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29話 五日目 その3

「弓華、優勝おめでとう」


「はい……ありがとうございます」


 控え室。

 『ロングレンジ・スナイプ』一般戦で優勝した弓華に、天音は肩へそっと手を置いて激励する。

 すると――感極まったのか、弓華の瞳から涙がこぼれ落ちた。


「これで、『シューティング・ソニック』新人戦は黒神が二位。『ロングレンジ・スナイプ』は地水が優勝。なんとか国能附に引き離されずに済んだな」


 勉が壁に寄りかかり、腕を組んだまま状況を整理する。


「ええ。それだけじゃない。幸か不幸か、『ソニック』の一般戦と『スナイプ』の新人戦では最下位だった弦月の優勝。そのおかげで朝の逆転から、同率まで持ち直しているのよ」


 涼菜が冷静に補足をした。


「……つまり」


 円香が緊張気味に喉を鳴らす。


「そうね。『エッジ・デストラクション』にすべてが掛かっている」


「そう、なるな。つまり風馬、白神、武本、剣城――お前たち次第だ。ただでさえ『デストラクション』男子新人戦は決勝進出者がいない。だからこそ余計にな」


 勉の言葉に、名を呼ばれた四人の表情が一斉に引き締まった。

 そして代表して、天音が一歩前に出る。


「当然だ! アタシたち全員で優勝して、このまま勝ち逃げしてやる!」


 その言葉に、三人も強く頷いた。


*****


 準備をするために、茜とアリスは並んでロッカー室へ向かっている。


「アリス、ここからはライバルだな」


「そうですね。負けません」


「当然、ボクも負ける気はないよ。約束もあるしね」


「約束……?」


 アリスの問いに、茜はしまったという顔をした。

 そのまま視線を逸らし、わざとらしく明後日の方向を見る。


 ――その時。


「何、アンタたち。もう勝つ気でいるわけ?」


 後ろから、怒気を含んだ声が飛んできた。


「……真然か」


 二人が振り向くと、紗衣陽が険しい表情で歩み寄ってくる。


「今日はずいぶん機嫌が悪そうだね」


 茜はわずかに眉を顰め、その理由を探った。


「友達がさっき負けたのよ。だから――あたしがやるしかないってだけのことよ」


「そうか……なら、一つだけ言っておこう」


「……何?」


「そうやって周りに当たり散らしていると、そのうち誰も助けてくれなくなるぞ」


 その言葉に、茜と紗衣陽は互いに睨み合う。

 空気が張り詰め、


「……うるさい!!」


 紗衣陽は吐き捨てるように叫んだ。


「アンタたちも、透《あのバカ》みたいに――その鼻、雨野みたいにへし折ってやる!」


 そう言い残し、紗衣陽はズカズカと先に行ってしまう。

 残された二人の間に、わずかな沈黙が落ちた。


*****


 四人の数メートル先――戦闘ロボットが鎮座している。

 予選機とは異なり、腕は六本。武装は二丁の銃に加え、棍棒、大槍、大剣、斧。AIの戦闘性能も大幅に強化されていた。


 本競技は同時ではない。四人が順番に挑む形式だ。


 トップバッターは、武本茜。

 大太刀の人工心器を構え、深く息を吐く。


「……ふー」


 ――合図。

 同時に、茜は地を蹴った。

 直後、ロボットの銃が火を噴く。

 非殺傷のゴム弾が嵐のように襲いかかった。


 だが茜は、避けない。

 迫る弾丸のうち、自身に命中する軌道のものだけを見極め――斬る。

 最小限の動きで弾道を断ち切り、そのまま一直線に突き進んだ。


 残り、二メートル。

 四つの武器が同時に振り下ろされた。


(受けるのは時間の無駄だ)


