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13話 二日目 その2

三人の選手が横一列に並び、それぞれの戦闘AIロボットと正対する。


 ――競技開始の合図。

 その瞬間、戦闘AIロボットが一斉に起動した。  


 ロボットの両腕が展開する。

 右に大剣、左に槍。


 紗衣陽の人工心器は槍。

 他の選手から数秒遅れたタイミングで走る。


 ある程度近づくと、ロボットは攻撃を始めた。

 振るわれた大剣が頬をかすめ、髪が散る。

 続けて左の槍が腹を狙うが、紗衣陽は半歩だけ横にずらし、それだけで回避した。


(真然流 槍術 虎傑《こけつ》)


 柄の端を片手で跳ね上げ、そのまま鋭く突き出す。

 ――だが。

 ロボットの大剣が横薙ぎに走った。


 紗衣陽は咄嗟に左腕を差し出す。

 金属音が弾け、衝撃はそこで止まった。


(練習通りにはいかないか。……まあいい)


 そんなことを考えながら、大剣を左腕で力任せに弾く。


 返す刃が来るよりも早く、最小の跳躍《ちょうやく》でその場を離脱。

 空中で体勢を整え、そのまま右肩のコアへ狙いを定める。


 槍を投擲《とうてき》する。

 迷いのない直線がコアを穿《うが》ち、破砕した。


 それでもロボットは止まらない。

 残る左手の槍が、すぐさま迫ってくる。


(真然流 格闘術 横牛《おうぎゅう》 反防《はんぼう》)


 紗衣陽は迫り来る槍に合わせ、拳を横から叩き込んだ。

 その衝撃で、ロボットの槍の穂先が折れ曲がった。


 宙に浮いたまま身を捩《よじ》る。

 伸ばした手で、右肩に突き刺さった槍を掴んだ。


 そのまま引き抜き、着地と同時に横薙ぎに振るう。一閃。

 両膝のコアが砕け散った。


(これで攻撃力と機動力は失った)


 そのまま胸部に向かってさらに一歩、踏み込む。そして槍で胸部コアを狙い、突き刺しにかかる。

 だが、ロボットは仰け反り、穂先を外した。


(……ッ!?)


 わずかに目を細める。


(やっぱり頭部のコアを破壊しないとダメか。仕方ない、タイムロスだけど)


 迷よわず、紗衣陽は槍を天高く投擲した。


 ロボットはそれを無視し、残る稼働部で迎撃に入る。


 ――直後。


(真然流 槍術 鷲霞《わしがすみ》)


 落下していた槍が、導かれるように軌道を変える。

 頭部へ突き刺さった。


 コアが損傷し、わずかに動きが鈍る。

 だが、ロボットは止まらない。

 残る腕部が振り下ろされる。

 ――直撃。


 それでも、紗衣陽は止まらない。


(真然流 格闘術 重鮫《じゅうこう》)


 瞬時に懐へ入り込む。

 振り抜いた拳が、胸部装甲を貫いた。

 そのまま内部コアを粉砕する。


 機体は完全停止した。


*****


(『硬化』か……前に見た時より、硬度が上がっているな)


 湧き上がる観客席にて、透は腕を組んだまま、視線を外さない。

 アリスと茜の応援に来ただけのはずだった。

 競技そのものに深入りするつもりはない。

 それでも第一戦、紗衣陽の動きから目が離れなかった。


(真然流の動きも、キレも確実に上がっている)


「透くんの幼馴染、紗衣陽ちゃんだっけ?

