26話 四日目 その7
涼菜は静かに目を閉じる。
生徒会長として。
選手団を率いる者として。
三連覇を託された存在として。
脳裏に浮かぶのは、さっきまで行われていた男子一般戦で三位に終わり、悔し涙を流していた背中。
――負けは、許されない。
「……ふぅ」
息を吐く。
そして、相手を見据えた。
一回戦とはいえ油断は出来ない。
だけど、プレッシャーは感じてなかった。
試合開始の合図が鳴る。
指輪型の人工心器が起動した。
それと同時に自分と相手のタワーに植物が巻き付かれる。
そして、一瞬で相手のタワーが締め付けられて崩れ崩壊した。
『……な、なんと。さ、流石。三連覇がかかっている明星の女王。七瀬選手。瞬殺だー。しかも歴代最速だー!』
会場が遅れてどよめく。
歓声で会場が沸く中、涼菜は静かに息を整えた。
続く二回戦、三回戦――
涼菜は危なげなく勝ち進む。
『決勝進出!! 七瀬涼菜! 三年連続の決勝進出は史上初です!!』
控え室。
モニターの前で、透は腕を組んだまま画面を見ていた。
(……やっぱり速ぇな)
能力の起動と操作。
あの時より、洗練されてる。
否、アレですら実力は見せてなかったのだ。
(けど――まだ全部は出してねぇな)
断言はしない。
ただ、そう感じるだけだ。
(決勝で見せてくれりゃあ、いいけどな)
わずかに口元を緩めた。
*****
『『ディフェンス・タワー』女子一般戦決勝。
対戦するのは、国立能力統合教育大学附属学園三年の世尾穂花。
そしてその相手は、三連覇を狙う私立明星学園高等部三年、七瀬涼菜』
二人は向き合う。
世尾は恨めしげに睨みつけ、涼菜はただ一点を見据え、静かに集中していた。
「今回こそは、あたくしが勝利してみせますわ!」
「いいえ。今回も私が勝って、三連覇させていただきます」
世尾は涼菜にびしりと指を突きつけ、高らかに宣戦布告する。だが、涼菜は涼しげな表情のまま、それを受け流した。
その余裕ぶった態度に、世尾のこめかみがぴくりと跳ねる。
「きぃぃぃ……! その澄ましたお顔、あたくしが叩き潰して差し上げますわ!」
そんな二人の会話を断ち切るように、試合開始のブザーが鳴り響いた。
直前まで感情を爆発させていた世尾だったが、その瞬間、表情が一変する。
鋭く研ぎ澄まされた眼差しの周囲に、半透明の結晶が次々と生成された。
無数の結晶が、まるで銃弾のようにタワーへ殺到する。
それを阻むように、涼菜のタワーの周囲から無数の蔦が伸び上がった。
弾丸を叩き落とそうとする蔦。しかし――結晶の衝撃に耐え切れず、次々と千切れ飛ぶ。
それでもなお、結晶は勢いを失わぬままタワーへ迫った。
二つの結晶がタワーを砕く。
残る結晶は、幾重にも巻き付いた蔦によって辛うじて防がれた。
「はぁぁああ!!」
涼菜は手を掲げ、世尾のタワーへ向けて蔦を伸ばす。
だが――
「その程度で、あたくしの守りを破れると思わないことですわ!!」
世尾は鋭く叫び、ブロック塀のような巨大結晶を何層にも展開した。
その光景を、透はモニター越しに鋭い目で見つめている。
「鉱物……? いや、あれは結晶か」
「あの結晶は、耐熱・耐冷・耐切断・耐衝撃の特性を持つ結晶体よ」
円香が淡々と答えた。
「なんすか……その夢みたいな構造物」
「いや、そこまで万能じゃない。強度には上限があるはずだ。だが、それでもSSランク二十七位。侮れない相手だ」
近くにいた天音が補足する。
「へぇ……」
透は感嘆を漏らし、再びモニターへ視線を戻した。
画面の中では、二人が一歩も譲らぬまま激しく拮抗している。
世尾のタワーは、幾重もの半透明な結晶に包まれていた。
一方、涼菜のタワーは、重なり合う植物の蔦によって堅牢に守られている。
互いに突破口を探りながら、激しい攻防を繰り返した。
「……ッ!?」
世尾は目を見開く。
涼菜の周囲に、植物で形成された砲台が二基、突如として生成されたからだ。
世尾は即座に反応し、タワーを守るように結晶層を何重にも展開する。
「発射」
放たれた植物の砲弾が、結晶層を貫通し、タワーへダメージを与えた。
「なっ……!?」
世尾の顔に動揺が走る。
その隙を逃さず、涼菜はさらに右手を掲げた。
周囲に複数の砲台が追加生成される。
「一斉砲撃――発射」
「……舐めないでいただけます!?」
世尾も即座に応じる。
周囲に巨大結晶を複数生成し、飛来する砲弾を正面から迎撃した。
砲弾と結晶が激突し、轟音と共に相殺されていく。
だが涼菜は、それを見て別の手段へ切り替えた。
右腕を高く掲げる。
「木巨人!!」
その隣に、巨大な木の巨人が出現した。
巨人は咆哮するように腕を振り上げ、世尾のタワーへ拳を叩き込む。
「くっ……!?」
世尾は迎撃用の巨大結晶を生成する。
拳と結晶が真正面から激突した。
拳は削れる。
――しかし、削れた端から植物が再生し、さらに厚みを増していた。
やがて結晶は耐え切れず、砕け散る。
そのまま巨人の一撃が結晶層ごとタワーへ叩き込まれた。
「なんですの……その破壊力と生成速度は……!!」
そして――世尾のタワーは完全に崩壊する。
『勝負あり! 『ディフェンス・タワー』女子一般戦決勝――勝者、私立明星学園高等部三年、七瀬涼菜!!』
会場が大歓声に包まれました。
『史上初! 三連覇達成です!!』
「きぃぃぃいい!! 今回は敗北を認めますけれど、次こそは絶対に勝ってみせますわ!!」
「はい。楽しみにしています」
悔しさに声を荒げる世尾を、涼菜はどこか微笑ましそうに見つめている。
透は、優勝してインタビューを受ける涼菜を、モニター越しに見つめていた。
(次から次へと手を打ってくる人だな。……まだ、引き出しはありそうだ)
「ふっ……」
小さく笑みを漏らす。
「明日から決勝戦だ。黒神、風馬、白神、武本、そして弓華。頑張れよ」
涼菜の勝利に満足げな天音が、明日出場する選手たちに声をかけた。
『はい!!』
「委員長だって、明日試合じゃないですかー」
弓華だけが抗議の声を上げる。
それに、控室は笑いに包まれた。
いよいよ、明日は各競技の決勝戦。
――ここからが本番だ。
*****
一位『私立明星学園高等部』
二位『国立能力統合教育大学附属学園』
三位『私立業天学校第三等部』
四位『国立天津能力科高等学校』
五位『国立北辰能力専門高等学校』
六位『私立弦月学園高等部』




