↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/70

11話 一日目 その5

 控え室へ向かう廊下を歩いていると、天井に設置されたモニターから、突然大きな歓声が湧き上がった。


 思わず足を止め、顔を上げる。

 モニターには競技場の様子が映し出されていた。

 ――どうやら、次の試合が始まったらしい。


「気になりますか?」


 アリスからの質問に、透は視線を戻さずに答える。


「まぁな。俺も長距離狙撃は、そこまで得意な方じゃないからな」

 

 一拍置いて、淡々と続けた。


「……ああいう連中には、多少なりとも興味がある」


「そうなんですね、貴方も苦手なことがあるんですね」


 小さくふふっと笑う。


「そういえば、隣にいた方が幼馴染の人なんですね」


「なんで知っている?」


 透は視線を向ける。


「ゆかが、大騒ぎしていましたから」


「大騒ぎって……」


 透は呆れたように息を吐き、肩の力を抜く。


「まぁ……そうだな。ああ、アイツが幼馴染だ」


「仲が良かったのですか?」


「昔はな。今は……どうなんだろうな」


 そう言って、少しだけ遠い目をする。


「どうして、なんです?」


 覗き込むように話しかける。


「アイツは、俺の家族を知っている」

 

 透は、歩きながらぽつりと続けた。


「それを失った俺は……アイツから伸ばされた手を振り払った。それ以降だな、疎遠になっていったのは」


「……なるほど」


 それ以上、アリスは何も言わなかった。

 二人の間に、短い沈黙が落ちる。


 その沈黙を破るように、天井のモニターから大きな歓声が湧き上がった。

 透は一度だけモニターを見上げ、すぐに視線を戻した。


「……決着、ついたみたいですね」


「ああ。国能附の勝ちだな」


 透は一度だけモニターを見上げ、すぐに視線を戻す。

 そして何事もなかったかのように、再び歩き出す。


*****


「飯塚さんも、頑張っているけど……マズいわね」


 始まった第四回戦をモニター越しに眺めながら、涼菜は苦悶の表情を浮かべた。

 歯噛みするように唇を噛み、視線は的から一瞬たりとも離れない。

 実力はある。集中力も悪くない。

 ――けれど、相手が悪い。


 そんな空気を、天音も感じ取っていた。

 何も言わず、ただ腕を組んで画面を見つめる。


「……流れが、向こうだな」


 ぽつりと漏らしたその言葉は、誰に向けたものでもなかった。


 やがて、控え室の扉が開いた。


「お帰りなさい。透君、アリスちゃん。……ありがとう」


 いつもの柔らかな笑み。

 けれど、その奥にわずかな疲れが滲んでいた。


「ただいま戻りました」


「失礼します」


 天井のモニターに映る試合が決着を迎え、歓声が遅れて響く。

 透は結果を一瞥し、静かに目を細めた。

 ――弦月の勝利。


 ざわめきが続く中、涼菜は一歩だけ踏み出す。


「それで会長、用事ってなんですか?」


「ええ……少しだけ」


 短い沈黙。

 柔らかい表情が、ゆっくりと消える。


「黒神透さん」


 名を呼ぶ声音は、静かだった。


「初日の成績は、正直に言って芳しくありません。このままでは総合優勝に届かないでしょう」


 一瞬だけ、視線が揺れる。


「本当は……あなたにこれ以上、負担をかけたくはありません」


 それでも。


「――五日目の決勝を、あなたに託します」


 命令ではない。願いでもない。信頼だった。

 透は数秒だけ黙り込み、やがて顔を上げる。


「……分かりました」


 その短い返事に、迷いはなかった。

 周囲の空気が、静かに引き締まる。

 託された重みを、誰もが理解していた。


「そういえば透君? 君さっきまでどこにいたの?」


 涼菜はほっとしたように肩の力を抜き、それから思い出したように首を傾げた。


「何となく、『ロングレンジ』を観客席で観戦してました」


 透は淡々と答え、壁際にもたれかかる。

 緊張から解放されたせいか、その声音は少しだけ低く、落ち着いていた。


「あら、それはごめんなさいね。じゃあ……戻るのかしら?」


 涼菜は申し訳なさそうに眉を下げる。

 その様子を見て、透は小さく息を吐き、首を横に振る。


「日差しが強いので、今日はもうここで涼みながら観戦します」


 ぶっきらぼうな言い方だったが、拒絶の色はない。ただ事実を述べているだけだ。


 その後、透は控え室に備え付けられている炭酸飲料を手に取り、栓を開けると一気に喉へ流し込んだ。

 喉を刺す刺激に短く息を吐く。


 その様子につられたのか、周囲にいた人々も次第に肩の力を抜き、控え室にはゆるやかな空気が戻っていった。


 そして一般戦が始まる。


「おっ……弓華のヤツ、出てきたな」


 モニターに映る入場シーンを見て、天音が知り合いを見つけたように声を上げる。


 画面の中では、選手たちがそれぞれ人工心器を構えていた。

 長距離狙撃用の銃型が並ぶ中、ただ一人――彼女だけが弓矢を手にしている。


「弓矢ですか……珍しいですね」


 透は思わず口にする。

 ここで行われているのは『ロングレンジ・スナイプ』。


「ああ。彼女は能力の性質上、銃より弓矢の方が合っているんだ」


 天音が、モニターから視線を離さずに答える。


 弓華は静かに構え、呼吸を整えている。

 その動きには、無駄がなかった。


 そして――

 スタートの合図が鳴る。


 放たれた矢は、波動弾――あるいは能力弾と見紛うほどの速度で空を裂いた。


 一瞬の閃光。


 次の瞬間、最初の的を貫通する。

 止まらない。


 中央を穿ったまま、矢はその勢いを殺さず、次の的へ――さらにその先へと突き進む。

 二つ目、三つ目、その次、その次も。


 ――たった一矢。


 すべての的を、中央だけを撃ち抜いて射抜いていた。

 会場が、一拍遅れてざわめく。


「……」


 透は、思わず息を忘れていた。


「アレが弓華の能力だ。そして、弓矢を使う理由でもある」


 隣で、天音が静かに解説を入れる。

 透は目を細め、モニターから視線を逸らさない。


 透はモニターを睨むように見つめたまま、思考を巡らせる。


(……射抜いた矢を操作する能力ってところか)


 一般戦第一試合は、地水弓華の勝利。

 続く第二回戦は国能附の男子選手。

 第三回戦は明星の男子選手が制し、

 第四回戦は国能附の女子選手が勝ち上がる。


 結果――

 決勝戦は明星と国能附による、一騎打ちとなった。


「まさか、ここまで綺麗に分かれるなんてね……」


 涼菜は眉を下げ、どこか困ったように呟く。


「一般戦は明星《ウチ》と国能附が綺麗に分かれてたから、もしかしたらとは思ってたけど……本当にこうなるなんてねー」


 円香は苦笑交じりに苦笑いを浮かべた。


 その後、競技を終えた選手たちが次々と戻ってくる。

 涼菜を中心に、生徒会や関係者が声を掛け、互いの健闘を労い合った。


 歓声とため息が入り混じる中――

 波乱に満ちた初日の試合は、すべて幕を下ろした。


*****


一位『国立能力統合教育大学附属学園』

二位『私立明星学園高等部』

三位『国立北辰能力専門高等学校』

四位『私立弦月学園高等部』

五位『私立業天学校第三等部』

六位『国立天津能力科高等学校』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。