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4話 選抜 その1

 第四校舎に呼び出された透は、思わず絶句した。


 理由は単純だ。

 個人種目の競技を、一通りデモンストレーションしろ――そう告げられたからである。


 普段の彼はやる気というものがほとんど見られない。

 だが、六極戦という全国規模の大会については、さすがにそれなりの興味と関心を持っていた。

 とはいえ、それはそれ。これはこれ、である。

 透は盛大にため息をついた。


「選手として出ろって言われたら出ますよ? でも、なんでこんな面倒くさいことになってるんですか」


「ごめんねー」


 生徒会長の七瀬涼菜は、両手を合わせて申し訳なさそうに頭を下げた。


「そういう流れになっちゃって。正直、君をどの競技に入れるかで、みんな悩んじゃってね」


「……それで、なんで会長だけがここに?」


 透が周囲を見回す。


 第四校舎の内部には、各競技用の機材が所狭しと並べられていた。

 完全に即席の練習場だ。


「他のみんなは、候補生の審査とか、選んだ人が本当に適性あるかの確認をしてるところよ」


「なるほど……じゃあ、なんで会長まで準備してるんです?」


 透が文句を垂れながらも黙々と機材を整えている一方で、涼菜もまた自然な手つきで準備を進めていた。

 涼菜はにこりと笑い、悪びれもなく言い放つ。


「それはね! 透君の実力を測るために、お姉さんと一戦交えてもらおうと思って」


「……はぁ」


 思わず困惑の声が漏れる。

 だが同時に、胸の奥が僅かにざわついた。


 こんな場所で(十帝能力者《ナンバーズ》)の一人。SSランク第七位〔世界樹《ユグドラシル》〕。

 その力の一端を見られるとなれば、純粋な好奇心が湧かないはずがない。


「あれ、あんまり乗り気じゃない? じゃあさ」


 涼菜はふと思いついたように、目を輝かせる。


「勝った方が、負けた方にご飯奢るっていうのはどう?」


「いいですよ。ただし、負けたからってなかったことにするのは禁止ですからね」


 透は即答した。

 軽口の裏で、彼の意識はすでに戦闘態勢へと切り替わっている。


 準備を終え練習場に来た透たちの前に無骨な銃が置かれていた。

 透はそれを一瞥し、わずかに眉を上げる。


「……人工心器《じんこうしんき》、ですか」


「そう」


 涼菜は頷きながら、装置の一つを指で示した。


 人工心器。

 能力者が能力を行使する際、基準点や攻撃形式として形成される心(・)器(・)。

 一度形成された心器は、原則として別の形に変更することができない。


 その不可逆性を補うため、

 心器の機能を機械的に再現したものが、人工心器である。

 現在では、軍事用、競技用、装飾用として運用されていた。


「これは六極戦で使われる競技用と同じやつ。出力の平均化、安全装置、暴走防止機構付き。個人差をある程度均して、純粋な技量と判断力を見るためのものよ」


 二人は視線を人工心器に向けながら説明をする。透はその説明を片耳を立てながら、人工心器を舐めまわすように見つめた。


「へえー」


「本音を言えば、スポンサーと開発元の発表会みたいなものよ」


 そんな説明をした後、涼菜は少しだけ苦笑する。それを聞いた透は鼻で笑った。


「ハッ! 新型の人工心器を、全国放送で実演。性能アピールと実戦データ収集、一石二鳥ってわけですか」


「その通り。六極戦は競技大会でもあるけど、同時に――新技術のショーケースでもあるの」


 涼菜は否定しない。どんな競技をやるのか知るために見ていた動画に、複数の企業ロゴと型番が一瞬だけ表示される。


「軍や企業は、ここで使えるかどうかを見る。観客は派手な試合を楽しむ。運営は視聴率を取る。選手は、その全部を背負って戦う」


 そして最後に、涼菜は透を見た。そして困り顔をしながら、


「まぁだから、本来の心器とは、感覚も反応も違うわ。それでも結果を出せるかどうか。そこも含めて、選考の一部ってこと」


 透は肩を竦め、小さく息を吐く。


「なるほど。本(・)気(・)を(・)出(・)す(・)な(・)じゃなくて、誤(・)魔(・)化(・)さ(・)な(・)い(・)ってワケですか」


「そういうこと」


 涼菜は微笑んだ。


「これっていくつ使っていいのですか?」


「最大二つ、なんなら大きさも、機能もレギュレーション違反をしてなければ大会に持ち込んでも大丈夫よ」


「確認とかあるのですか」


「一応ね、もし忘れてたり、無くした場合。運営側からも貸出とかあるから安心してね」


 説明を終え視線が、フィールドへと向けられる。


「まずは、デモンストレーション。個人競技を一通り、見せてもらうわね」


 透はハンドガン型の人工心器を二丁、手に取り、軽く握る。涼菜はライフル型の銃を握っていた。


「……了解です」


 その声音に、戸惑いはない。

 あるのは、純粋な興味と僅かな高揚だけだった。



『シューティング・ソニック』競技ルール


•射出機から、三次元的にクレーが一定間隔で射出される

•射出されるクレーの総数は三百個

•競技時間は三分間

•選手は決められた範囲内から射撃を行う

•クレーの軌道および速度にはランダム性がある

•制限時間内に、できるだけ多くのクレーを撃ち落とす

•本競技では、早撃ち能力・連射能力・動体視力・瞬時の判断力が求められる

•制限時間内に三百個すべてを撃墜した選手が複数いる場合、

 満点到達までに要した経過時間が最も短い選手を上位とする

•三百個すべてを撃墜した時点で射撃を終了し、その時点で競技は終了となる




 合図とともに射出機が作動する。


 三次元的に飛び出すクレー。