 思考は一瞬。

 次の瞬間――四つの武器は、根元から断たれていた。

 『任意切断』。


 大きさも質量も無視し、あらゆる対象を断つ茜の能力。防御も、障害も意味をなさない。


 武装を失ったロボットは、なおも銃撃を続ける。

 だが茜はさらに加速した。

 弾丸と、残された腕による打撃が迫る。


「はぁあああ!!」


 振り抜かれた一閃。

 弾丸は弾かれ、拳は切断され、地面へと落ちる。


 ロボットは弾が尽きるまで撃ち続けるが――

 茜はそれを許さない。

 無駄のない動きで弾道を外し、懐へ潜り込む。


 握られた銃ごと腕を断ち切り、即座に両脚のコアを破壊。

 機動力を奪い――最後に。

 胸部のメインコアを、一太刀で断った。


『武本選手、流石鮮やかな剣捌きです!』


*****


 実況と解説が話ながら、次の準備を待つ。

 そして、準備が終わり北辰の選手が前に出た。

 開始直後、弾丸と六本の腕による連携攻撃が襲いかかる。

 回避の先にすでに次の一手が置かれていた。


 押されながらもコアを破壊していくが、動きは明らかに鈍い。


 北辰の解説実況を聞き流しながら、紗衣陽は集中している。

 そして、ゆっくり目を開けた。


 先程までの苛立ちは、もうない。

 呼吸を整え、ただ一点に集中している。


 やがて、ゆっくりと目を開いた。


「ふぅー……いきますか」


 槍を手に取り、会場へと歩き出す。


 歓声は耳に入らない。

 ただ、目の前の敵だけを見据える。

 所定の位置に立ち、構えた。


 合図が鳴り響く。

 ――同時に、槍が放たれた。


(真然流 槍術 鳳光《ほうこう》)


 一直線に胸部コアを貫くはずの一撃。

 だが――ロボットは大剣を振り上げ、正確に弾き飛ばした。


「……チッ!」


 舌打ちと同時に、紗衣陽は地を蹴る。

 弾丸の嵐が降り注いだ。

 だが、彼女は一切速度を落とさない。


 弾丸が身体を打つ。

 それでも止まることはない。

 ――否。受けている。


 気にすることなく一直線に前へ。

 落下してくる槍を、そのまま掴み取る。

 ——そして。


(真然流 槍術 奥義 竜虎宝来《りゅうこほうらい》)


 槍を突き出し、駆け抜ける。

 その一撃は――これまで受けた衝撃すべてを叩きつけるように爆ぜた。

 その技は四つの武器を破壊してそのまま胸部のメインコアを破壊。


*****


『な、なんとー。このタイムは新人戦女子決勝最速タイムだー!』


 会場がどよめく。


 アリスはその様子を見つめながら、静かに思考した。


(……今の攻撃。技だけではありませんね。衝撃の乗(・)り(・)方(・)が不自然です。……二つ持ち、でしょうか)


 一瞬、思考が巡る。

 だが、すぐにそれを切り捨てた。


(……いえ。今は試合に集中するべきですね)


 アリスは会場に出ると大きな歓声が沸く。



 その歓声を気にすることなく、小さく双剣を構えた。


 合図が鳴る。

 ――その瞬間にはもう動いていた。

 

 弾丸の嵐が迫るが、斜めに移動してすべて避ける。

 ロボットも軌道修正してアリスを狙い発砲した。

 弾丸は双剣を振るって最低限撃ち落とす。

 多少当たっても加速を続けた。


 聖属性の能力である身体能力の強化と防御力の向上によって成せる行動《プレイ》だ。


 あっという間に残り二メートルまで距離となる。

 迎撃しようと横から斧が振るわれた。

 アリスは身を屈めて回避する。

 次に反対方向から棍棒が振るわれるが、今度は回避せず一本、剣を振るい根元から破壊した。

 

 その直後、頭上から大剣が振り下ろされる。

 アリスは斜め移動して大剣の範囲外へ脱出。

 そのとき、読まれていたのか大槍が目の前に迫り来た。


 しかし、一閃。大槍を真っ二つにぶった斬る。

 ロボットは残った大剣を振るうが、アリスは飛んだ。二段階ジャンプをして大剣の振るう範囲外へ逃げる。

 ロボットは撃ち落とそうと銃口を向けた。

 だが、アリスは宙を思い切り蹴ってロボットの懐に入り込んだ。そして胸部のコアを破壊する。


『な、なんと! 同タイムです! 真然選手と白神選手、同じタイムだー!!』


 それを聞いて、アリスは汗を服で拭いながら、やや複雑そうな顔を浮かべた。


 一方。戻る途中の紗衣陽は、モニター越しに結果を聞く。

 足は止めない。だが――

 ぎり、と下唇を噛み締めた。

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