12話 二日目 その1
本格的な試合はいよいよ本日からだ。
競技は朝九時に開始され、余裕を見て夜八時まで続く。
ここから大怪我は必須だが、軍の最新医療技術や治癒能力者が揃っているので、よっぽどの大怪我ではない限り半日で回復出来るのだ。そのため、決められたレギュレーション範囲までなら大きく能力を使用することが出来る。
『ライディング・ウィング』は、本日のメイン競技である。
今大会で初めて採用された競技ということもあり、会場は大きな盛り上がりを見せていた。
スタートダッシュの速さ、空中での操縦技能、そして能力による妨害。
それらをいかに捌き、回避し、あるいは逆に利用するかが勝敗を分ける。
男子の部は、業天と天津が上位を総なめにした。
一方、女子の部は別の意味で盛り上がりを見せていた。
観客席には、異様なほど男性観客が多く詰めかけてくる。
「おいおい、見ろよ透。あそこの選手が着ているライダースーツ、完成度高すぎだろ」
開会式のあと姿をくらましたと思ったら、『ライディング・ウィング』の女子の部が始まる直前、ホテルで観戦していた透を、亮太は無理やり引っ張り出してきたのだ。
亮太は目を輝かせ、競技場に視線を釘付けにしている。
「……競技を見ろって」
「いや、見てるって! それにさっきお前だって興奮してただろ、あのフィット感とか、空気抵抗の少なさとか! 動くたびにラインが――」
「ライダースーツの話じゃなくて、競技内容を見ろって言ってるんだ」
透は即座に切り捨て、額を押さえた。
とはいえ、先ほどの空中での攻防には、多少なりとも興奮を覚えたのも事実だ。
だが――
別の意味で盛り上がる観客たちの様子を見て、すぐに肩を落とす。
なお、女子の部では六校すべての選手が、最低一人は決勝進出を決めていた。
*****
『ライディング・ウィング』は朝から夕方まで続いた。
そして夕方。
満を持して、『エッジ・デストラクション』の女子の部が始まる。
待機室にて。
「久しぶりだね、真然さん」
ベンチに腰掛け、集中していた紗衣陽は、不意に掛けられた声に顔を上げた。
「……久しぶり、武本さん」
そこに立っていたのは、茜。
「キミもこの競技だったとはね。これは負けられないな」
「出場ブロックは違うから、実際に当たるのは決勝からだと思うのだけど」
「それでもタイムも得点も残る。予選とはいえ、ね」
言葉は穏やかだが、視線は鋭い。
二人の間に、静かな火花が散る。
そのとき、不意に茜の袖が引かれた。
「……ん? なんだい?」
引っ張った相手に気づき、二人は同時にそちらへ視線を向ける。
そこにいたのは、小柄な少女――アリスだった。
(あの人……透を呼んでいた人)
昨日も思ったが、改めて見ると、随分と整った顔立ちをしている。
思わず、紗衣陽は一瞬だけ目を奪われた。
「お二人も、知り合いなんですか?」
「……あ? ああ、そうだよ。彼女の家も【七星大家】の一員でね。そこからの繋がりさ」
「なるほど……」
アリスは一歩前に出て、紗衣陽に向き直る。
「こんにちは。私は白神アリスです」
丁寧に頭を下げ、
「真然紗衣陽。よろしく」
その礼儀正しさに、思わず同じように返す。
その様子を見て、茜はわずかに頬を緩めた。
そして、ふと思い出したように口を開く。
「それにしても、キミが透と幼馴染だったなんてね。彼の動きを見て、もしかしたらと思ったけど」
「……なるほど。アイツ、まだあの動きが出来たんだ」
それを聞いて、紗衣陽は目を細めた。
「でも安心して。アイツ、あの道場には三年しか通ってないから。基本しか出来ないはず」
「やっぱりな。彼の動きは、あの武術の基礎だけだ。それに妙なアレンジや、他の体術も混ぜていた」
二人の会話を聞きながら、アリスは首を傾げる。
(彼の……体術? 確か、マイナーな武術だって言っていたような……真然流……? ――真然流!!)
「……その武術に、何かあるのですか?」
思わず、口にしていた。
「……あの武術は、喰らった相手と、使った本人を同時に壊す。そういう、効率だけを突き詰めた武術なんだよ」
その言葉に、アリスは思わず息を呑む。
「基礎的な動きだから、大したダメージは出ないけどね。それでも、たった三年で刀剣術と格闘術、二つの基礎を身につけている時点で、相当な天才だけど」
二人の会話には、どこか棘があった。
その空気を感じ取ったアリスに、茜が小声で耳打ちしながら補足する。
「彼女の家は、本来『研究』を担当している。でも真然家は、政治、武術、芸術、経済、そして軍事――あらゆる分野に関与している。だから今、【七星大家】の中では、正直疎まれているんだ」
その時、競技開始を告げるアナウンスが響いた。
第一回戦に出場する紗衣陽は、競技用の人工心器を手に取る。
会場へ向かおうとした、その背中に――茜は目を細めながら話しかけた。
「……もう一つだけ聞いていいかい。彼の能力の高さ、その理由を知っているか?」
「さあ? それは、あたしにも分からない。むしろ、一番聞きたいのはあたしだよ」
僅かに茜たちの方に振り返り、少しだけ視線を落として答える。
「でも、中学に上がってから、アイツの能力は一気に伸びた。……ああ、そういえば、よくどこかに行ってたから、それが原因かも」
紗衣陽は目を細め、思い出すようにボソボソと続けた。そして二人を見据えて、はっきりと宣言する。
「だから――透にも、【七星大家】にも負けない。もちろん、白神さん。アンタも敵だよ」
目を見開き、闘志と覚悟の決まった表情で宣戦布告した。
「名前で思い出したけど、SSランク百位だったよね? まぁでも相手が誰だろうと関係ない。あたしは負けない」
そして、そう強く言い切り、紗衣陽は競技場へと向かっていく。
「今から、それを証明してあげる」




