30話 五日目 その4
「はぁあああ!!」
天音は一歩踏み込み、胸部のメインコアを狙って刃を横薙ぎに振り抜く。
斬撃は一点に収束し、コアを正確に両断した。
『決まりました! 剣城天音選手、メインコアを一撃破壊! この時点で競技終了――そして新記録! 予選を上回るタイムで優勝です!』
『さすが明星学園! 七瀬選手に続き、剣城選手も三連覇達成! 見事な勝利です!』
興奮冷めやらぬまま、実況と解説は先ほどの試合展開について語り合う。
「やりましたね、姉御」
観客席で天音の勇姿を見ていた弓華は、涙を流していた。その表情は、自分が優勝したとき以上に嬉しそうな顔である。
「そうだな。これで剣城先輩が優勝した。なんとか一位に喰らいつけるか……」
右隣にいる純次は、プレッシャーを感じているのか、緊張した面持ちで呟いた。
「そうよ、風馬! この流れを断ち切らないように頑張りなさい!」
目尻を赤くしたまま、弓華は純次に言い放つ。
「応援しています、風馬君」
純次の隣にいるエマが、真剣な表情で激励した。
「ありがとう、ベネット。では行ってくる」
二人の声援を受け、純次は立ち上がり、準備へと向かう。
*****
純次は歩きながら思考を巡らせた。
(六極戦は、才能と努力が如実に現れる)
この五日間を思い起こす。
(才能があっても、努力が足りず敗れる者
努力をしても、圧倒的な才能に届かない者)
では、自分はどうだろうか。
純次は過去を思い返す。
入学当初、自分は注目される側だった。実技試験を首席で突破し、周囲から持て囃された。
そして当然のように、新人戦の代表選手に選ばれた。
――結果は惨敗。
理由は単純だ。自分より上が、いくらでもいた。
それは理解していた。特に先輩たちに、実力者が多いことなど最初から分かっていた。
それでも、同学年には負けるつもりはなかった。
だが、負けた。
(……黒神のことは笑えないな)
規格外の後輩の顔を思い浮かべ、純次は苦笑する。
悔しかった。だからこの一年、才能にあぐらをかくことなく努力を重ねた。
学業も、実力者に教えを請い、必死に食らいつく。二年になり、生徒会にも入った。
そして今日――あの時の雪辱を果たす機会が訪れた。
違うのは、相手が同学年だけではないということ。
一つ上の先輩たちも、この場にいる。
純次はその中の一人である男を見た。
(国能附のリーダー ――雨野俊哉。
弟の雄輔と同じくSSランク。そして序列は三十四位)
たとえ相手が誰であろうと、負けるわけにはいかない。
純次は静かに闘志を燃やした。
*****
純次は会場に入る。
そして、開始の合図が鳴るのを静かに待った。
――合図が鳴る。
次の瞬間、大量の苦無を投擲した。
純次の手から放たれた苦無は、それぞれが別の軌道を取りながら、各コアへと向かっていく。
すべてを投げ終えたと同時に、純次は走り出した。
残した一本を逆手に構え、一気に距離を詰める。
ロボットが銃口を向けた。
だが――その瞬間。
苦無が銃口に突き刺さった。
直後、銃が暴発する。
『風馬選手の『絶対命中』! その能力は健在! 狙いは――全コア同時破壊か!?』
実況が興奮気味に叫ぶ。
投げた苦無が、次々と腕や脚のコアへ突き刺さった。
だが――。
(浅いか……)
純次は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたまま、速度を落とさず接近。
腕や脚のコアが損傷しているためか、ロボットの機動はわずかに鈍った。
しかし、それでも武装は生きている。
残る武器が、純次へと向けられた。
大剣を斜め斬りで振るうが、数歩下がって避ける。
右横から来る棍棒は跳躍して躱した。
左横から来た斧は刃の平面に手を乗っけて弾きながら懐に入っていく。
四つの武器の追撃が来る前に、胸部のコアに向かって波動を乗せた苦無を幾つも一斉に投げた。
それらは軌道を微かに変えながら、逃げ場を塞ぐようにコアへと収束していく。そして——。
『メインコアの破壊して決着ゥッ!! 明星学園の風馬選手このタイムは! 現在一位となります!!』
純次はその解説聞きながら、明星学園控え室に向かった。その顔には、まだ余力を残したままの満足が浮かんでいる。
一方観客席では、アリスや茜といったいつものメンバーが観戦していた。
「アレがジャパニーズ・ニンジャなんですか?」
普段は大人しいアリスが、珍しく興奮気味に茜へ問いかける。
「確かに苦無を使っていたし、あの身軽さはそれっぽいな……。御沙希、何か知っているか?」
「そうですね。先輩のご実家は、源流を辿れば忍の一族だとか……噂程度ですが」
「現代に残るブシ、ニンジャ、ミコに出会えるなんて……私、感動しました!」
いつもと違うテンションのアリスに、二人はわずかに面食らった。
だがその時、観客席の空気が一変。
ざわめきが一瞬で大きな歓声へと変わり、視線が一斉に会場へ集まる。
「……何だ?」
茜が顔を上げた。
その光景は、圧倒的な速さ。
無駄のない動き。
そして躊躇のない破壊だった。
風馬純次の《《完成された技》》とは異なる、暴力的な才覚。
「……っ、とんでもない速さだな……!」
「そうですね。……あれは——」
アリスも絶句する。
『雨野選手!! 圧巻のタイムです!! 風馬選手の記録を大幅に塗り替え新記録となりました!!』
会場はさらに大きく沸いた。
その歓声は、通路を進んでいた純次の元にも、天井のモニターを通して届いている。
純次は足を止めた。
(やっぱり、届かなかったか……)
胸の奥で何かが崩れ落ちるのを感じながら、静かに視線を落とす。
——あれは、同じ土俵にすら立っていない。
そして、エマが迎えに来るまで、声を上げることなく静かに涙を流した。
*****
一位『私立明星学園高等部』
一位『国立能力統合教育大学附属学園』
三位『私立業天学校第三等部』
四位『私立弦月学園高等部』
四位『国立北辰能力専門高等学校』
六位『国立天津能力科高等学校』




