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30話 Lightning Black

 藤林は、あちこち剣が串刺しになっている肉塊を、蔑んだ目で見ていた。


「力に溺れた、ただの餓鬼か」


(……能力者としてとてつもない才能があったのだろう、戦闘に才能があったのだろう)


 彼は戦いの最中、常に口角を上げ、楽しそうにしていた。

 戦いの高揚感や緊張感を楽(・)し(・)み(・)と勘違いした哀れな子供《ガキ》だったなとそう思案する。

 軍もこんなのを管理、制御しようとしていたとは驚きと哀れな気持ちでいっぱいだ。


 だが、それはもう手脚は千切れ、墜落の衝撃で首や残った足が、あらぬ方向に曲がっていた。


(ふんっ)


 あと数秒で、この空間は解除されるだろう。

 鼻を鳴らしながら他の連中のサポートに行くか、明日の受け持った担当授業の事のどちらか、迷いながらその場を立ち去ろうと背を向けた。


 ガダッ


 まるで立ち上がったような音がして、不意に後ろを振り向く。


(……ありえない!?)


 その光景に目を見開いた。

 藤林は、長年殺し屋の世界にいる。

 自分の能力でどう人間が死ぬのか、熟知していた。


 例え自己再生能力者だとしても、脳と心臓が破壊されていれば確実に死ぬ。

 能力者が波動を生成するには、脳と心臓の両方が必要だ。


 だが例外的に、どちらか一方が残っていれば能力を行使できる者もいる。

 だがあの状況なら、頭と胸に同時に剣が刺されば、どんな能力者でも死ぬ筈だと知っていた。


 ……なのに。

 立っている。

 黒神透が立っていた。


 服は血まみれだが、その奥から見える皮膚は塞がっている。

 刺さっていた剣は、地面に落ちていた。

 あらぬ方向に曲がっていた首や足は、元に戻っている。

 千切れていた手脚も治っていた。


 だがそれ以上の異(・)常(・)がある。


(……なんだアレは? ……鎖?)


 虚空から生える四本の鎖。

 その内の一本が千切れる。

 千切れたと同時に、鎖が消滅した。


(幻覚? いやアレはまるで封印していたみたいな……)


「アハハッ、久々に『再生』を使った。

 それに一年半ぶりに忌々しい封印が解けた。このレベルの能力者と戦うのは、数ヶ月ぶりだ!! しかも今(・)の(・)俺(・)と遜色ない波動量」


  俯いていた透は、顔を上げる。

 その顔は、楽しそうに笑みを浮かべていた。


「イイね!! アハハッ、ようやく本気で戦える!! 俺が得られる経験値は大きい!!」


 獰猛に笑い、目の前の敵を見据える。


(なんだあの能力は? 再生か? だが、脳と心臓を同時に破壊したのに、しかしそれ以上に一体どういう事だ? 波(・)動(・)を(・)全(・)く(・)感(・)知(・)出(・)来(・)な(・)か(・)っ(・)た(・))


 藤林は戦慄した。

 彼は波動を肌で感知出来る体質である。

 能力ではなく、そういう体質。


 その体質が故に、この世界で生き抜くことが出来た。

 その彼が、目の前の光景に戦慄する。

 なぜなら、藤林の目には能力を使わず、瞬時に再生しているように見えたからだ。


(そんな能力があるのか? 脳と心臓を経由せずに、波動を感知させない。いや、波動を必要としない能力が。そしてあの鎖、封印と言っていたな。道理で波動量が、異常に上がっている)


 波動量は基本的に第一成長期から第二成長期と共に増加していくが、戦闘中に上がることはほぼない。

 だが、透はまるでいきなり増えたように見える。


(恐らく、封印によって押さえつけていたのだろう)


 藤林はそう結論づけた。


「フンッ」


(だが関係ない。どんな封印だったか知らない。どんな理屈の『再生能力』か知らない。興味ない)


 無数の黄金の武器が、藤林の周りに生成する。

 彼のこの黄金の武器には、敵わない。

 それらを一斉に射出する。


 ここからは、根比べだ。

 幾ら透の異常な『再生能力』にも限界がある。そのはずだ。

 だが、そうはならなかった。


「放電《スパーク》&黒《オロチ》」


 透は『雷』と『闇』を全身から放出する。そして、それらを武器に向けた。

 黄金の武器は雷に砕かれ破片は、闇に呑まれる。


「なっ!?」


 先程まで効いていた耐性が、すべて通じてないのであった。


(……まさか波動量だけでなく出力まで上がっているのか! ならば)


 次々と生成される武器たちは、光量を増し黄金から白へと変化していく。


(今現在のやつの最大出力がどの程度か知らないが、それに付き合う義理はない)


 しかし結果は変わらなかった。すべて破壊され、破片は闇に呑まれるのである。

 藤林は能力を発動するのやめて、静かに睨みつけた。


「これで終わりか、んじゃあここからは俺の番だ」


 そう言って、一瞬で背後に回り込み二本の刀を振る。


(真然流 刀剣術 凱鳥《がいちょう》)


 切り裂く前にそれは、起こった。

 藤林は一歩下がりながら、剣筋を躱す。

 その手には短機関銃《サブマシンガン》があり、それが火を吹く。


 その威力、弾丸の速度は製造されている物や、例え改造してある物でも出せる代物ではなかった。


(グホッ)


