14話 二日目 その3
大歓声の中アリスは歩きながら、観客席を眺めていた。
(……いました)
透は笑ってなかった。頬杖をして静かに見ている。
(この一ヶ月半でどう変わったか、彼に見せましょう)
透の視線を感じ取り、ロボットに視線を移す。
深呼吸をして、双剣を構えた。
開始の合図が鳴る。
それと同時に能力を使用して加速して走り出し一直線突っ込んだ。
大剣が振り下ろされるが流れるように躱し跳躍した。しかも二段階。
また直進か――
そう思った観客の予想は、次の瞬間裏切られる。ただ唯一、透のみはほくそでいた。
空気中を踏み、高く跳ぶ。
落ちると同時に頭部のコア破壊しようとするが槍で迎撃した。
本来は無防備なはずだが、空気中を踏み方向転換をし避けた。
ロボットは大剣を大振りして、叩き潰そうとする。
右手の剣で受け止めて、左手にある剣を投げ飛ばし、頭部のコアを狙うが寸前で避けられた。
それを宙を蹴り、背後に周りこみ、超加速して手に取る。
背後をとったアリスは瞬時に背部のコアを斬った。
斬ったと同時に二段階跳躍して、頭部のコアを破壊する。
落下と同時に胸部を狙うが左から大剣を右から槍を挟み撃ちで攻撃を仕掛けた。
それを逆刃持ちの双剣で受け止める。
そしてグルリと一回転。
槍と大剣は大きく斬られた。
その隙を逃さず宙を蹴り、瞬時に胸部近づき、回転斬りをする。
着地した同時に歓声が大きく上がった。
実況とアナウンスから、どうやら女子新人戦最速らしい。
そんな歓声最中、透に視線を向ける。
透は拍手をしていた。
それを見て、小さく笑顔を見せる。
*****
「アリスさん〈接続〉を使って空中を足場にして反則的な動きをしてますね」
御沙希の眼を淡く輝かせ競技場を見ていた。
「えっ、あれ〈接続〉なの! 不安定な足場を固定する無系統型だよね。それを空中で!?」
ゆかは驚愕する。
「ええ、本来は壁や水辺などを立つ無系統型です。空中を蹴るなど高等技術。この学園でも出来る者は限られるでしょう」
御沙希の視線が透へ向く。
「……あの精度は独学では辿り着けません。あなたですね、透さん」
透は頬杖をついたまま、視線を外さない。
「……上手く出来てるな」
少しだけ口元が緩む。
「どころか、俺より上手いじゃねーか」
歓声が競技場を揺らす。
「新人戦最速か。すげぇじゃねーの」
話を頑張って逸らそうとするが、二人の視線に耐えきれず、答える。
「ああ、そうだよ。俺がやり方を教えたよ。だがあそこまでになるとは思っていなかったな」
口元が大きく釣り上がり、
「あそこまで成長するとは思わなかったな……面白い」
二人は最後の一言を敢えて聞かなかったことにして、話題を変える。
「……でもアリスちゃんの動きは、なんか綺麗だったね」
「そうですね、茜さんや紗衣陽さんとはまた違った戦い方をしてますね」
アリスの競技での戦い方を思い出しながら、
「茜さんのような鮮やかさとも、紗衣陽さんのような大胆さとも違った動きでした」
「そうだな……アイツの戦い方は、キレイだ」
御沙希の言葉に同意しながら、透は席を立つ。
視線はまだ、さきほどまでアリスが立っていたフィールドに残っていた。
「もう帰るのですか? この後、一般戦が始まりますよ」
「ああ。腹減ったから帰るわ。なんか買って、ホテルでゆっくり見る」
「そうですか。お疲れ様でした」
そう挨拶され、透は振り返らずに手だけをひらりと振って、その場を後にする。
「透くん、なんか楽しそうだったね」
「そうですね。おそらく、じっとしていられなくなったのでしょう」
数分後、茜とアリスが合流した。
「……あれ? 透のヤツは?」
「お腹が空いたから帰るそうです」
「そうなんですね……それは残念です」
アリスは目に見えてしょんぼりと肩を落とす。
「二人とも、決勝進出おめでとう」
場の空気を切り替えるように、ゆかが微笑んだ。
「ありがとう。決勝でも頑張るよ」
「ありがとうございます。優勝を目指して頑張ります」
「二人とも頼もしいですね。休憩がてら、一般戦を応援しましょう」
御沙希は二人を労い、再び競技場へと視線を向けた。
アリスと茜も席に座り直し、同じようにフィールドを見つめる。
*****
「天音……」
涼菜の声が、わずかに震える。
