『男の子の落とし物』男子喪失届、出しますか?
サクッと読めるTS短編。
「可愛い!」「尊い……!」とキュンキュンして、
最後にはニッコリ笑顔になれるような作品をめざしています。
「ただいま~。ふぅ、今日の体育は疲れたな」
高校一年生の長尾 遥人は、カバンを床に放り投げると、まっすぐトイレへと向かった。
ズボンのベルトを外し、いつものように用を足そうする。
「……え?」
手が、空を切った。
「なっ……ななな、無いっ!?」
慌ててズボンを下げ、上から下から確認する。
ツルリ。そこには、何もなかった。平坦で、すべすべな肌があるだけ。
「うそだろ!? どこ行ったの僕のアレ―――っ!?」
顔面蒼白になった遥人は、仕方がなく、生まれて初めて座っ(・)て(・)用を足した。
なんだかすごく落ち着かない。股間がすーすーする。
「落ちた……? 登校中? それとも本屋? コンビニ!?」
大パニックのまま、来た道を全力で逆走する遥人。
立ち寄った本屋の立ち読みコーナーや、コンビニの肉まん売り場の前を必死に探すが、どこにも『アレ』は落ちていない。
(そりゃそうだよ! ポロッと取れるようなもんじゃないよなぁ!?)
◇
泣きそうになりながら帰宅すると、リビングから母親の声がした。
「遥人〜? お風呂洗っておいてー」
「は、はいっ! 今行く!」
ヤバい。親にバレたら絶対に怒られる。
「すいません、ちょっと大事な部位を落としました」なんて言ったら病院に連れて行かれるか、頭を心配されるかの二択だ。ごまかさなきゃ!
それから、遥人の不思議な『ごまかし生活』が始まった。
立ち小便ができないので、いつでも座ってトイレに入る。
体育の着替えは「お腹が痛いよ~」と言ってトイレの個室で済ませる。
すると、どうだろう。
身体から『アレ』が消えたことで、なんだか不思議な変化が起き始めたのだ。
「あれ、遥人……お前、なんか肌キレイになってね?」
クラスの男子に言われて、鏡を見に行く。
肌はモチモチのすべすべ。なんだか声も、少し高くなっている気がする。
(どうしよう……『男の象徴』が無いから、どんどん女の人みたいになっていく……?)
最初は恐怖だった。
だけど、だんだんと……
(……あ、あれ? でも、このツヤツヤの髪、ちょっと可愛いかも?)
女の子用のスキンケア用品をこっそり買って使ってみたり。
薬局のコスメコーナーで「妹のプレゼント用で~す」みたいな顔をして、ピンク色のリップクリームを買ってみたり。
(わあ……唇がプルプルだ。すごい、楽しいかも……!)
変化していく自分をコッソリ飾ることが、いつしか密かな楽しみに変わっていた。
◇
落とし物をしてから、三ヶ月後。
鏡の前に立っているのは、柔らかい栗色のハーフアップに、ふんわりとしたパステルピンクのワンピースを着た、どこからどう見ても可憐な美少女だった。
フリルいっぱいの袖口をぎゅっと握りしめ、上目遣いで鏡を見る。
「うん♪今日のコーディネート、すごく可愛いかも♡」
ポーズを決めながら、うっとりと囁く。
そう、今の遥人は完全に『男の娘』として覚醒していた。
男の子だった頃のダサいジャージやジーパンは全部タンスの奥へ追いやり、部屋には可愛いコスチュームやフリフリの服がいっぱい。
化粧水やリップのコレクションを眺めているだけで、胸がキュンとときめくのだ。
「遥人〜? 友達が尋ねて来てるわよ〜」
階下からお母さんの声がする。
遥人は慌ててフリフリの服を脱ぎ捨てると、ダボッとした大きめのパーカーを羽織って玄関へ向かった。
「はーい、誰――」
玄関に立っていたのは、クラスの男子・宮内 恒一だった。
恒一は遥人の顔を見るなり、なぜか真っ赤になって視線を泳がせる。
「あ、あのさ……遥人。お前、最近すごく可愛くなったっていうか……いや! その!」
恒一は深呼吸をして、ポケットから『何か』を取り出した。
「お前、3ヶ月くらい前にさ! 帰り道でなんか落としたろ!?俺が拾ったんだけどよ、これもしかして、お前が落としたんじゃないのか 」
恒一の手のひらにあったのは――
手のひらサイズで、なぜかピンク色に輝く、ツヤツヤした『小さなマスコット』みたいなアレだった。
「これ……お前の『アレ』だろ? 最近、女の子ぽくなっているから、もしかして、お前の落とし物かなって」
「きゃ~!?」
遥人は目を見開いた。
3ヶ月間、探し続けていた僕の落とし物。失われた男の象徴。
それをついに、目の前に突きつけられたのだ。
「元に戻したいなら……それ、身体にくっつければ戻るらしいぞ?」
恒一が親切そうに差し出してくる。
遥人はピンク色に光る『アレ』を見つめた。
これを取り戻せば、また普通の男子高校生に戻れる。
フリフリの服も、可愛いコスメも、全部おしまいだ。
遥人はゆっくりと手を伸ばし――
ぽいっ。
「えっ」
遥人はそれを、恒一の手ごと押し返した。
「い、要らないよ恒一くん! それ、恒一くんにあげる!」
「えええっ!?要らないの!?」
「うん! だって……」
遥人はパーカーの裾をギュッと握りしめ、上目遣いでえへへと微笑んだ。
頬をぽっとピンク色に染めて、最高に可憐な声で囁く。
「……だって私、今のほうが……ずっと可愛いだもんっ♪」
「萌えぇ〜〜〜〜!」
真っ赤になって卒倒する恒一をよそに、遥人はクルリとスカートをひるがえした。
今日もこれから、新しいロリータ服の試着をしなくっちゃ!
男の子の落とし物は……うん、落としたままで、大正解だったみたい。
完




