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23話 日常の場所は突然戦場となる その4

「……終わったか?」


 亮太は、まるで先ほど激戦がなかったかのような軽さで、透に声をかけた。


「ああ。つまらない暇つぶしになった」


「お前ら二人ともすげぇな。特に透、お前……心器、四つも持ってんのかよ。ズルくね?」


 カイトは素直な感嘆を隠そうともせず、そう言う。


「いや、確かに形状が若干違うが二つで一つの心器だ。だから正確には二つだな」


「いや、二つあっても超珍しいのだけど」


 カイトのツッコミに透は、無視して話を変えるように、


「そう言うカイトも、だいぶ変わった能力だな。失礼でなければ、教えてもらっていいか?」


「オウ。まぁ隠すほどのモノでもねぇしな。オレの能力は、自分の周囲にバリアを貼る能力だ」


 その言葉の端々に、どこか割り切れない響きがあった。

 強力ではあるが、万能ではない――

 そんな能力ゆえの苦労が滲んでいるようにも感じる。


(……コイツも、何か抱えていそうだな)


 透がそう思った、その時だった。

 張り詰めていた空気がほどけるように、水のドームが静かに消える。

 解除されたのを確認し、女子四人がこちらへと駆け寄ってきた。


「大丈夫でしたか、三人とも」


 代表するように、御沙希が声をかける。


「まったくケガなし!」


 亮太はそう言って、力こぶを見せるように腕を曲げてみせた。


「ゆかちゃんと御沙希ちゃんの能力のおかげで、安心して戦えたぜ。二人とも、マジですげー能力だな」


「……どうして、私たちの能力だと分かったんですか?」


 御沙希は、わずかに目を見開いて尋ねる。

 すると亮太は、露骨にムスッとした顔になり、透を指差した。


「あのアホゥの能力のおかげでな」


「誰がアホだ」


 即座に返す透に、御沙希とゆかは顔を見合わせる。


「……そういえば」


 ふと疑問が浮かび、透は口を開いた。


「四人とも、捕まった時から妙に落ち着いていたな。まさかとは思うが、最初からこの展開を想定していたのか?」


 その問いに茜は穏やかに微笑ながら答え、ゆかは少し照れたように話す。


「ああ……もしもの時のために、集中だけはしてたからな」


「透くんたちが来てくれるって、なんとなく分かっていたからね」


 御沙希は小さく頷き、静かに言葉を添える。


「結果論ですが……最善のタイミングでした」


 透は一瞬だけ目を伏せ、そして小さく息を吐いた。


「……そうか。なら、無事で何よりだ」


 その言葉には、珍しく安堵が混じっていた。

 そういえば、と透はふと思い出したように首をかしげ、


「なあ。それで――アイツら、特にお前たちを指名してたよな?」


 何気ない口調だったが、透なりに引っかかっていた点だった。


 その質問を聞いた瞬間、亮太は『こいつマジで言ってるのか?』と言わんばかりの顔になる。

 茜も一瞬きょとんとしたが、亮太の反応を見て察したように小さく頷いた。


「……それは、ボクたちが【七星大家《セブンスターズ》】だからだろう」


 茜は淡々と告げる。


「そしてアリスはSSだ。その《《ついで》》だったのだろう」


「……なんか、聞いたことあるような気がするんだよな」


 透は眉を寄せ、頭を軽く押さえる。

 亮太は深いため息をついた。そして呆れながら説明をした。


「【七星大家《セブンスターズ》】っていうのは七つの名家によって構成される日本を事実上動かしている集団名だ」


「へぇ……」


 適当な相槌を打つ透を無視して続ける。


「政治家以上の発言力と影響力を持ち、国家運営の中枢を分担して担っている存在だ」


「それで七つって言ったよな。どこなんだ?」


 亮太は顔を顰めた。


「なんで知らねーんだよ。まぁいい」


 亮太は一度、深呼吸をして、


「『政治』七瀬家

 『軍事』朔夜家

 『武術』武本家

 『研究』真然家

 『経済』鬼龍院家

 『芸能』大久保家

 『神仏』神無月家・水無月家」


