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21話 四日目 その2

『シュリンク・サバイバル』競技ルール


•複数環境を含む広域フィールドで行われる個人競技である

•フィールドには、草原、市街地、森林、砂漠などの環境が含まれる

•本競技は、生存を最優先目標とする

•競技開始時の戦闘可能エリアは、直径約二十キロメートルである

•競技の制限時間は二十分間である

•戦闘可能エリアは、五分間隔で段階的に縮小される

•縮小は外周部から順に行われ、使用不可エリアが展開される

•縮小領域は視覚的にライトアップされ、選手が容易に識別できる

•同時に、各選手の端末および人工心器に内蔵されたGPS表示により、残り時間および次の安全エリアが明示される

•縮小領域に侵入した選手には警告が発せられる

•警告後、一定時間内に安全エリアへ退避できなかった場合、強制脱落となる

•選手は、攻撃、妨害、逃走、連携など、あらゆる手段を用いることができる

•直接的な戦闘による脱落だけでなく、移動判断の遅れや位置取りの失敗も脱落要因となる

•最後まで生存した人数、または最終段階まで到達した順位に応じて、ポイントが付与される



 『シュリンク・サバイバル』新人戦の舞台は森林エリアだった。


 第一エリアは、ごく一般的な森林地帯である。


 背の高い木々が一定の間隔で並び、地面には低い草や落ち葉が広がっていた。

 視界も比較的開けており、戦闘や索敵には向いている。


 試合開始を待つ透は木立の影に身を沈め、静かに目を閉じた。


 深く息を吸い、ゆっくり吐く。

 余計な音が消える。

 そして開始のブザーが鳴った。

 同時に能力を起動する。


 電磁波レーダーによる大まかな把握。

 魔眼による波動感知。


 その索敵範囲、五十メートル。

 視界の裏側に二つの反応が浮かび上がる。


(弦月と北辰か)


 透はゆっくり立ち上がり、人工心器の銃を構えた。


 躊躇なく引き金を引く。

 銃口から放たれた雷閃が一直線に枝上を貫いた。


「っ!?」


 弦月の選手は咄嗟に身体を捻る。

 雷閃はヘルメットを掠めるだけに終わった。

 そのまま枝を蹴り、地面へ降り立つ。


(避けたか)


 透は小さく口元を歪めた。

 だが意識は既に別へ向いている。


 今の発砲音で、もう一人も動く。

 背後の木々を跳ぶ気配。

 そして到着して透の死角で好機を狙う。

 北辰の選手が銃型の人工心器を構えた。

 だが能力は発動しない。


「なっ――」


 発射される寸前。

 黒いモヤが能力を呑み込んだからだ。


 透は振り返らない。

 背中越しに銃口だけを向ける。

 ほぼ同時に放たれた雷閃が北辰の選手を撃ち抜いた。

 身体が痙攣し、そのまま崩れ落ちる。


 もちろん致死ではない。

 高圧麻痺による戦闘不能処理だった。

 透はもう一丁の銃を取り出した。

 二丁の銃を足音のする方角へ向ける。


「双雷砲《ツイン・レーザー》」


 二条の雷閃が森を抉った。

 だが弦月の選手はそれを避ける。

 空中で身体を捻りながら雷閃の間を抜け、そのまま着地した。


「へぇ」


 透の口元が吊り上がる。

 一度だけなら偶然もある。

 だが二度目だ。

 しかも真正面から突破した。


「面白い」


 次の瞬間、透は地面を蹴った。

 一気に距離を詰める。

 迎撃するように空気弾が連続で放たれた。


 だが透は止まらない。

 踏み込み、跳躍し、身体を捻る。

 紙一重で攻撃を躱しながら接近していく。


(威力は悪くない)


