2話 生徒会執行部
「失礼します」
アリスが生徒会室に入ると、すでに生徒会メンバー全員が揃っていた。
生徒会室は通常教室より遥かに広く、壁一面のモニターには学内資料や大会データが投影されている。
静かな緊張感が漂う空間だった。
ここが学園運営の中心なのだと、自然と理解させられる。
「いらっしゃい、アリスちゃん」
生徒会長席に座る七瀬涼菜が、柔らかな笑みで迎えた。
「今日来てもらった理由は、もう聞いたでしょ? 六極戦」
「はい。本日、須藤先生から聞きました」
涼菜は軽く頷き、机の上に投影されていたホログラムを操作する。
空中に、大きな文字が浮かび上がった。
全日本能力学園総合競技大会――『六極戦』
「今日のホームルームでも話があったと思うけど、六極戦は生徒会主導で運営することになっているの」
画面が切り替わる。
そこには過去の大会成績が表示されていた。
――明星学園、三年連続総合優勝。
その文字列を見た瞬間、アリスは小さく息を呑む。
三年連続優勝。
それだけで、この学園がどれだけの強豪校なのか理解できた。
「それでね。今年は、四年連続優勝がかかっているのよ」
その瞬間、生徒会室の空気がわずかに張り詰めた。
涼菜の口調は穏やかなままだ。
だが、その一言の重みは確かに全員へ伝わっていた。
誰も軽口を叩かない。
六極戦という単語が出た瞬間、この場の空気は完全に切り替わっていた。
「もちろん、プレッシャーをかけたいわけじゃないの。ただね」
そう前置きしてから、涼菜は生徒会室にいる全員へ視線を巡らせる。
「だからこそ、今年は特に重要な年なのよ」
軽く肩を竦めた。その仕草は柔らかい。
しかし、その瞳には学園を率いる者としての責任感が宿っていた。
六極戦が近づく時期になると、学園全体の空気が変わる。
廊下では競技予想が飛び交い、訓練施設の利用時間も深夜まで埋まる。
それほどまでに、この大会は特別視されていた。
「それでね、アリスちゃん。庶務としての仕事もあるけど、来年以降のためにも、選手選考の考え方を知っておいてほしいの」
「……はい」
アリスは自然と背筋を伸ばして返事をする。
ここにいる全員が、この学園を支える側の人間なのだと実感した。
そして同時に、自分もその一員として見られていることを理解する。
「まず、前提から説明するわね」
涼菜が指を鳴らす。
すると机上のホログラムが切り替わり、学内データが表示された。
「この学園のクラス分けは、入試時の総合順位。勉学と能力、その両方を合わせた順位で決まっているわ」
「だからといって、Aクラスだけで選手を固めることはしないの」
その言葉を受けるように、三年生書記――月夜円香がゆったりと口を開いた。
背が高く、豊かな体躯を持つお姉さん然とした女性。
どこか現実感の薄い雰囲気を纏い、魔女帽子でも被っていそうな佇まいをしている。
「競技によっては、操作精度や持久力がものを言うからね」
「そうそう」
涼菜も楽しそうに相槌を打つ。
「実技試験の順位は確かに重要。でも、順位そのものより中身を見るわ。個人戦か、団体戦か、能力特化か――競技ごとに最適な人材を選ぶの」
「今年も負けられないからねぇ」
円香は柔らかく笑いながらも、その声音には確かな闘志が混じっていた。
続いて、二年生副会長の風馬純次が姿勢を正し、淡々と補足した。
中背ながら、透と同じく鍛え込まれた体格をしている少年だ。
「とはいえ、白神さん。あなたは確実に選手枠へ入ります。ですので、生徒会業務と並行して準備を進めてください」
「……はい」
アリスは思わず緊張した声で返事をした。
自分が、そんな学園の代表候補として見られている。
その事実に、改めて責任の重さを感じる。
その少し後。
机の端から控えめな声が漏れる。
「……白神さんは、庶務の仕事もありますし」
二年生会計、エマ=ベネットだった。
視線を落としたまま、ぼそりと呟くような声。
金髪のツインテールとは裏腹に、その態度は終始控えめだ。
右目は闇を思わせる紫玉。
左目は岩を連想させる琥珀色の橙玉。
オッドアイの双眸は、必要以上の感情を映さない。
「……無理は、しないでください」
ほとんど独り言のような一言。
だが確かに、アリスへ向けられていた。
「ありがとうございます」
アリスは小さく頭を下げる。
涼菜はその様子を見て、場を和らげるように微笑んだ。そして改めて、アリスへ向き直る。
「それでね! アリスちゃんは、生徒会の初仕事として選手選考の補助。それと同時に、自分自身の準備もお願いね」
「緊張しなくて大丈夫よ」
円香がやさしく諭す。緊張気味のアリスをほぐすように。
「四年連続優勝を目指して!! 簡単じゃないけど――」
涼菜は静かに立ち上がり、はっきりと言い切った。
「それでも今年も、勝ちに行きましょう」
その言葉に、生徒会メンバーたちは静かに頷いた。
机の上では、議事録作成用のAIが淡々と稼働し、会話を正確に記録している。
会話内容は自動で文字列化され、ホログラム上へ整理されていった。
それが、この生徒会の日常だった。




