6話 みんなの決意
六極戦を前にした学園は、どこか浮き足立っていた。
訓練場ではいつも以上に能力が飛び交い、校舎の廊下では出場競技の話題が絶えない。
数日前から、生徒会から出場選手の通知が端末に送られだした。
透はその画面を、感情の読めない表情で眺めている。その横から鬼龍院亮太が話しかけた。
「透、出場競技どうなった?」
「『シューティング・ソニック』と、『トリニティ・デュエル』」
「……二つ? マジで?」
「嗚呼、まじで。面倒臭い半分、オモシレェ半分」
「相変わらず、やる気があるだが、ないんだが」
そんな回答をされ、ヤレヤレと肩をすくめる。
「それで、お前は?」
「俺なんて、『レガリア・サプレッション』だぞ? しかも司令塔役ってだけで、胃が痛いんだけど」
「お前が司令塔ねー、まぁーでも軍でもよくやってたし、適任だろ」
「褒めてねぇよな、それ!」
亮太はそう言いながらも、端末から視線を外さなかった。
「団体戦は点数配分高いから、プレッシャーだし。チームメイトは個性強いのばっかだし、疲れる」
「あっそ、頑張りな」
透はそれ以上、何も言わなかった。
そう言いながらも、亮太の表情には責任感がにじんでいる。
勝敗を左右するのは前線だけではない。
誰よりもそれを理解しているからこそ、彼はぼやくのだ。
「そういえば練習とか行かなくていいのか?」
亮太はそう質問投げかけ、椅子に乱雑に座り、グダッと机に臥す。
「俺がする必要ねーだろ、他の選手の邪魔になる、だけだわ」
この答えに自分の最大の悩みは、こいつだった事を思い出し呆れるのであった。
一方――訓練棟の奥。
「……はぁ」
アリスは壁にもたれ、静かに息を吐く。
生徒会業務。
『エッジ・デストラクション』。
それに、透との稽古。
人工心器を握った手は、まだ離れない。
「……少し、詰め込みすぎましたね」
そう呟き、彼女は練習用ロボットを再起動させた。
そのアリスの姿に、同じ競技に出る武本茜は笑みを浮かべる。
「これはボクも負けられないな」
別の射撃区画では、神無月御沙希が黙々と的を撃ち抜いていた。
汗を拭うことも忘れ、ただひたすらに。
「……もう一回」
「委員長、もう何本目?」
声をかけたのは、同じクラスで『ロングレンジ・スナイプ』に出場する飯塚姫花だった。
派手な髪色に、軽そうな口調。
正直なところ、最初はここまで気にかけてくるとは思っていなかった。
「……数えてないです」
「ちょっと休憩しなよ。集中力切れたら意味ないでしょ」
「いえ、そういう訳にはいかないので」
「でもさ――」
その声には、からかいも軽口もなかった。
本気で心配しているのが、意外なほど伝わってくる。
(……この人、見た目に反してちゃんと見てるんですね)
派手な格好とは裏腹に、食い下がらない姿勢。
そのことに、御沙希は小さく好感を抱いた。
「この競技は、甘くないですから」
そう告げ、再び引き金を引く。
『シューティング・ソニック』。
反射神経と集中力が、すべてを分ける競技。
だからこそ、彼女は今日もここに立っていた。
そして――中庭のベンチ。
「……落ちた、か」
五十嵐・L・カイトは手元の通知端末を見つめ、力なく肩を落とす。
「まあまあ」
その肩を叩いたのは、同級生だった。
「応援団、入ればいいじゃん。俺も入るぜ、なんか面白そうだからな」
楽しそうに強く肩をバシバシと叩く。
「戦うだけが六極戦じゃないだろ?」
「応援団……」
少し考え込んだあと、カイトは小さく笑った。
「……そうだな、……悪くないかもな」
カイトは端末をしまい、応援団募集の紙を握りしめて立ち上がる。
ゆかは、校舎の窓からグラウンドを見下ろした。急に止まった水村ゆかにクラスメイトは驚く。
「どうしたの水ちゃん」
「……みんな、忙しそう」
ゆかは、ぎゅっとスカートの裾を握りしめる。
戦う人。
指揮する人。
支える人。
応援する人。
様々な人々が、六極戦に真摯に向き合っていた。
「そうだねー、でも仕方がないよ。私たちは能力よりも学力でなんとかA組に入れたのだもの」
クラスメイトは諦めの境地で話す。
すると、意を決したように顔を上げ、
「私、マネージャーに志願してみようかな」
「えー! あそこ選手並みにキツいって所だよ。当日見に行くだけにしようよ」
その決意に驚愕してオドオドするクラスメイト。
ゆかはその決意を胸に何処かへ向かうのであった。
それぞれの立場で、それぞれの戦場へ。
『六極戦』は、もう始まっている。




