くで聞こえた。阿久津が心配そうな声で尋ねる。
『何の音だ?』
『あのエリアには罠がある。それを破壊したのだろう』
自身の仕掛けた罠を破壊されたというのに動揺することなく、亮太は冷静であった。
「なるほど。了解。手筈通りだな」
『あと少しでポイントにつけるから、よろしく』
『嗚呼、よろしく頼む』
北辰の指揮官は、幾つも貼られた罠を破壊している。しかし、焦っていた。
(見つからない……だと!? あそこまで罠が張ってあったというのに!?)
指揮官は、通信機に手をとって連絡を取る。
「どうだ!? 狙撃手は見つかったか?」
『いや、最初撃ってきた場所から確実に移動している。場所が知られている以上戻ってきたほうが――ガハッ』
通信が途切れた。どうやら象徴機械ではなく、それを守護している選手を狙撃したようだ。
指揮官はレギュレーションギリギリの爆破を起こす。しかし、破壊できたのは罠のみ。
「陽動されたのは——この俺か!?」
(まさか……最初の一撃は——)
その瞬間、亮太が至近距離から放った波動弾が象徴機械を撃ち抜いた。
数秒後、象徴機械が破壊されるのをアナウンスされる。
亮太たちの勝利だ。
*****
控え室にて。
「初戦は大勝利だね」
「ええ、そうですね。亮太さんたちの作戦勝ちですね」
亮太たちの勝利に、ゆかと御沙希は嬉しそうに顔をほころばせる。
「とはいえ、あのプレイは初見殺しだ。次は通用しない。それに……どうせ決勝の相手は国能附だ。油断はできないだろう」
茜が二人の気を引き締めるように言う。
その会話に、アリスは加わらなかった。
ただ、じっとモニターを見つめている。
「……!?」
次の瞬間、モニターに映し出された光景に、空気が変わった。
「国能附が……押されているだと……」
茜が思わず呟く。
映っていたのは、一方的に攻め立てられる国能附の姿。
「あれは……『シュリンク・サバイバル』の時、透が倒した雷使い」
アリスが目を細める。
「それに——全員、能力を身に纏って戦っていますね」
御沙希が冷静に補足した。
「……この人たち、初戦では使ってなかったよね」
ゆかが不安げに呟く。
「ええ。つまり——今ここで切ってきた、ということになります」
御沙希の言葉に、わずかな緊張が走った。
その意味を理解した瞬間、誰もが言葉を失う。
『勝者、業天』
数分後、アナウンスが鳴った。
勝者は業天である。




