↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/66

10話 一日目 その4

『――以上で、『シューティング・ソニック』はすべて終了しました。新人戦では明星学園が一位を獲得しましたが、一般戦では国能附の選手二名がともに決勝進出。その結果、現時点での総合順位は国能附が第一位となっています』


 実況と解説が言葉を交わしながら、モニターに成績が映し出される。


 一位 『国立能力統合教育大学附属学園』

 二位 『私立明星学園高等部』

 三位 『国立北辰能力専門高等学校』

 四位 『国立天津能力科高等学校』

 五位 『私立弦月学園高等部』

 六位 『私立業天学校第三等部』


『続きましては、『ロングレンジ・スナイプ』。新人戦、一般戦ともに、十五時より競技開始となります』


 そのアナウンスを聞きながら、涼菜は小さく息を吐いた。

 苦悶というほどではないが、決して軽くもない表情である。


「まさか、私たちが二位スタートになるとはね。出鼻を挫かれた感じだわ」


「……ごめんなさい」


 乾《いぬい》が、申し訳なさそうに頭を下げた。


「いいえ。あなたも二位を出してくれたのよ。

 十分すぎる結果よ」


 涼菜はそう言って、静かに首を振る。


「次は、ウチが頑張ります」


 飯塚姫花が勢いよく手を挙げ、大きな声で宣言した。


「ええ、お願いね。……でも、あまり気負わないこと」


「はいっ!!」


 元気な返事が控え室に響く。


「ほら、新人がここまで言ってるんだ。お前らもシャキッとしろ」


 天音が、『ロングレンジ』に出場予定の三年生たちの肩を、順に叩いて回った。


「いやぁ、姉御ォ……頑張りますけど、正直プレッシャーが」


「そうですよ、委員長。私たち、かなり重圧感じてますし……」


 二年で風紀委員会副委員長を務める地水《ちみず》弓華《ゆみか》が、やや拗ねたように続ける。


「それに委員長は明日なんですから、今日はもう休まれたほうが……」


 何を言っているのだ、という顔で彼女は首を横に振った。


「みんなが頑張っているんだ。アタシが休んでどうする」


 それ以上誰も何も言えない。


*****


 観客席にて、透は間もなく始まる『ロングレンジ・スナイプ』の新人戦予選を眺めていた。

 遠距離に並ぶ標的群と、風向きを示すホログラム表示が淡く揺れている。


「隣、いい?」


 背後から、不意に声がかかった。


「……ッ!?」


 反射的に振り返る。

 そこに立っていた姿を見て、透は一瞬、言葉を失った。


「……紗衣陽」


「さっきぶりだね」


 彼女は当然のように隣へ腰を下ろし、視線をフィールドへ向けたまま続ける。


「アンタ、インタビューに追われてたみたいだけど、大丈夫?」


「なんとか巻いたから問題ない」


 透も前を向き直した。

 視界の端で、次々と選手が配置につくのが見える。


「ふぅん。でも、決勝で勝ったら同じことになると思うよ」


「えー、面倒だな」


  心底、嫌な顔をして、その顔を見て紗衣陽は小さく呟く。


「……いや、そうはならないか」


「はっ? なんでそうならないんだ?」


 その問いに、彼女はようやく視線を向けた。

 短く整えられた髪の下、迷いのない瞳が透を射抜く。


「だって、あたしたちが優勝するから」


「……言ってくれるねー」


 透はその挑発に笑みを浮かべる、そして再びフィールドへ視線を戻した。


 試合が開始される。

 とはいえ、二人とも自分の学園の選手が出場していないせいか、フィールドに向ける視線はどこか散漫だった。


 乾いた発砲音と着弾音が、規則正しく響く。

 観客席の前方では真剣な空気が張りつめているが、二人の周囲だけが、少し浮いたような間を保っていた。


「そういえばさ」


 透が、何気ない調子で口を開く。


「なんで今日は、この辺を彷徨《うろつ》いてるんだ?」


「あぁ」


 紗衣陽は、視線を向けたまま答える。


「仲のいい先輩と、友達が試合に出るから。それの応援」


「お前が、応援ねー」


 思わず漏れたような透の言葉に、紗衣陽がぴくりと反応した。


「は? バカにしないでよ」


 彼女はちらりと睨みを向ける。


「友達くらい、普通にいるでしょ」


「へぇ?」


「……なにその顔」


 数秒間を置いて、今度は逆に問い返してきた。


「そういうアンタこそ、いるの?」


「いや、まぁ――」


 言いかけたところで、紗衣陽の視線がふっと横に逸れる。


「……さっき、一緒にいた女の子」


 その声色が、わずかに変わった。


「まさか……彼女?」


「いや、フツーに友達だよ。付き合ってない」


「だよね……アンタが彼女なんて」


 試合終了のブザーが鳴り響く。

 直後、会場が大きく沸き立った。どうやら弦月の女子選手が、すべての的の中央を撃ち抜いたらしい。


「凄いね。あたしの能力と性質じゃ、長距離は無理だし」


「そうだな。お前には無理だな」


「言い方。まるで自分なら出来ます、みたいじゃん」


「事実だ」


 透が当然のように言い切ると、紗衣陽は汚物でも見るかのように目を細めた。


