19話 三日目 その5
夕刻の控え室にて、
「『マキシマム・バスター』の女子新人戦と男子新人戦は、思ったより振るわなかったわね。でも、一時はどうなることかと思ったけれど、一般戦では円香が惜しくもベスト四。……ひとまず体裁は保てたわ」
申し訳なさそうにする一年生たちを宥めながら、涼菜は端末を操作する。
映し出されたのは、円香のベスト四の試合映像だった。
「三年生だからこそ言うわ。研鑽を忘れないためにも、見ましょう」
「……そうね」
厳しい言葉に円香は頷き、映像へ視線を向ける。
円香の能力は『念動力』。
対する相手は『炎属性』。
序盤、円香は相手の炎を掻き消しながら、オベリスクを捻じ曲げて破壊していく。
しかし相手も怯まない。
炎弾が高速で射出される。
オベリスクの一点を正確に貫く。
次の瞬間、構造が崩れ落ちた。
「……複重能力者」
涼菜が低く呟く。
「やっぱり、そう思う?」
「ええ。恐らく『弱点看破の眼』。オベリスクの脆い箇所を的確に狙っている」
「よく分かったね……」
「それに炎弾の射出速度も明らかに上がっている。……円香、そこから動揺しすぎよ」
映像を止め、涼菜は円香の肩を掴む。
「はい……ごめんなさい」
「あなたの能力と実力なら、もっと上へ行ける。でも想定外が起きた瞬間、集中が散る癖は直さなければならないわ」
円香は悔しそうに唇を噛んだ。
「分かっているわ。あなたがそれを克服するために、常に知識を蓄えていることも。でも――」
涼菜の声音がわずかに柔らぐ。
「能力者や霊獣との戦いに、想定外はつきもの。それを乗り越えなければ、根本は変わらない」
「……はい」
涙を滲ませ、円香は俯く。
映像が再び流れる。
円香三本、相手四本。
「とはいえ、相手は今回の優勝者。よくやったわ」
そのとき、二人の選手が円香を庇うように前に出た。
「私たちが負けたのが悪いんです。だから月夜さんを責めないでください」
二回戦敗退と三回戦敗退の二人だった。
その奥で新人戦で結果が振るわなかった選手たちも唇を噛み締めている。
涼菜は小さく息を吐いた。
「これでは、私が悪人みたいね。……ええ。円香、作本さん、立川さん。それに一年のみんなもお疲れ様。よく頑張ったわ」
三人を抱きしめる。
堪えていた涙が一斉に溢れた。
その奥で一年も悔し涙を流す。
みんなが一通り泣いた後、涼菜は顔を上げた。
「……気を取り直して。風馬君、決勝進出おめでとう」
純次へ視線を向ける。
「はい。ありがとうございます。決勝も全力で挑みます」
「ええ、お願いね。それじゃあ――盾宮君の決勝戦を見ましょう」
涼菜が端末を操作する。
映像が切り替わり、生中継へ。
画面には『マキシマム・バスター』一般戦決勝の舞台が映し出された。
筋骨隆々の大男が、仁王立ちで競技場の中央に立っている。その名前は盾宮勉。
その出で立ちは、学生とは思えぬ異様な迫力を放っていた。
「男子も業天の選手か……」
天音が思わずそう呟く。
「あそこは特に火力重視の学園を呼び込んでいるから、こういう競技は強いのよ」
涼菜が学園の特色を語った。そしてその顔不安な顔である。
開始の合図が鳴った。
先手必勝とばかりに、相手の業天の選手は拳銃型の心器を構え、オベリスクへ向けて引き金を引く。炸裂音――だが。
爆ぜたはずの破片は飛び散らない。
空中で、ぴたりと静止していた。まるで時間が止まったかのように。
相手は動揺を見せない。即座に照準を切り替え、もう一基を狙う。再び引き金を引く。
しかし今度は――爆発すら起こらなかった。
「チッ……」
低い舌打ちが、モニター越しにもはっきりと響く。三基目。
別のオベリスクを狙う。だが結果は同じ。
まるで先回りされているかのように、起爆は封じられていた。
「……『要塞化』」
涼菜がモニターを見つめながら呟く。
「波動体の障壁を展開し、外部からの攻撃や衝撃を受け付けない能力。加えて――内部圧縮が可能」
天音が壁に寄りかかりながら、一年生たちに淡々と説明する。
その瞬間。勉は腕を解き、右手をゆっくりと翳した。
そして、ぐっと拳を握る。
「ふん!」
重低音とともに、一基のオベリスクが内側から崩れ落ちた。
「……くっ!?」
焦った相手は、要塞化されたオベリスクへ向けて最大火力の爆発能力を叩き込む。
爆炎は障壁に触れた瞬間、弾かれず――滑った。
湾曲し、流れ、別方向へと逸らされる。
直後、別のオベリスクが粉砕された。
業天の選手は慌ててスコアボードを見る。
加算されていたのは――勉のポイントだった。
「能力の受け流し。きちんと盾宮君扱いでよかったね」
安堵の色を浮かべる涼菜。
「あの男のことだ。下手をすれば、相手選手の得点でも構わないと思っていたはずさ。……優しい男だよ」
肩をすくめながら、天音が小さく笑う。
能力の駆け引きは、完全に盾宮が上手だった。
業天の選手は焦りを滲ませながら能力を乱発する。
対する勉は、巌のような無表情で受け流し続けた。
やがて決着がつく。
六対一。決勝とは思えぬ圧倒的な差だった。
試合が終わる頃には、太陽はすでに姿を消してる。
その代わりのように、大歓声が競技場を揺らいだ。
「これでなんとか盾宮君のおかげで、首の皮が繋がったね」
円香はまた涙を浮かべながら笑った。
モニターに映る盾宮の顔も、ようやく険しさを解き、静かな安堵を滲ませている。
「ええ。彼がいて本当に良かったわ」
涼菜も目元を潤ませる。
天音は口角をわずかに上げていた。
明星の生徒たちも、堰を切ったように歓喜の声を上げる。
「盾宮がここで流れを掴んだのだ。今度はお前だ、涼菜。他の連中の目にも見せてやれ」
歓喜の空気を切り裂くように、天音は真っ直ぐ涼菜を見据えた。
「分かっているわ。みんなにあれだけキツいことを言ったのよ? 私が頑張らなくてどうするの」
外では、まだ歓声の熱が収まらない。
だが、控え室は静かだった。
涼菜は仲間たちをゆっくりと見渡す。
「必ず優勝するね」
その声は小さい。だが、迷いはなかった。
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一位『国立能力統合教育大学附属学園』
二位『私立明星学園高等部』
三位『私立業天学校第三等部』
四位『国立北辰能力専門高等学校』
五位『国立天津能力科高等学校』
六位『私立弦月学園高等部』