「ちなみに神道家系の神無月家と仏教家系の水無月家を担っていますので五年ごとに役割を交代しています」


 亮太の説明に御沙希が補足を加える。


「はぁあ」


 分かっているのか曖昧な返事をする透。

 茜はそのやり取りを一瞥すると、透のことはひとまず放っておくことにしたらしい。

 視線を亮太へと向け、真剣な表情で切り出す。


「……それで、これからどうするのだ?」


 明らかに場慣れしている二人に、今後の判断を委ねる口調だった。


「まずはここにいる人たちを逃がそう」


 亮太が即答する。


「その間、お前たち四人が付き添ってくれれば助かる」


「キミたちは?」


「俺たちは――」


 一瞬、亮太は言葉を詰まらせた。

 その代わりに、透が口を開く。


「この男を尋問する」


 床に転がる狂信の幹部を冷たい視線で射抜き、淡々と続ける。


「目的と、取引相手だ。今回の動きから見て、間違いなく裏で繋がってる連中がいる。

 地位は低そうに見えても、周囲の反応を見る限り、たぶん本物の幹部だ」


「……その後は?」


 茜の問いに、亮太は再び口ごもる。

 その沈黙を、また透が引き取った。


「その後は、取引相手との戦闘になるだろ」


 まるで当然のことのように言い切る。


「仮にも【七星大家《セブンスターズ》】の《《愛娘》》が二人。それを狙って、これだけ大掛かりな騒ぎを起こしたんだ。三人攫う、あるいは殺す――それだけが目的なわけがない」


 透は視線を天井へと向け、


「このショッピングモールは、ただの舞台装置だろ。本命は、もっと別のところにある」


 亮太は何も言わず、静かに頷く。

 それが、この場にいる全員の共通認識だった。

 透は呆れたように一拍置き、肩をすくめて続け、


「【電始と滅神の軍《デウス・エクス・マキナ》】の中じゃ地位は低い方だが、それでも今回動いてるのはそれなりの実力者ばかりだ。つまり、裏にいる連中は厄介ってことだ」


 床に転がる幹部を見下し、淡々と推測を重ねる。


「責任を被りたくないから、こんな大掛かりな作戦を立てた。だが、どうやら最初から成功するとは思ってなかった節がある。だから今度は――自分たちで直接、手を下しに来る可能性が高い」


「……つまり」


 茜が静かに問いを引き取った。


「キミたちは、これからも戦うつもりなのだな?」


「そういうことだ」


 透はあっさりと肯定する。


「幸い、俺たちはこういう状況には慣れてる。多分、何とかなる」


(――今回の取引相手、あるいは裏で糸を引いてる組織は……)


 透が思考を巡らせていると、不安そうな声が割って入り、


「け、警察とか……軍の人が来るまで待とうよ……」


 ゆかの言葉に、透は一瞬だけ視線を向けた。


「警察や軍か」


 そして、さも当然のように言い放つ。


「それなら問題ない。俺たちは――軍の特殊部隊所属だ」


「…………」


 亮太は頭を抱え、

 御沙希、茜、カイトは納得したように頷き、

 ゆかは口を大きく開けたまま固まる。

 アリスだけは、以前に聞いていたためか特に反応しなかった。


「この後に来る連中は、恐らく警察レベルじゃ対応できない。下手をすれば正規軍ですら危険だ。本音を言えば――ここからは逃げた方がいい」


「それでも」


 茜が一歩前に出る。


「【七星大家《セブンスターズ》】の武家の人間として、逃げるわけにはいかない。ボクも協力しよう」


「……私も戦います」


 アリスも迷いなく続け、


「オレもだぜ」


 カイトが歯を見せて笑う。

 二人を気遣うように御沙希とゆかが顔を見合わせ、そして頷いた。


「私は『霊視』で、みなさんと人質の脱出ルートを確保します。最善の道筋が見えるはずです」


「わ、わたしも直接は戦えないけど……みんなを守れるよう、頑張る」


「……心強いな」


 亮太は感心したように息を吐き、軍人らしい硬い口調になる。


「逃げてほしい気持ちと、人手が欲しい気持ちが半々だ。だが――その覚悟と正義感には感謝する」

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