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5話 選抜 その2

『マキシマム・バスター』競技ルール


•対面する選手同士が火力を競う対戦型個人競技である

•トーナメント方式

•七基の構造物が配置されている

•選手は、設置された構造物を破壊し、その成果を競う

•フィールドに設置されている構造物は、都市インフラ用高耐久構造物(オベリスク)である

•オベリスクは、能力者の使用を前提として開発された構造物である

•すべてのオベリスクは同一規格・同一耐久である

•オベリスクの高さは一.五メートルである

•オベリスクは、衝撃および波動を分散する構造を持つ

•一定以上の出力を一点に集中させなければ、破壊には至らない

•競技の制限時間は十二分間である

•制限時間内であれば、相手選手への妨害行為が許可されている

•本競技では、純粋な火力に加え、判断力および妨害突破能力が求められる

•どのオベリスクを、どの順番で、どの出力で破壊するかは、選手の判断に委ねられる。その選択が、競技の勝敗を大きく左右する



 競技用に用意されたのは、オベリスクを模した高密度粘土構造物だった。それを間に挟んで対面する二人。


「流石にこれは無系統型では破壊出来ないから能力をお互いに使いましょう。じゃあ勝負ね」


「そうですね」


 この競技では、形状を問わず人工心器の使用が許可されている。

 透は慣れた手つきでハンドガン型を選び、涼菜は腕輪型の人工心器を装着した。


 開始の合図が鳴る。


 透は即座に引き金を引いた。

 狙いは、右奥に配置された粘土。


 高電圧の雷が落ち、粘土の表面を焼き裂く。

 硬質な外殻が音を立てて削れていった。

 ――だが。


 ひび割れた箇所に、瞬く間に蔦が絡みつく。

 何層にも重なった植物が、雷を遮る盾のように展開された。


「……っ」


 次の瞬間、透の左手側――最も近い粘土に異変が起きる。

 地面から伸びた蔦が巻き付き、圧縮するように締め上げていった。


「チッ……!?」


 理解した瞬間、透は舌打ちする。


 ――『植物創造』。

 それが、七瀬涼菜の能力だ。


 モタモタしている余裕はない。

 そう判断した瞬間、透は引き金を引いた。


 締め上げられている粘土へ、雷槍が一直線に突き刺さる。

 一度では終わらせない。

 引き金を引くたび、何本もの雷槍が立て続けに貫いた。


「……ッ!?」


 涼菜が息を呑んだ、その直後だった。

 軋む音を上げ、粘土が崩壊する。


 その隙を、透は逃さない。

 間髪入れずに引き金を引き続ける。


 次の瞬間、複数の粘土の上空に雷球が展開された。

 雷球から高電圧の雷が叩き落とされ、次々と削られ、崩れていく。


「はぁああ……!!」


 涼菜も黙ってはいない。

 崩壊を食い止めようと、蔦を次々と生成し、防壁のように絡め取っていく。

 だが――速度も、火力も、根本的に違っていた。

 抵抗は長く続かない。

 やがて、勝敗は明確になる。


 透、五基。

 涼菜、二基。


「やっぱり……火力と速度が違いすぎるわ。私、この競技は苦手ね」


 緊迫した一戦を終え、涼菜はそう言ってベンチに腰を下ろした。透も隣に座り、短く息を整える。


「そうですね」


 相槌を打ちながら、透は先ほどの戦いを思い返していた。


(……敢えて、ただの蔦しか生成しなかったな。この人の実力なら、他にも手はあったはずだ)


 ベンチの背もたれに寄りかかり、大きく息を吐く。


(まあ、ただのデモンストレーションだ。いずれ、本気を見る機会もあるだろ)


