22話 四日目 その3
第二エリアに入ると、草木の密度は一段と濃くなった。
地面の植物が膝の高さまで伸び、視界を大きく遮る。
周囲の木々も太く高く、枝葉が重なり合って薄暗ささえ感じさせた。
透は第二エリアに侵入するなり、即座に索敵用の電磁波レーダーを起動させる。
(近辺にはいないか……だが)
眼を爛々と輝かせ、周囲へ視線を走らせた。
(アレは罠か……)
数メートル間隔で、地面に波動の塊が設置されている。
透はその辺から小石を拾い、設置されている罠めがけて投げた。
しかし特段、罠が起動することなく小石が転がる。
(小石程度の重さじゃ起動しないか……。まぁ見えているから簡単に避けられるけど)
透は静かに、罠が設置されている範囲外を歩いた。
だが、その瞬間。
波動弾が透の真横の罠に当たった。
「……ッ!?」
罠は強い衝撃を感知して起動する。
レギュレーションぎりぎりの爆発が起きた。
煙幕のなか、透は身を屈めて周囲を警戒する。
(結構、威力高めだなコレ……。だがそれ以上に、俺の索敵範囲外からの超速狙撃。よっぽどの能力者でもない限り……二人)
「やったか!?」
「いや、まだだ」
「なんだと……アレ受けても平気なのかよ」
透は狙撃と声が聞こえてきた方向、そして距離を把握すると走り出した。
「こっちに来たぞ!」
「いいから、撃て!」
いくつもの波動弾が罠のある位置に着弾し、罠が次々と発動する。
透は波動弾を撃ち落とすこともできたが、それを無視して最高速で突っ込んだ。
罠の爆発など意にも介さず、一直線に走り抜けていく。
「き、来やがった」
「ど、どうする?」
「に、逃げるしかない」
二人は背を向け、一目散に逃げ出した。
「逃すかッ!」
透はスピードを緩めないまま、二丁の銃を二人へ向けて射撃する。
雷閃が二人を襲った。
罠使いは雷撃を受け、その場で動けなくなる。
狙撃手は閃光を捉え、咄嗟に身体を逸らして回避した。
(ひとりは倒せたが、ひとり逃したか……眼がイイのか)
倒れている罠使いの方へ視線を向け、透は眉を上げる。
それは同じ学園の選手だった。
「へぇ……なるほどな」
小さく呟くと、倒れている選手を無視して走り出す。
「ま、敵が多いほど、やりがいがあるよな」
視線を森の奥へ向けた。
逃げた狙撃手も同じ学園だろう。そこまで遠くへは行っていないはずだ。
「待ちやがれ!」
透は再び走り出す。
跳び上がり、木の枝に掴まり、木から木へと移って素早く追いついた。
「ヒィィ」
軽い悲鳴が聞こえたが、透はそれを無視して銃を向ける。だがすぐには引かなかった。
(……コイツも同じ学園か。……罠と狙撃。偶然にしちゃ出来すぎている)
透は銃口を向けたまま足を止める。
透が撃ってこないことに不思議に思ったのか、狙撃手は止まった。
二人は立ち止まり睨み合いとなる。
「ルール上問題ないとはいえ、なんで俺を狙う?」
「……お前が目障りなんだよ! あんなに生徒会長に贔屓にしてもらって、ウザいんだよ!」
「それは……」
透は言葉を失った。
確かに、なぜ彼女は自分をあそこまで贔屓にするのだろうか。
強者だからか。
それとも、六極戦で優勝したいからか。
――いや。
ふと、七瀬涼菜の視線を思い出す。
あの視線は、ただ強さを見ているだけではなかった気がする。
まるで――
自分の奥にあるものまで、見透かしているかのようだった。
――その時。端末が警告音を鳴らす。
『エリア縮小まで一分』
二人は同時に端末を見た。
「……チッ」
透が舌打ちする。
次の瞬間、狙撃手は波動弾を放った。
透も同時に引き金を引く。
二人ともギリギリで躱した。
(この距離でも避けるか……)
透は相手を見据える。
(目の良さと、それについてこられる反射神経……面白い)
透の口角がわずかに上がった。
透は木から勢いよく飛び降り、瞬時に距離を詰める。
「な……!?」
「この距離なら避けられないよな!!」
腹部と頭部に銃口を突きつけ、容赦なく引き金を引いた。
雷光が弾ける。
高電圧の電撃が選手を貫き、そのまま地面へと倒れ込んだ。
「なんで、あの人が俺を贔屓しているか俺も知らない。気に入られているうちは使われてやるよ。……悔しかったら、強くなれよ」
倒れる選手の横を素通りして歩く。
(他にも襲撃を仕掛けてくる奴はいないか……)
透は能力を使い、周囲を警戒した。
周りに誰もいない。
警戒を解き、森の奥へと視線を向ける。
さらに奥――そこは、より深く生い茂る第三エリア。
木々は密集し、光さえ遮るほどの濃い緑が広がっている。
透は小さく笑った。
「ジャングルか……いいじゃねぇか」
雷が足元で弾ける。
次の瞬間、透の姿は森の奥へと消えていた。




