↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/66

17話 三日目 その3

 自販機コーナーの奥。

 人通りのない非常階段。

 その一角の壁に寄りかかりながら、亮太はスマートフォンを耳に当てた。


「なんだよ。今、忙しいんだけど――義兄《アニキ》」


『そんなわけあるか。お前の試合は三日後だろう』


 スマートフォンの奥から、真面目で堅物と思わせる声が聞こえる。

 その声の返答を聞いて、わずかに眉が動いた。

 スマートフォンを耳から外し小さく呟く。


「言ってねぇのに、よく知ってるな」


『その程度、すぐに拾える情報だ。分かっているはずだろう』


「で? まさか労いの電話ってわけじゃないよな」


『私たちは、そんな関係ではない。用件は――この間の確認だ』


 わずかに眉を顰《しか》める。一体どの件だ、と。

 まるでそれを見透かしたように、


『五月頭の事件だ』


「は? なんで今さらだ。報告書は送っただろ」


『読んだ。だが報告書だけではない。お前の意見が聞きたい』


 亮太は黙り込む。

 すると義兄の声色が、わずかに柔らいだ。


『安心しろ。この回線は安全だ。録音も盗聴もない』


「会長《ジジイ》や義父《オヤジ》も聞いてないんだな」


『当然だ。私はお前の味方だ』


 亮太は何も答えない。天井を見上げる。

 奥のモニターでは、Bブロック一回戦が始まっていた。その歓声は、やけに遠く感じる。


「……安心しろ、ねー。本当にあの腹黒どもを出し抜いているのかねー」


『心配なら、どこかへ消え去れ。お前は自分の意思でこちらについたはずだ。それに』


 非常階段に、外の歓声がかすかに響いた。

 その熱とは対照的に、通話の声は冷えている。


『お前が多角スパイだということも分かっている。だからこそ、お前の本命が私であることを期待して、こうして私用の回線で連絡している』


「チッ……」


 思わず舌打ちが漏れる。言い返す言葉が見つからない。


「分かったよ。じゃあまず、報告書に書いてある通り、あの組織の“E”と“F”に接触した」


『本当にそのコードネームを持つ存在が実在したとはな』


「あぁ。今まで世界中で確認されてたコードネームは全部“G”から“Z”だ」


 壁に体重を乗せながら、床に座る。

 ひやりとした感触が背中越しに伝わった。


「捕縛しても殺しても、すぐ補充される。まるで規格品みたいにな」


『だが“A”から“F”は確認されていなかった。よって最初から存在せず、別の法則性だと見られていたが』


「だが今回、“E”と“F”が確認された」


 指先で床を軽く叩く。


「“E”と呼ばれた暗殺者が他の連中をまとめていた。透の報告じゃ、歴戦の能力者らしい」


『やはりその法則性を考えると“A”がトップ。その二人をあそこに出したのは、朔夜千歳への対抗策か……』


 その名を聞いた瞬間、亮太の指が止まった。


「透の証言じゃ、“F”。俺たちの前では藤林亜刀と名乗ってた男が、朔夜千歳の対抗策らしい」


『仮にもあの学園に潜入するため、それなりの駒を用意したか』


「つまり、“E”と“F”ですら捨て駒ってわけか……」


 自嘲気味に鼻で笑う。

 非常階段に、遠くの歓声がかすかに届いた。


『その可能性はあるが、情報を残さず殺し尽くす実力者の可能性の方が高いだろう』


「じゃあその二人を倒したあいつは……バケモノ、いや悪魔か」


『それに関して聞きたい。仮にもその二人は実力者だ。どうやって倒した』


 亮太は視線を落としたまま答えない。


『〔雷精の悪魔《ライトニング・ブラック》〕の強さは我々も把握している。だが“E”と“F”の能力は強力だった。どうやって勝ち切った』


 問いは淡々としている。

 だが、内容は核心だった。おそらく、この連絡の本題はそれだ。


「ここからは報告書には載っていない。あいつが俺にも話していないことだが」


 小さく息を吐き、呼吸を整える。


「……封印が解けた」


『封印が解けただと……軍の、いや、お前がかけたものか?』


「いや」


 亮太は首を振った。


「もう一つの方だ」


『アレが解けたのか……数年ぶりに』


 義兄の声がわずかに上ずる。


「そうだ。あの男がかけた封印が、解けている。それで出力と波動量が上がっている」


『具体的には? どの程度、外れている?』


「主だって上がっているのは、闇能力だな。バリエーションが、俺が掛ける前と遜色ないレベルだ」


『再封印、又は封印強化はしたのか?』


「無理だ。そんなことをすれば、俺が殺される」


 壁にもたれたまま、淡々と続けた。


「元々、軍から要請された封印も、あいつ自身が『波動量や出力だけでは戦いたくない』と了承してかけたものだ」


『仕方ないか……そういえば、お前の能力ならあの封印について何か分かったのか?』


「ああ。外れた瞬間に理解した」


 視線を落とす。視界には床が映ってない。

 しかし亮太の頭の中に、情報の羅列しかなかった。


「推測通りだ。あれは――あいつの成長とともには外れ、そして——あいつを守るための封印だった」


『やはりか……それについて〔雷精の悪魔《ライトニング・ブラック》〕は理解しているのか?』


「するわけがない。させる気もない」


『だろうな……まあ、いい。終わったことだ』


 亮太は立ち上がり、自販機の前に立つ。

 端末にスマートフォンをかざすと、短い電子音が鳴った。


 排出口に落ちたのは、冷えた緑茶の缶。

 プルタブを引き、ひと口含む。

 モニターから歓声が上がった。

 Bブロック一回戦が終わったらしい。


 思ったより早い、試合が早く終わったのか、思ったより考えながら話したせい、か。


「それで、こんな話、わざわざ今じゃなくてもよかっただろ」


『何、もう一つ用事がある』


「なんだよ」


『真然紗衣陽の監視を頼みたい』


「は? なんでだよ。……あんたのコネなら別に最初からつけられるはずだぞ」


 予想外の名前に、わずかに声が荒れる。


『当然つけているが、元々優先度は低い。監視役にもただの日記程度の中身でいいと言っている』


 亮太の反応を意に介さず、義兄は続けた。


「だったらなんで、今更そんなことを言う」


『最近、真然家が怪しい動きをしている。彼女が家の事情をどこまで理解しているかは、こちらでは分からないが、深くは関与していないだろう。あの家は古い家父長制だ』


 亮太は黙って聞く。


『黒神透と真然紗衣陽の接触内容だけでいい。あの二人、幼馴染らしいな』


「そうらしいな。どおりで真然流の動きをやるはずだ。……まさか、あの近くに真然家の拠点があるとはな」


『この三日間での動きは?』


「聞いた話じゃ、向こうからちょっかい出してるだけだ。今は仲も良くない、らしい」


『……なるほど。なら六極戦の間だけでいい。その二人を監視してくれ』


「了解了解。六極戦の間だけな」


 投げやりな調子で通話を切った。

 亮太は空になった缶を軽く振り、回収口へ放り込む。


「……めんどくせ」


 そう呟いて、観客席に戻ろうかと思ったが女子たちが怒っているのを思い出して頭を抱えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。