「じゃあ、次行きましょう」


 その一言で、場の空気が切り替わった。



『ディフェンス・タワー』競技ルール


•タワー型オベリスクを用いた対戦型競技である

•各選手の後方には、高さ三メートルのタワー型オベリスクが一基設置される

•選手は、自身のタワーを防衛しつつ、相手側のタワーの破壊を目指す

•相手のタワーを先に破壊した選手を勝者とする

•競技の制限時間は七分間である

•制限時間内に決着がつかなかった場合、

 両タワーの残存耐久値の差によって勝敗を決定する

•攻撃、防御、妨害、迎撃行為はいずれも許可されている

•本競技では、火力だけでなく戦術判断力および制御力が求められる


 ここの運動場には『ディフェンス・タワー』を模した簡素な作りの粘土が配置してあった。


「私ね、この競技――三連覇がかかっているの」


 何気ない口調だったが、その言葉には確かな重みがあった。


「そうなんですね。それは……とてもすごいですね」


 透が素直に感嘆の声を漏らすと、涼菜は一瞬だけ視線を伏せ、そして真っ直ぐに彼を見据える。


「だからね。この勝負くらいは――本気で負けたくないのよ」


 その目は、冗談や軽口を許さない色を帯びていた。

 張り詰めた空気が、周囲を静かに圧迫する。


 透はその変化を敏感に感じ取り、無言のまま、二丁の銃を手に取った。


 二人はそれぞれの位置につき、合図を待つ。

 ――静寂。


 次の瞬間。

 合図が鳴ると同時に、透は二丁の引き金を引いた。


 先手必勝。

 雷槍や雷球ではなく雷閃。


 支柱を大きく削り、倒そうとする。

 その時、粘土を守るために樹皮が大きく覆った。


(……さっきより速いな)


 内心、透は毒づきながら呆れる。


(しかし、どんだけこの競技で負けたくないんだよ)


 だが負ける気はないので雷閃を、一直線に粘土へと突き刺さそうとする。


 だが、直撃のする時。

 粘土を覆う樹皮が、まるで盾のように盛り上がる。

 次の瞬間――雷は貫通しなかった。


 眩い光が弾け、稲妻は樹皮の表面を走る。

 内側を貫くことなく、外側をなぞるように滑り、地面へと流れ落ちていった。


 バチバチと音を立てて焦げるのは、樹皮の表面だけ。

 粘土本体に、損傷はない。


「……へぇ」

 

 透は小さく口角を上げ息を吐いた。


(受け流したか、面白い)


「もちろん『雷属性』と戦ったことはあるわよ。その対処法も知っているわ」


 そう誇らしく言い、能力を発動する。

 すると粘土に蔦が絡みついた。

 圧縮して、破壊を試みる。


「しまった!?」


 一瞬の隙を突かれて驚愕した。


「さっきのお返しよ!!」


 蔦を焼き尽くそうと蔦に向かって放電するが、涼菜の近くに巨体な植物を生成した。


 それはまるで大砲のような形状で、植物は何かを放出する。

 すると轟音と共に粘土には大きな穴を開いた。

 透はその巨大な砲台を破壊しようと照準を合わせる。

 引き金を引くと同時に、再び植物は発射した。


「この競技は攻撃だけじゃあダメよ。精一杯防御しながら、相手隙をついてじゃないと」


 勝ちを確信した涼菜がレクチャーする。

 防御に意識を割かせ、その隙に攻撃を通した。

 最初から、そう組み立てている。

 その砲台は雷を受け付けず。無意味な攻撃力で終わった。


 結果は涼菜の勝利で終わる。

 二連覇にふさわしい、完璧な試合運びだった。


 透は銃を下ろし、大きく息を吐く。

 敗北の悔しさよりも、頭の中は冷静だった。


(……そういえば)


 ふと、ある考えがよぎる。


(『植物創造』って、既存の植物を再現する能力だけじゃなかったよな)


 この世に存在する植物を呼び出すのではない。

 この世に存(・)在(・)し(・)な(・)い(・)植物すら、必要に応じて形にする能力。


(だったら、雷に強い植物を作ることも出来るか)


 あの樹皮。あの大砲みたいな植物。

 雷を防いでいたんじゃない。

 最初から、雷を通さない前提で作られていた。


 納得がいった瞬間、敗北の理由が一つ、明確な形を持つ。


(……二連覇は、伊達じゃないな)