 だが直線的だった。

 着地と同時に両銃を構える。


「多数追尾雷砲《ホーミング・レーザー》」


 放たれた雷は直線を描かない。

 枝を避け、幹を回り込み、蛇のようにうねりながら弦月へ襲い掛かった。


 だが弦月の選手も反応する。

 両手の銃を連続で発砲。

 空気弾と雷が衝突し、空中で弾け飛んだ。

 全弾迎撃。


「へぇ……」


 透は笑う。

 直後、弦月の選手も反撃に移った。

 不可視の弾丸が次々と迫る。


 しかし透は大きく動かない。

 肩を傾け、一歩ずらし、最小限の動きだけで軌道を外していく。

 空いた左手にもう一丁の銃。


 同時射撃。


 弾幕がさらに増した。

 だが空気弾は射出された瞬間に消える。

 黒いモヤが能力そのものを呑み込んでいた。


「……なんで!?」


 弦月の選手の動きが僅かに止まる。

 透は獰猛に笑った。

 銃口から黒いモヤが漏れる。


「ワリィな。相殺は――こっちも出来るんだよ」


 言い捨てると同時に、透はさらに加速した。


 踏み込みが深くなる。

 一気に距離が縮まった。


 弦月の選手が目を見開く。

 だが次の瞬間には覚悟を決めたように瞳を細め、引き金を引いた。


 空気が震える。


 その直後、透の周囲に圧縮された空気塊が次々と出現した。


「……ッ!?」


 前後左右、そして上下。


 射出ではない。

 最初から包囲されている。


 退路はない。


 森が軋み、空気が唸る。

 同時爆裂まで残された時間は僅かだった。

 透は即座に二丁の銃を向ける。


 引き金を連続で引いた。

 黒いモヤが広がり、いくつかの空気塊を呑み込む。

 だが数が多い。


「……チッ」


 地を蹴り、身体を捻る。


 爆ぜる圧縮空気の隙間を縫うように駆け抜けたものの、一発だけが頬を掠めた。

 頬から血が流れる。


 透はその傷へ一瞬だけ視線を向けると、口元を吊り上げた。

 そのまま距離を詰める。


(……仕留める)


 そう思った瞬間だった。

 鈍い衝撃が走る。


「……?」


 視界の前で空気が歪んでいた。

 透明な壁。圧縮された空間が盾のように展開されている。


(風の能力じゃないな)


 透の魔眼が歪みの正体を捉える。


(空気そのものを操作してやがるのか)


 視線の先では、弦月の選手が荒い息を吐きながら能力の維持に集中していた。


(闇で呑めば終わる話だが……)


 一瞬だけ思考する。


 その隙に空気の壁がさらに展開され、透を囲い込んだ。

 弦月の選手はそれを確認すると、迷わず背を向ける。

 全力疾走だった。


「……チッ。もうすぐ五分か。しゃーねぇ」


 透は片手を地面についた。


「這い出し黒(ヴリトラ)」


 低い呟きと共に、足元から闇が溢れ出す。


 蛇のようにうねりながら広がった黒は、圧縮空間へ食らいついた。

 喰らって、喰らって、そして全てを呑み込んだ。


 透は確認する間もなく駆け出す。

 雷による活性化で身体能力を底上げし、一気に加速。


 逃走する相手へ瞬く間に追いついた。

 気配に気付いた弦月の選手が振り返る。


 相手は走りながら空気弾を連射。

 だが透は速度を落とさない。


 僅かな体捌きだけで弾道を外し、そのまま二丁の銃を構える。


 引き金を引いた。

 超高電圧の閃光が一直線に走る。

 弦月の選手は咄嗟に圧縮空間を展開した。

 しかし雷は止まらない。


 空間の壁を穿ち、貫き、そのまま身体を撃ち抜いた。

 相手の身体が力なく崩れ落ちる。

 透は止まらない。


 倒れる身体の横を駆け抜け、そのまま赤くライトアップされた境界線を越えた。


 第二エリア。背後で脱落を告げるアラートが鳴り響く。


「ワリィな」


 透は振り返らないまま、小さく呟いた。


*****


 明星学園控え室。

 多くの人々が、静かにモニターを眺めていた。誰も軽口を叩かない。


「透君、やっぱり複重能力者《マルチスキル》だったわね」


 涼菜が穏やかな声色で呟く。

 だが、その視線は鋭い。


「雷と……アレは闇です」


 エマが即答する。迷いのない断定。

 円香が驚き振り向く。


「エマちゃん!? 分かるの?」


「はい。攻防一体の闇。破壊と貫通の雷。しかも雷を利用して身体強化」


 オッドアイが淡く光る。


 『解析眼』と『未来視』。それがエマ=ベネットの能力だ。

 彼女は競技には参加しないが、マネージャーとして六極戦に帯同している。


 複重能力者《マルチスキル》は世界人口五十億に対し千人に一人。

 そして複数の能力を強く扱える者ほど、高位ランクに位置づけられやすい。

 現に彼女のランクはSである。


「能力一辺倒ではないな。初手で奇襲して、もう一人の敵を誘いだして撃破。また雷の身体強化は扱いが難しい。下手をすれば身体が使い物にならなくなる」


 壁に背をつけ、腕を組みながら勉が語る。


「それを平気で行うとは、相当の実力者だな。黒神は」


「だが、次はそう上手くいくか?」


 天音が椅子に座り、足を組んで指摘した。


「まだ有力選手は残っているし、さっきの初手奇襲はもう使えない。どうする気だ?」


「そうね。でも透君を信じましょう」


 涼菜は天音の意見に頷きながら、不安げなままモニターへ視線を向けた。

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