1話 全日本能力学園総合競技大会 『六極戦』
新章突入!!
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『EXランク第二位――〔黒騎士〕』
『そいつを、殺したいのさ』
『家族を奪ったアイツを俺は許さない』
『とりあえず、稽古は来週の月曜日からだな。それまでしっかり休め』
――今日、そんな言葉を投げかけられたことを思い出しながら、白神アリスは自室のベッドに横になっていた。
天井を見つめたまま、無意識にスマートフォンへと手を伸ばす。
指先が画面を滑り、検索欄に文字を打ち込んだ。
『EXランク第二位――〔黒騎士〕』
表示された記事を、上から順に読んでいく。
本名不明。
能力不明。
国籍不明。
分かっているのは異名と彼が三年前に急にEXランクになったことのみ。
だが、それ自体は決して珍しいことではなかった。
ランクと異名だけを権威づけとして頂く能力者は少なくない。
それを制定する機関も、個人情報の登録や公開を義務づけているわけではない。
とりわけSSランクやEXランクともなれば、正体不明という例はむしろ少なくはない。
「……何も、分からないですね」
小さく息を吐き、アリスは呟いた。
彼は、なぜそんな人物に復讐しようとしているのか。
どんな理由で、そこまでの憎しみを抱いているのか。
興味は、確かにあった。
(……明日、聞いてみましょう)
そう思い、特別面白みも感じられない記事を閉じようとした、その時だった。
視界の端に、互いに正反対の二つの見出しが引っかかる。
『彼は現代に現れた義賊。闇の英雄』
『世紀の大犯罪者。現代に甦りし魔王』
指が止まり、続きを読み進める。
記事によれば、彼は世界各国の政治家や軍部の要人の前に現れ、殺害や破壊工作を行っているという。
その犯行後には、自らの名で声明をマスコミへと送りつける。
それに食いついた報道機関が調査を進めると、政治家の不正や軍部の非人道的行為が次々と明るみに出る。
テロリストや犯罪シンジケートと繋がっていた権力者までもが殺害され、その証拠が白日の下に晒されていった。
一方で、別の記事では彼を無差別殺戮者と断じ、その行動は正義でも抗議でもなく、ただの破壊衝動だと糾弾していた。
――もっとも。
情報源の大半は、週刊誌やゴシップ誌。
信憑性に乏しい内容も多く、真偽は定かではない。
そこまで読み終えたところで、アリスは静かにスマートフォンの電源を落とした。
答えは、どこにも書かれていない。
それでも胸に残る、わずかなざらつきから目を背けるように、彼女は布団を引き寄せる。
やがて意識は、静かな眠りへと沈んでいった。
*****
五月下旬の月曜日。
担任の藤林がいなくなったので、須藤が臨時で担任をやることになった。
「本日の連絡事項として、こちらだ」
そう言って机を軽く叩くと、教室の前方一面にホログラムが展開された。
映し出されたのは、学生同士が能力をぶつけ合う試合、複数人で連携して競技に挑む映像――どれも派手で、熱を帯びたものばかりだ。
そして、中央に大きく文字が浮かび上がる。
全日本能力学園総合競技大会
通称――『六極戦』。
その名を見た瞬間、教室の空気がわずかに変わった。
ざわり、と小さなどよめきが広がる。
「静粛に、毎年七月の頭に行われる恒例行事がある。動画とか直接見に行った人も多いんじゃないかな」
須藤はホログラムを指差しながら続ける。
「日本における学生能力の総合競技大会で、出場校は毎年決まっている。日本の能力専門学校が参加することになってる」
画面が切り替わり、競技の様子が次々と映し出される。
個人戦、チーム戦、能力特化型の種目――どれも、学生とは思えないほど激しい。
「細かい説明はこれからゆっくりやるとして」
再びホログラムが切り替わり、今度は出場校の一覧が表示された。
『私立明星学園高等部』
『国立能力統合教育大学附属学園』
『私立弦月学園高等部』
『国立北辰能力専門高等学校』
『私立業天学校第三等部』
『国立天津能力科高等学校』
日本国内でも指折りの能力専門校の名が、ずらりと並んでいる。
これらの学園は能力研究、育成または将来軍事または警察などに携わる為。
はたまた強すぎる能力を上手く制御させるためなど千差万別な理由で設立されている。
「これら六つの学校が集まって競技をする。そして二、三年生部門の一般戦、そして君たち一年生は新人戦に分かれている」
そう言って須藤は、指先でホログラムを弾く。
画面が切り替わり、学年ごとに区切られた大会構成が表示された。
「例年、日本軍が使ってる演習場を借りて競技を行う」
そう言って、ホログラムに映る広大なフィールドを指差した。
「しかも、生放送だ。ちゃんと中継も入るから、全国放送だ」
教室のあちこちから、小さなどよめきが上がる。
「静粛に、そしてここから内緒の話だが」
少しだけ声のトーンを落とした。
「ここでいい成績を出したり、目立った活躍をすると日本軍とか、能力を実務で使いたい企業から、スカウトが来ることもある」
真剣な顔で、進路について語る。
「進路が一気に決まる人もいるし、進学にも有利になりやすい。逆に目をつけられる人もいる。だから、ただのお祭りってわけじゃないから気をつけろよ」
須藤は指を折りながら数える。
「七日間に及ぶ熾烈な戦いが行われる。人数は三年生が二十人、二年生が二十人、の合計四十人。そして一年生は三十人。総勢七十名で出場する。明日から一週間までに出場選手を決めるからな」
教室のあちこちで、小さなざわめきが起きる。
誰が出るのか、誰が出られるのか――視線が自然と、能力の高い生徒へと向けられていった。
「出場できるよう、頑張りたまえ」
そう言って、ぱんっと軽く机を叩く。
「ちなみに、出場しない人も大事だからな。応援団とか、マネージャーとか、裏方も含めての六極戦だ」
その言葉に、張り詰めていた空気が少し緩む。
「だから、気を抜くなよ」
明るく締めくくる担任の声を受け、教室には再びざわめきが広がった。
期待と不安、そして少しの高揚――それらが入り混じった空気が、確かにそこに生まれていた。
六極戦の告知が終わったあとも、教室のざわめきはしばらく収まらなかった。
誰が出るのか。
誰が選ばれるのか。
そんな視線が、自然とクラスの中を行き交う。
そんな最中、アリスが放送で呼ばれて生徒会室に向かった。