「……ホント、そういうとこ大ッ嫌い」


「へいへい」


 軽く受け流す透を尻目に、次の選手たちが入場し、準備を始める。

 そこに並んだのは、明星と国能附の選手だった。


「そっちの男の選手、どんな人?」


「詳しくは知らん。ただ、遠距離狙撃に関しては相当だって話だ」


「ふーん」


 紗衣陽は頬杖をつき、気のない相槌を打つ。

 そのとき、国能附の女子選手がこちらに気づき、露骨に驚いた表情を浮かべた。


「あれが、さっき言ってた友達だな。随分と愉快そうな人だ」


「そうだけど……何やってんの、アイツ」


 明らかに試合に集中していない様子に、紗衣陽は思わず立ち上がる。


「ちょっと! ちゃんと集中しなさい!」


 一拍置いて、追い打ちのように叫んだ。


「じゃないと、メシ奢らないよー!」


 その声が届いたのか、今度はしっかりと選手は集中を取り戻す。


「まったく……あの子は」


 小さく息を吐き、席に腰を下ろした。

 その声音には呆れと、ほんのわずかな安堵が混じっている。


「とりあえず……これは勝ったか」


 透はニヤッと口元を緩めた。


「それは、分からないよ」


 選手たちが構え、数秒の静寂ののち、合図が鳴った。

 一斉に引き金が引かれる。

 狙うは的の中心――中央を射抜けば、得点は最大。


 両選手とも、ほとんど寸分違わず、的の中央を撃ち抜いた。

 そして、最後の十キロ。

 ほぼ同時に二つの穴は、どちらも正確に中心を捉えている。


 審査が入った。同点の場合、勝敗は狙撃タイムで判定される。

 ……数分間の審査。

 その間、誰一人として言葉を発さなかった。

 観客も、選手も――そして、透や紗衣陽でさえ。


 電子音が鳴り、審査結果が確定する。

 一瞬の間。

 次の瞬間、巨大モニターに判定が映し出された。

 ――勝者、天ヶ瀬《あまがせ》日菜《ひな》。

 国能附の選手であった。

 わずか、〇.〇二秒。

 狙撃タイムの差だった。


 会場が、遅れて爆発する。

 歓声とどよめきが渦を巻き、観客席を飲み込んだ。


「……ほらね」


 紗衣陽は、肩をすくめて小さく笑う。


「言ったでしょ。分からない、って」


「やるねぇ、二人とも」


(うちのところは波動弾だが……あそこまで正確に、しかも安定して長距離を飛ばせるとは。それが出来るのは、軍でもそう多くはいない)


 透は目を細めた。


(そして、あの女――能力は『貫通』か。単純だが、影響距離が異常だな。つまり勝敗を分けたのは発動速度か)


 爛々とした光を宿した瞳で、透は能力の痕跡をなぞる。

 ――『魔眼』による分析だった。


 試合終了後、天ヶ瀬日菜は結果を待つこともなく、足早に会場を後にする。

 その背中を見送りながら、紗衣陽は小さく息を吐いた。


「あぁ……これ、あの子。たぶん――」


 言葉を切り、苦笑する。


「こっちに来るな」


 そう言った直後、観客席の通路の向こうで、人影が立ち止まった。


「さいちゃんが男の子と一緒にいるッス!」


 次の瞬間、弾かれたような声が響く。

 人影は息を荒くしながら、こちらへ一直線に駆けてきた。

 周囲の視線などまるで気にしていない。

 どうやらさ予想は、的中したようだ。


「日菜、ち、違うのよ!」


 間髪入れず、座ったまま紗衣陽は慌てて身を乗り出す。


「そう、コイツは昔からの腐れ縁! ただの顔馴染みよ、ホントにそれ以上でも以下でもないから!」


「それって、いわゆる幼馴染じゃないッスか? なんで教えてくれなかったッスか?」


「……そ、それは……」


 その光景を、透はあえて口を挟まず、ただ傍観していた。

 ――が、視線を向けたままでいることに、日菜はすぐ気づく。


「初めまして。私、天ヶ瀬日菜って言いまス。さいちゃんとは高校から仲良くさせてもらってますッス」


「あぁ、よろしく」


 反射的に手を差し出すと、次の瞬間、その手を思いのほか強く握られた。


「『シューティング・ソニック』、すごかったッスね。ウチは安泰だろって言われてたのに……本当に。尊敬しまス」


 目を輝かせ、真っ直ぐな尊敬の眼差しを向けてくる。


「ありがとう。……とりあえず、これからもアイツと仲良くやってくれ」


「はい!!」


「なんでアンタに、そんなことを言われなくちゃいけないのよ」


 紗衣陽は、本気の殺意をそのままぶつける。

 だが、透はそれを軽く受け流していた――その時。


「透!?」


 不意に名前を呼ばれる。

 声のした方へ視線を向けると、そこにはアリスの姿があった。


「アリス、一体なんの用事だ?」


 女の子に囲まれている状況など、まるで気にも留めていない様子で、彼女は淡々と言う。


「会長が探していました。とりあえず、控え室に来てください」


「あぁ、わかった。今向かう」


 そう言って立ち上がると、透は振り返ることもなく、ただ一言だけ残す。


「それじゃあ、また今度」


 その背中を、二人は並んで見送った。


「……NTR?」


「は? ぶっ殺すよ、アンタ」


 今度は、日菜が真正面から殺意を向けられる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。