 次の瞬間、二つの波動弾がほぼ同時に空を裂いた。


 能力の発動はない。使われているのは、競技用の人工心器が放つ、均一化された無系統型能力〈砲撃〉の波動弾だけだ。

 特段示し合わせたわけではないが、お互いに能力を使わず、波動弾のみの撃ち合いとなった。


 透は視認した瞬間に撃つ。

 照準を合わせる動作すら省かれ、反射と直感で引き金が引かれていく。


 一方の涼菜は、撃つ数を抑えていた。

 軌道を見切り、最短距離に入った瞬間だけを狙い撃つ。


 連射音は透の方が多い。

 だが、外れる弾はほとんどない。


 上下左右、前後。

 速度も高度も不規則なクレーが次々と射出される。


 それでも、砕ける。淡々と、容赦なく。


 最後のクレーが射出された。

 同時に、二つの〈波動弾〉が放たれ――割れる。


 結果表示が浮かび上がった。

 命中率、反応速度、無駄弾数。

 いずれも、誤差と呼べる程度の差しかない。


 能力を使わず、〈波動弾〉だけで。

 それでもなお、二人は拮抗していた。


「能力を使わないで、ここまで拮抗するなんて」


 銃を下ろし、思わず感想を述べる涼菜。


「本番、こんな感じですかね」


「本戦になると、もっと速くて複雑な動きになるわ」


 そんな会話をしながら次の競技に向かう。



『ライディング・ウィング』競技ルール


•浮遊移動型の人工心器を使用する個人競技である

•人工心器は、波動によって駆動および制御される

•立体構造の専用トラックを周回し、タイムを競う

•トラックは全長約二キロメートルの三次元構造である

•トラックを三周し、その合計タイムを公式記録とする

•障害物は設けられていない

•複数の選手が同時に走行する

•選手同士による妨害行為が認められている

•能力の使用は許可されている

•加速、妨害、局面の打開などの行動は、選手自身の判断に委ねられる


 学園の運動場には専用の模擬コースが出来ていた。

 そこにはエアロ・バイク(浮遊移動型の人工心器)が用意されていた。



「ここの広さは大会と同じ。そして運営が貸し出しているモデルね」


 バイクを撫でながら解説する。


「妨害とかありで、やりますか?」


「うーん、この競技は純粋なスピード勝負にしましょう。今回初めての競技だし、これがどんなものか知らないといけないし」


「分かりました」


 二人ともヘルメットをしてバイクに跨り、スタート位置に着く。


 そして合図とともに同時に走り出す。


 ——結果は透の惨敗であった。


 バイクに振り回され、思うようなスピードを出せなかったのだ、波動の出力が僅かにズレるたび、機体が過敏に反応し、姿勢が安定しない。


「意外と難しいわね、これ。それに透君、精密制御とか苦手?」


 汗を拭いながらそう問いかける。


「能力制御は出来ますけど、途端にこういうのに波動を通すと難しくて苦手なんすわ」


 振り回されて疲れたのか若干息が荒い。


(後で、軍に似たようなやつあったはずだから借りて練習しよ。……こういうの物を使えるようになれば俺も成長出来るだろ)


「とりあえず、透君はこれはなしね」


 ひと休憩後次の競技に向かう。



『エッジ・デストラクション』競技ルール

•本競技は、戦闘AIを搭載した模擬戦闘ロボットと交戦する個人競技である

•ロボット各部に設置されたコアを破壊し、その成果に応じて得点を競う

•コアは以下の九箇所に設置されている

 - 頭部

 - 胸部(メインコア)

 - 背部

 - 両肩

 - 両腕

 - 両膝

•各コアは部位ごとに得点が設定されており、破壊数および部位に応じて得点が加算される

•競技時間は八分とする

•制限時間内に、より多くの得点を獲得した選手を上位とする

•全九箇所すべてのコアを破壊した場合、その時点で競技は終了となる

•全コア破壊者が複数いる場合、達成に要したタイムが短い選手を上位とする

•ただし、胸部に設置されたメインコアを破壊した場合、当該ロボットは即座に機能停止し、その時点で競技は終了となる

•胸部メインコアを破壊した選手は、無条件で勝利とみなされる



 現在、第四校舎にあるのは、スペックを落とした模擬戦闘ロボットのみだった。

 本格的な練習用の高性能機は、後日搬入される予定らしい。


 透は、特にこだわる様子もなく、刀型の人工心器を一本手に取り、軽く構える。

 一方の涼菜は両刃剣を握ったが、素人の構えだった。


 合図とともに、戦闘ロボットが起動する。

 ――結果は、圧倒的だった。


 透は無駄な動きを一切挟まず、膝、肩、腕、そして胸部コアへと、最短の順序で刃を走らせる。

 ロボットが反撃の動作に入る前に、すでに半数以上のコアが沈黙していた。


 対する涼菜は、力強い一撃を何度も叩き込むが、破壊効率という点では、どうしても遅れる。


 十分も経たず、最後のコアが砕けた。


「……やっぱり……透君は……こういうの、強いね……」


 涼菜は肩で息をし、剣を支えに体を預ける。

 高位能力者であることと、近接戦闘の練度は、別物だった。


「まあ……そうですね」


 透は少し気まずそうに言いながら、バッグからスポーツドリンクを取り出す。


「……そういえば」


 涼菜は呼吸を整えながら、ふと思い出したように言った。


「透君、能力……使ってなかったよね?」


「この程度なら、使う必要ありませんでしたし」


 透は淡々と答える。

 涼菜は小さく息を吐いて、苦笑した。


「……なるほどね。やっぱりね、だから私も、使わなかったのよ」


 一瞬の沈黙。

 短い沈黙のあと、二人は次の競技へと向かう。

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