円香はその肩をぐっと掴んだ。
「しっかりしなさい。確かに他の二人は二位で終わったわ。でも天ちゃんは違う」
モニターに映る背中を見つめる。
「天ちゃんは、あの二人の分まで戦える子よ」
「そうね、天音は大丈夫よね」
そう言って涼菜はモニターに視線を移す。
モニターの中。
競技場立つ天音は、目を閉じていた。
歓声が遠く聞こえる。
深く息を吸い、吐く。
そして、ゆっくりと目を開いた。
そこに迷いはない。
(負けられないな)
自分のためだけではない。
届かなかった二人の想いも、背負っている。
スタートの合図と同時に、天音は一歩、前へ踏み出した。
身の丈ほどもある大剣を軽々と持ち上げる。
――次の瞬間、速度が跳ね上がった。
一瞬で間合いを詰め、懐へ。
だが、右手の大剣がそれを阻む。
鋼と鋼が噛み合い、火花が散った。
鍔迫り合い。
「はぁあああっ!」
気迫とともに、均衡が崩れた。
天音の一閃が、ロボットの大剣を真っ二つに断つ。
斬撃の勢いそのままに、右腕のコアへ踏み込む。
しかし――
左手の槍が迎撃に入る。
天音は左手を翳す。
その掌の前に、渦が巻いた。
空気が歪み、螺旋が槍を受け止める。
「やぁあああ!」
気合とともに渦が膨れ上がり、槍を弾き飛ばす。
体勢を崩した、その一瞬。
天音は踏み込む。
迷いのない一閃。
胸部コアを、真横から斬り裂いた。
次の瞬間、会場が大きく揺れる。
(やった……!!)
天音は思わず大きくガッツポーズをした。
その瞬間、モニターに文字に
――New Record
と表示される。
会場がどよめいた。
実況の声が一段高く跳ね上がる。
『出ました! 新記録です! これまでの最速撃破タイムを大幅更新!』
『これは凄い……決勝進出どころか、優勝候補筆頭と言っていいでしょう! 流石三年連続決勝進出を決めてきた剣城選手』
歓声が波のように押し寄せた。
天音は息を整えながら、胸の高鳴りを抑えきれずにいる。
「天音……!」
決勝進出を決めた天音の姿を見て、涼菜は安堵の息を漏らした。
目尻に溜まっていた涙が、ぽろりと零れる。
「よかった……本当に……」
円香と弓華は顔を見合わせ、ぎゅっと手を握り合った。
「やったわね!」
「はい……!」
控え室は歓喜に包まれる。
だが――
涼菜はそっと涙を拭うと、深呼吸をひとつ。
すぐに表情を引き締めた。
「それじゃあ、明日。特に円香、風馬君、それと盾宮君」
三人の名前を順に呼ぶ。
「頑張って決勝進出してね」
柔らかな声。けれど、その奥には強い信頼がある。
円香は真剣な眼差しで頷いた。
「任せて」
風馬は胸を叩き、
「もちろんです!」
力強く返す。
そして、少し離れた場所にいた盾宮も、静かに視線を上げた。
「当然だ」
短い一言。
だがその瞳には、揺るぎない自信が宿っている。
*****
大会会場近くにある軍の施設内。
「あら? 久しぶりね。どうしたの、透君?」
部下に指示を出していた井戸川静が、書類から顔を上げた。
「こっちに来るとは思わなかったわ」
「シミュレーターを使いたいのですが。少し、いいですか?」
その一言で、静の表情がわずかに曇る。
「えっとね……選手のシミュレーター使用は禁止されているの。だから、ごめんなさいね」
透は小さく息を吐いた。
「そこを、なんとか」
透が頭を下げる姿を見て、静の目が細まる。
「今、昂ってて。寝れそうにないんですよ」
一瞬の沈黙。
静は透の目を見る。
そこにあるのは、疲労でも焦りでもない。
純粋な――闘志。
「はぁ……」
静はこめかみを押さえ、小さく息を吐く。
「新型戦闘ロボット試作機の報告書作成と、後始末。全部あなたがやるなら、いいわ」
一瞬の間。
透の口元がゆっくりと吊り上がる。
「マジですか」
「ええ。ただし――」
静の目が鋭くなる。
「壊しすぎないこと。データは全部提出。ログも誤魔化さない」
「了解」
返事がやけに早い。
その瞳に宿る熱を見て、静は肩をすくめた。
「やれやれね」
結局、透が施設を出たのは明け方だった。
*****
一位『国立能力統合教育大学附属学園』
二位『私立明星学園高等部』
三位『国立北辰能力専門高等学校』
四位『私立業天学校第三等部』
五位『私立弦月学園高等部』
六位『国立天津能力科高等学校』