 結果、透の身体にあちこち風穴が開き、吹き飛ばされる。


「あぁ、言ってなかったですね。私の能力は『武器作成《ウェポン・ワークス》』です。『剣作成《ソード・ワークス》』や『槍作成《ランス・ワークス》』ではありません。武器なら、何でも作れます」


 しかし、透の風穴は瞬時に全て塞がり、立ち上がってくる。


(不意打ちで回復阻害の機能を持った弾丸を撃ったのだが、それすら無視して再生するのか。そして、やっぱり波動を感知出来ない)


「アハハッ、ハハハハハハハハハハハハ!!」


 何故か、高笑いをする透。

 そして、彼から放出される雷の色が、どんどん変わっていく。

 黄金から青白く、青白から青へ、青から紫へ、そして紫からどんどん色が濃くなっていき最終的に黒へ変わった。


「イイね!! そうこなくちゃあ、全開でやる意味がない!!」


 殺し合いだというのに高笑いをする不気味な姿。そして、その能力が故に藤林は悪(・)魔(・)を思い浮かべる。


(……悪魔? まさか!)


 藤林は目を見開く。

 黒い雷、そして全てを呑み込む闇。


 嗚呼、それを知っている。

 聞いたことがある。

 なんでも日本には、悪魔がいるそうだ。

 多くの同業者や犯罪者は殺され、死に絶える。


 それは戦いの最中、常に笑っていた。

 その能力と不気味さが故に、悪魔と呼ばれていた。

 〔核殺し〕とも呼ばれるその悪魔。


 その名は


「〔雷精の悪魔《ライトニング・ブラック》〕ですか、まさか! こんな子供《ガキ》だったとは!?」


「そうこなくちゃ、殺《ヤ》り甲斐がねぇ!!」


 そう吠え、一直線に突進する。

 その咆哮を気に留めず、藤林は何かを投げた。


「爆弾か」


 爆発する前に、闇で呑み込もうとするも瞬時に左に回避する。その直後、爆発した。

 回避が間に合わなかったのか、左腕が千切れる。

 が、瞬時に左腕が再生して、突進を再開した。


(闇に呑まれる前に爆発させたが、『再生能力』を見せた事で大胆な行動するようになったか。……イヤ、それは元からか)


 再び短機関銃《サブマシンガン》を手に取り向かって来る悪魔に発砲する。

 今度の弾に付与《エンチャント》した能力は、空間を削る能力だ。


 最初は闇で防ごうとしたが、その闇ごと空間が削られるのを目視し、弾幕から逃れるため跳躍する。

 何もない足場を蹴り、最高速で藤林に突っ込んだ。そして、二丁の銃の心器を展開した。


 〈接続〉の応用で、何もない宙でも空気を利用し足場作ることが出来る。能力者でも高度な技である。


 藤林が銃を向けるより速く、雷閃を放つ。雷閃は両肩を穿ち、千切れて焼けた。

 着地後、今度は脳天目掛けて銃を向ける。


 しかし、両腕が宙に舞っていた。

 腕のあった位置に剣があり、後ろにバックしている藤林の姿を捉える。


「しまった!?」


 直後、両腕は爆発して、空間ごと削りとった。


「知っていますか? 能力者の肉体を使って、能力を使うと通常より何倍もの性能を発揮すると」


 両肩から義手を生成したのか、鈍色の腕を生やしながら解説をする。


「さてその距離ならミンチレベルになるはずですが、その状況でも再生されるなら本当困った物ですね」


 爆発の影響か、黒煙が舞っていた。

 その黒煙の中から、黒い閃光が走る。

 最高速で間合いを詰め、相手が武器を生成する前に斬り裂いた。

 さらにもう一本の刀を振るい、首を狙う。


 だが――飛び散った血が剣となり、透の身体を貫いた。


 一瞬の怯み。

 その刹那、攻撃の勢いが緩む。

 藤林はその隙を逃さず、透から距離を取った。


「〔雷精の悪魔《ライトニング・ブラック》〕、あなたの能力で一番恐ろしいのは雷でも闇でもない。その再生能力が、一番恐ろしいですね」


「肉体変換が想像以上に速いな。だが、感想ありがとう。それで、次はどうする?」


 再生しながら、能力を褒められたのが嬉しいのか。次から次へと様々な手段を取ってくる相手と戦うのが楽しいのか、この状況の最中。

 笑みを絶えず、浮かべている。


(弾丸など小さいものには、一つしか付与《エンチャント》出来ない。剣などは、二つしか出来ない。彼の能力一つ一つが高位ですから、決め手に欠けますね。そして私の波動残量を考えると、……アレしかないですか)


 暗殺者は思考を巡らせて、一つの打開策を閃き憂鬱な気持ちになった。


「はぁあ、全くこれしか方法がないなんて困りました」


 ため息をつきながら、身体中にヒビのような模様が現れる。


「これだったら……ミンチどころか、塵にも残らないはずですので。……あぁ、最後に一ついいでしょうか」


「何だ?」


 返事をした透は何処かつまらなさそうな顔をする。その顔を見て藤林は目を細めながら語った。


「ではこれは暗殺者としてではなく、数年間教師を勤めた私から一言」


 それは殺し屋の声ではない。


「入学試験の再テストをカ(・)ン(・)ニ(・)ン(・)グ(・)するのは、ダメですよ」

 

 それはかつて、生徒を前に立っていた者の声だった。

 ヒビの間から赤白く輝く光が漏れ出す。


「……それでは、さようなら。黒神透君」


 哀れんだ目を向け、そう呟いた。


 直後、複製されたショッピングモールごと飲み込む光の柱が現れる。

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