 すごいね……直撃だったよね、あれ」


 透が過去の彼女の動きと今の動きを思い出しながら考えていると、右隣に座るゆかが、小さく息を呑みながら声をかける。


「……アイツはSランクの能力者だ」


 淡々として喋り、


「それに攻撃特化の真然流。あの競技なら、相性は悪くない」


「彼女の能力は『硬化』ですか?」


 ゆかの右隣に座る御沙希がそう尋ねる。


「ああ、そうだ。だからあんな無茶苦茶な戦い方が出来る」


 小さく息を吐く。その声音には呆れと、ほんの少しの懐かしさが混じっていた。


「昔から無茶苦茶な女なんだよ」


「どんな感じの方だったのですか?」


 御沙希が興味を持ったのか身を乗り出す。


「いわゆる、ガキ大将ってやつだ。いつも前を歩いてた」


 視線を試合会場から外し、遠い昔を見るように目を細めた。


「振り向きもしない。みんなが着いて来て、当然みたいな顔をして」


 そして、ぼそっと呟く。


「そんなヤツだったよ」


 透の表情がわずかに曇ったのを見て、ゆかはパンッ、と手を叩き、


「次は茜ちゃんが出る番だね! ほら、応援しよ?」


「そうですね、しっかり応援してあげましょう」


 御沙希は競技場に目を向ける。

 どうやら第二回戦が始まるようだ。


*****


「ふー……」


 茜は大きく深呼吸し、競技場へ足を踏み入れた。

 歓声の中、静かに大太刀を構える。


 スタートの合図が鳴った。


 それと同時に一直線に走り出す。

 大剣が振り下ろされる前に、右腕のコアを斬り破った。


 ロボットは左腕の槍で反撃する。

 しかし茜はそれを鮮やかに躱し、時に大太刀で受け流した。

 攻撃をいなした隙にしゃがみ込み、両膝のコアを一閃する。

 体勢を崩した瞬間、背後へ回り込んだ。


「はぁああ!」


 振り返る前に下から上に斬りあげて背部のコアを破壊する。


「四つ!!」


 そのまま跳躍し、上から頭部のコアを突き刺した。

 落ちながらの流れで右肩のコアを斬り着地する。


「六つ!」


 ロボットの左腕はまだ動くので槍で突きながら退避するが、見切っているようにしっかりと避けながら近づく。


 近づきながら左腕のコアを斬り破壊した。

 斬った同時に懐に入り胸部のコアを貫く。

 ロボットは機能を停止した。


 茜の呼吸だけが、静かに残る。



 会場を出ると、壁にもたれた紗衣陽が待っていた腕を組み、睨んでいた。


「なにアレ、あたしへの当てつけ?」


 茜は足を止める。


「違うよ」


 それだけ答えた。


「ボクはボクのやることをやっただけだよ」


 紗衣陽は舌打ちし、視線を逸らす。


「……あたしより静かに勝つなよ。ムカつく」


「そっちこそ、無茶しすぎだね。いつか壊れるよ」


 一瞬だけ視線が交わった。

 どちらも、相手の実力を疑っていない目である。

 そのまま茜は無言のまま立ち去るのであった。

 その姿を紗衣陽は静かに見ている。


*****


 その鮮やかさに会場から拍手が送られた。


「すごいな、まるで解体作業のようだったな」


 透は思わず感嘆《かんたん》を声を漏《も》らす。


「透くんはまだ、茜ちゃんの戦うところをしっかり見たことなかったよね」


「ああ、あそこまでとは思ってなかったな」


 透は目を細め、


「しかもアレ、能力じゃないよな」


「そうなんだよ! アレはね、動体視力が凄くて、ほとんど未来視変わらないレベルまだ見えていて、それを実行できるほどの身体能力の高さと反射神経を持っていてね、それで……」


 ゆかは自分のことのように誇らしげに捲し立てる。

 その様子に、透はわずかに口元を緩めた。


(純粋な反射と技術だけで、あれをやるか。

 ……あそこまで無駄がないのか。面白い)


「ゆかさんそこまでです。第四回戦にアリスさんが出場しますので、今度はそちらを応援しましょう」


 御沙希は捲し立てるゆかを宥《なだ》めながら、話題を変える。


「アリスねー。アイツ、完全にオーバーワークだったらしいな」


「うん、茜ちゃんも同じこと言ってた。あれ、相当きてるって。……平気かな」


 不安げに呟くゆかに、御沙希は静かに微笑んだ。


「大丈夫だと思いますよ。彼女は……相当強い人ですから」


 第三回戦が始まる。

 三人は静かに、その様子を見守った。


 近接競技ゆえに、会場の熱気はひときわ高い。

 透もまた、選手の一挙手一投足を目で追いながら、胸の奥で闘志を燃やしていた。


「こうして見ると、紗衣陽ちゃんや茜ちゃんが凄いって言われるの、分かるよ」


 第三回戦の選手の動きを追いながら、ゆかがぽつりと呟く。


「あの二人は相当な武術家だからな。武術があるからこそ、その辺の能力者よりずっと上にいける。こういう競技は、特に二人の真価が出る。……もっとも、動きは対照的だがな」


 言い終えた途端、じっと視線が突き刺さる。


「……なんだよ」


「随分と詳しいんだね」


「いえ、今日はやけに饒舌だなと思いまして」


「うるせ。別にいいだろ」


 拗ねたように言う透に、ゆかと御沙希は顔を見合わせ、くすりと笑った。


 それからは特に会話もなく、三人は静かに試合に視線を向ける。


 やがて、試合終了のブザーが鳴った。

 拍手が会場に鳴り響く。


 紗衣陽の荒々しさとも違った。

 茜のような鮮烈さがあるわけでもない。

 堅実に、無駄なく勝ち切る。

 決勝へ駒を進めたのは――北辰の選手だった。


「次はアリスか……さて、どうなることやら」

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