 透はそう結論づけ、ベンチの背もたれに体を預けた。


「これで……二勝二敗一分。まさかここまで拮抗するとは」


 涼菜は驚愕しながら、楽しそうに口角を上げ、


「だから、次で決着をつけましょう」


「『ロングレンジ・スナイプ』って、出場選手はもう決まってるって聞いたんですけど、それに長距離は、俺苦手なんですけれど」


「そうなの? まぁ、細かいことは後。ほら、行くわよ」


 そう言って、涼菜は透の手首を掴み、そのまま次の競技へと引っ張っていった。



『ロングレンジ・スナイプ』競技ルール


•広域フィールドで行われる超長距離射撃の個人競技である

•フィールド内には、七機の標的が設置されている

•標的はすべて静止している

•各標的は、地形・高度・距離がそれぞれ異なる位置に配置されている

•射撃距離は数百メートルから最大十キロメートルまで幅がある

•七機の標的は、距離の異なる状態で直線上に設置されている

•標的自体の耐久性は低く、命中すれば破壊可能である

•本競技では、単なる命中ではなく射撃精度が評価対象となる

•各標的の中心部には高得点エリアが設定されている

•命中位置が中心に近いほど得点は高くなる

•外周部への命中は最低限の得点に留まる

•中心部を正確に射抜いた場合、大きな加点が与えられる

•制限時間内に破壊した標的数と命中精度の合計点によって順位を決定する

•七機すべての標的を破壊した選手は高評価とされる

•全標的破壊者が複数存在する場合、より中心に近い命中を多く重ねた選手を上位とする

•本競技では、極限距離における弾道予測能力、環境誤差を排除する集中力、精密射撃能力が求められる


 第四校舎にて『ロングレンジ・スナイプ』と同等の距離と的があるため、そちらに向かった。


「この学園、色々とありますね」


 思わずそう感想を述べる。


「そうね、なんなら集団競技用の敷地もあるから今度見てらっしゃい」


 準備を終えて二人とも競技用の狙撃用人工心器を構えた。


「これは能力なしで〈波動弾〉のみでやりましょう」


「そうですね能力を使えば、この距離でも弾速と補正で誤魔化せて、最高点まで飛ばせちゃいますからね」


「私能力使わなくても、あの距離まで飛ばせるよ」


 透の挑発に涼菜は頬を膨らませて、反論する。


 試合開始の合図が鳴った。


 まず、三百メートル。二人とも中央に穴を開け、余裕でクリア。

 次に、七百メートル。 クリア。

 一キロメートル。 クリア。

 三キロメートル。 クリア。

 五キロメートル。 クリア。

 七キロメートル。透が若干中央から逸れる。

 十キロメートル。透が大きく掠って当たる。


 結果、涼菜の勝利。

 彼女は全て寸分違わず中央に穴を開けた。


(この人、本当に能力なしで長距離を飛ばせるのか……しかも、全部中央に、だと)


 涼菜の神業に、思わず笑みが浮かぶ。


(すげぇな。これが――オールラウンダーとして名を轟かせる〔世界樹《ユグドラシル》〕)


 胸の奥が、じわりと熱くなった。


(いつか……全力でやってみたいな。能力も、駆け引きも、全部込みで)


 気づけば、爛々とした目で彼女を見つめている。


 その視線に気づいた涼菜が、慌てて振り返った。

 両手で頬を押さえ、顔はみるみる赤く染まっていく。


(なんか、めっちゃ見られてるんだけど……え? ちょ、待って。これ、もしかして――惚れられちゃった?)


 涼菜は内心の動揺を誤魔化すように、首をブンブンと横に振った。


(……いやいや、落ち着きなさい私。お姉さんなんだから)


 ――何してるんだ、この人。

 一方その頃、透はそう思いながらも、敢えて口には出さなかった。


「……?」


 透が視線を逸らし、咳払いを一つ。


「これで俺の負けですね。ご飯を奢るって話でしたけど、何か食べたいもの、ありますか? あんまり高いところは困りますけど」


「あ……そ、そうね。じゃあ駅前のカフェとかで。今日はもう遅いし……今度の土曜日とか、どう?」


 そう言いながら、後ずさりする。


「あぁ、そ、それじゃ、また今度ねー!」


 最後は早口で言い残し、涼菜は足早にその場を後にした。

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