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18話 アリスの独白

 病弱な母と、数年前に亡くなった父。

 そんな環境の中で、私は育ってきた。


 母を看病する合間に行う波動の操作は、嫌いではなかった。

 むしろ、楽しかったと言っていい。


 自分の能力は世界的にも珍しいものらしく、

 教えられる人がいなかった。

 だから読書と能力操作が、私の日常だった。


 ある日、父の死の真相を知った。

 きっかけは、母が何気なく、上っ面だけで口にした一言だった。


 ――そういえば。


 父が倒れた、あの日。

 近くに、知らない人が立っていた気がする。


 幼い私は、倒れている父のことで頭がいっぱいで、その存在に疑問を持つ余裕などなかった。


 でも今なら分かる。


 きっと、あの人は何かを知っている。


 父は高位の能力者だった。

 簡単に死ぬような人ではない。

 だからこそ、今でもあの死を受け入れられなかった。


 強くならなければならない。

 子供のお遊びのような能力操作ではなく、

 もっと、もっと――本物の力を。


 けれど、私のいた環境では、努力で辿《たど》り着ける限界はSSランク百位だった。


 そんな時、日本にEXランクの能力者が運営する学園があると知った。

 名前だけの象徴ではない。


 その人物自身が直接運営し、高位の学生能力者を集めて何(・)か(・)をしている場所。


 そこへ行くしかない。

 そう、決めた。


 母は何か言いかけていたけれど、私は聞かなかった。


 翻訳家《ほんやくか》の母と暮らしていたおかげで日本語、英語は問題なく話せた。

 父の残した書籍も、看病の合間によく読んでいたから、学力面に不安はなかった。


 ――受験当日。


 周囲の受験生は、皆、自分の能力に自信がありそうだった。

 そんな中で、私はそ(・)の(・)人(・)を見た。


 圧倒的に異質な能力者。


 自惚れていたつもりはない。

 だが、そんな私の心をへし折るには、十分すぎる存在だった。


 合格発表で、私は総合成績一位だと聞かされた。

 正直、驚いた。


(彼は、勉強が苦手なのだろう)


 そう思い、自分の成績の内訳を聞いた。

 案の定、筆記試験一位、実技試験二位。


 では、実技一位は誰なのか。

 私は教師に尋ねると。


 しばらく教師は渋った後。

 「内緒ですがと」、前置きをされて、こっそり教えてもらった。


 その内容は

 学園始まって以来の、実技試験満点。

 ただし――筆記試験は、白紙提出。


 合格点は超えていたため、

 本当に入学させるか、どうかで揉めたらしい。


 その後彼は、再試験で満点を取り、正式に入学することになったを後で聞いた。


 話しかけようと思った。

 顔写真は見ていたから、すぐに分かった。



 話しかける流れで学園内を巡ることになり、

 ついでに部活動体験にも参加した。

 思っていた以上に楽しかった。


 けれど、彼――透がなぜそこまで強くなったのかを聞くと、はぐらかされた。


 だから、観察しようと思った。


 翌日、騒ぎが起きた。

 透と、彼を快く思わない人物との戦闘。


 ――結果は、凄惨《さんざん》だった。

 いや、そもそも勝負になっていなかった。


 その日の帰り、もう一度問いただした。

 彼は、Sランクの特殊軍人だから教えられないと言った。


 能力ランクなど、どうでもよかった。

 戦闘技能だけでも教えてくれれば、それでよかった。


 そう思った瞬間、彼はほんの一瞬だけ、本気を見せた。


「これを避けられないなら、無理だな」


 そう言われた。


 その日から三日間、私は落ち込んだ。


 それから三週間。

 私は学園の教室、廊下、登下校中――

 ありとあらゆる場所で、彼を観察し続けた。


 授業中の彼は、相変わらず覇気《はき》がなかった。

 ノートは取らず、教師の話も半分も聞いていない。

 当てられれば最低限の返答だけを返し、

 興味がないことは隠そうともしない。


 成績も、筆記科目に限って言えば目も当てられない成績だった。課題の提出は期限ぎりぎり。

 生活態度だけを見れば、どうしようもない問題児だ。

 それでも、当の本人はなにも気にしていないようだった。


 ――だが。


 模擬戦《もぎせん》と能力訓練の時間になると、空気が一変する。


 彼は、誰よりも圧倒的だった。

 だが、その強さは一瞬でねじ伏せる類のものではない。


 彼は長い時間をかけて戦う。

 相手の動き、能力、癖――すべてを見極めたうえで、最後には必ず勝つ。


 能力制御は、異常と言っていいほど正確だ。

 出力は常に学園の成績基準を塗り替え、

 そのたびに小さな騒ぎが起こるのが、もはや恒例になっていた。


 体育の時間も同様だった。

 走れば常に先頭。

 反射神経、瞬発力、持久力――

 どれを取っても、学年の平均を遥かに超えている。


 確かに、彼は能力者として異常だった。

 それと同時に――

 学業と生活態度に限って言えば、どうしようもないダメ学生でもあった。


 私は、何をしているのだろう。

 こんなことをしている暇はないはずなのに。

 私は、何のためにこの学園に来たのだろう。


 答えは、出なかった。


 子供じみた行動だと、自分でも分かっていた。

 それでも、他にどうすればいいのか分からなかった。


 だから私は、何となく彼を無視してみることにした。


 ――けれど。


 彼は怒らなかった。

 それどころか、私の存在など最初からなかったかのようだった。


 彼にとって私は取るに足らない存在なのだろう。


 彼にとってこの学園は、ただの『平和の一部』でしかなく、

 そして、いつの間にか私自身も、その一部になってしまった。


 そんな、ある日のことだった。


 事件が立て続けに起きた。


 とはいっても、物が落ちてくる。

 窓ガラスが割れる。

 その程度の事故だ。


 幸い、怪我人は多少出たものの、死者はいないらしい。

 私は現場に居合わせていなかったから、

 詳しいことはよく分からなかった。


 この学園が設立されて、十年。

 どれだけ最新の設備が揃っていても、

 こういうことは起きるものなのだろう。


 そして、透は――

 少なくとも事故程度では、動かない。


 ――その時の私は、そう考えていた。


 だから、彼にこだわるのはやめようと思った。

 一人に固執するより、他を頼る方が合理的だ。


 そんな折、生徒会長が私を生徒会に誘ってくれた。


 彼女もSSランク能力者の一人。

 しかも順位は、私よりずっと上。


(この人なら、何かが変わるかもしれない)


 そう思い、私は生徒会に入ることを了承した。

 少なくとも、透よりはマシだろう。


 そんなある日、話の流れで彼らと一緒に遊びに行くことになった。


 理由は、特別なものではない。

 成り行きで、断るほどの理由もなかった。


 ただ、それだけだった。


 ――この選択が、私を揺さぶることになるとも知らずに。


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