23話 四日目 その4
第三エリアは、第二エリアよりさらに草木が密集した危険地帯だった。
巨大な木々が空を覆い、枝葉が光を遮って森の内部は薄暗い。地面には背丈ほどの草や蔦が絡みつき、視界は著しく制限されている。
数メートル先すら見通せないこの環境では、奇襲や待ち伏せが容易に行えた。
まさにジャングルと呼ぶべきエリアである。
「さらに視界が悪いな」
透は草木を掻き分けながら小さく文句を言った。
「……ッ!?」
次の瞬間。氷、風、雷、水――
四方八方から能力攻撃が飛来する。
透は咄嗟に身体を捻り、氷柱を躱した。
だが続けざまに風刃が木々を切り裂きながら迫る。
透は身を屈め、飛来してきた能力同士を相殺した。
(……二、三、四人か。全員、学園が違うな……)
眼だけを動かし、周囲の状況を確認する。
選手たちは木の陰に隠れ、透の様子を窺っていた。
(乱戦場か? ……いや)
透の口元がわずかに歪む。
(確実に俺を狙っていたな)
「一対四か……面白い!」
透は立ち上がり、両腕を水平に掲げ、左右の銃口を森へ向けた。
「超雷砲」
引き金が引かれた瞬間、青白い光線が迸る。
透はその場で半回転した。
左右の銃から放たれた雷の閃光が、四方へ一直線に走る。
閃光が草木を貫き、太い幹さえ焼き焦がしながらジャングルを切り裂いた。
「へぇ……」
超雷砲に直撃した二人は、高電圧の電撃を受け、その場で気絶する。
だが残る二人は違った。
一人は氷の壁を瞬時に展開し、直撃を防ぎ、
もう一人は、自身の雷の力で軌道を僅かに逸らしたのだ。
氷柱がミサイルの如く飛んでくる。
鋭い氷の槍が一直線に透を狙った。
さらに次の瞬間。
退路を塞ぐように雷球が周囲へ展開された。
青白い電光が弾け、逃げ場を完全に封じる。
氷と雷による挟撃だった。
「全てを喰らえ、守護せし黒」
透の身体が闇に包まれる。
黒い闇は瞬く間に膨れ上がり、盾のように広がった。
氷柱と雷球がその闇へ激突する。
だが――すべて飲み込まれた。
「なっ……」
雷使いが目を見開く。
「複重能力者……!?」
「氷騎士団!!」
氷使いは地面へ波動を流し込む。
次の瞬間、地面が凍りついた。
氷が隆起し、次々と形を成す。
それは――騎士だった。
氷で出来た騎士が、複数体、透を取り囲む。
「雷獣武装」
それを見た雷使いは、腕と脚へ雷を纏わせた。
電光が弾け、猛獣のような鉤爪が形成される。
「へぇ……面白い使い方だな。そう来なくちゃあ」
透は楽しげに一歩踏み出した。
その瞬間――
雷使いが背後へ回り込み、右足で蹴りを放とうとしている。
「守護せし黒」
黒い闇が瞬時に広がり、壁となって透を守った。
だが雷使いは闇に触れる寸前で跳躍し、距離を取る。
その直後だった。
複数の氷の騎士が一斉に踏み込む。
氷で出来た剣が、闇の壁へ突き立てられた。
「……ッ!?」
透は余裕の表情を崩し、息を呑む。
闇は氷を呑み込んでいた。
しかし――。
氷は闇の内部で凍りつき、黒い壁を徐々に侵食していく。
闇の捕食機能が、次第に鈍っていった。
「放電」
透は慌てて雷を周囲へ撒き散らす。
だが――
氷の騎士たちは砕けない。
「純粋な水は電気を通さないという話を知りませんか?」
氷使いが冷静に言った。
「それと同じです。凍っていても通さないですよ」
「試合中に勉強の話するなよ」
透が舌打ちする。
「それに問題ねーよ、熱と衝撃さえあれば、な!!」
雷の出力が一気に跳ね上がった。
轟音。
放電が爆発するように広がり、氷の騎士たちを叩きつけた。
氷が軋む。そして――
騎士たちは次々と砕け始めた。
「なっ!?」
氷使いは驚愕の声を漏らす。
その動揺を逃さず、透が一歩踏み込んだ。
その瞬間。
「オレを忘れんじゃあねー!」
雷使いが横合いから蹴りを放った。
だが透は寸前で身体を捻り、それを躱す。
その隙に氷使いは背を向けた。
ジャングルの奥地へと走り出す。
同時に、透と雷使いを囲むように氷のドームが生成された。
視界を遮るように、分厚い氷が広がる。
「一つ提案なんだけどよ」
透は氷のドームを指差し、戯けた調子で言った。
「一緒にこれ壊して、あの氷野郎を追うってのはどうだ?」
格好から別学園の選手だと分かった。だから一応の提案をしとく。
「オレの目にはアンタ、楽しそうに見えるぜ」
雷使いは肩を鳴らした。
「それにアンタ、単独優勝狙いだろ?」
ニヤリと牙を剥き出して笑みを浮かべる。
「なら、ここで倒してやる」
「だよな」
透は楽しそうに頷いた。
「まぁ、そんな使い方をする雷使いとやるのは珍しいんだ」
拳を構える。
「ここでやらなくちゃ勿体ないよな!」
雷使いは四つん這いの姿勢になった。
まるで獣が飛び出す直前のような構える。
刹那。眼前に、雷で出来た鉤爪が迫る。
透は半歩踏み込み、身体を沈めた。
そして――
下から鋭く足を振り上げる。
蹴りが雷使いの腹部を打ち抜いた。
「ガハッ……!?」
鈍い衝撃音とともに、雷使いの身体がくの字に折れ曲がる。
「真然流 格闘術 猿塔」
「クソが!」
氷の天井に叩きつけられる。それでも雷使いは獰猛に吠えた。
天井を蹴り、勢いのまま透の眼前へ急降下する。
雷で出来た鉤爪が振り下ろされた。
だが――
透は寸前で身体を捻り、それを躱す。
空を切った鉤爪が地面を裂いた。
その瞬間、透は一気に踏み込む。
雷使いの懐へ潜り込んだ。
「真然流 格闘術 撃鮫」
透はそのまま懐へ潜り込む。
そして――
鳩尾へ掌底を叩き込む。
「ガッ……!」
衝撃で雷使いの身体が吹き飛んだ。
そのまま氷の壁へ叩きつけられ、意識を失う。
「速いが……動きが直線的なんだよ」
頬から血を流しながら、透は勝ち誇ったように呟いた。
そして氷の壁へ手をつける。
「喰らえ――這い出し黒」
闇が蛇のように蠢きながら氷の壁へ突き刺さった。
貫こうと唸りを上げる黒い奔流。
だが――
闇は徐々に凍りつき、動きを鈍らせていく。
「はぁああああ!!」
透は叫びながら波動を放出した。
闇の密度が一気に高まる。
黒蛇が暴れ狂うように氷を削り取った。
そして――ついに氷壁に大きな穴が開く。
透はその瞬間、走り出した。
穴を潜り抜け、ジャングルへ飛び出す。
同時に端末が警告音を鳴らした。
『エリア縮小まで一分』
「間に合えー!!」
透はさらに加速する。
ジャングルの奥――第四エリアへ向かって。




