表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/4

『男の子の落とし物』男子喪失届、出しますか?

サクッと読めるTS短編。

「可愛い!」「尊い……!」とキュンキュンして、

最後にはニッコリ笑顔になれるような作品をめざしています。

「ただいま~。ふぅ、今日の体育は疲れたな」


高校一年生の長尾 遥人は、カバンを床に放り投げると、まっすぐトイレへと向かった。

ズボンのベルトを外し、いつものように用を足そうする。


「……え?」


手が、空を切った。


「なっ……ななな、無いっ!?」


慌ててズボンを下げ、上から下から確認する。

ツルリ。そこには、何もなかった。平坦で、すべすべな肌があるだけ。


「うそだろ!? どこ行ったの僕のアレ―――っ!?」


顔面蒼白になった遥人は、仕方がなく、生まれて初めて()っ(・)て(・)用を足した。

なんだかすごく落ち着かない。股間がすーすーする。


「落ちた……? 登校中? それとも本屋? コンビニ!?」


大パニックのまま、来た道を全力で逆走する遥人。


立ち寄った本屋の立ち読みコーナーや、コンビニの肉まん売り場の前を必死に探すが、どこにも『アレ』は落ちていない。


(そりゃそうだよ! ポロッと取れるようなもんじゃないよなぁ!?)


             ◇


泣きそうになりながら帰宅すると、リビングから母親の声がした。


「遥人〜? お風呂洗っておいてー」


「は、はいっ! 今行く!」


ヤバい。親にバレたら絶対に怒られる。

「すいません、ちょっと大事な部位を落としました」なんて言ったら病院に連れて行かれるか、頭を心配されるかの二択だ。ごまかさなきゃ!


それから、遥人の不思議な『ごまかし生活』が始まった。


立ち小便ができないので、いつでも座ってトイレに入る。

体育の着替えは「お腹が痛いよ~」と言ってトイレの個室で済ませる。


すると、どうだろう。

身体から『アレ』が消えたことで、なんだか不思議な変化が起き始めたのだ。


「あれ、遥人……お前、なんか肌キレイになってね?」


クラスの男子に言われて、鏡を見に行く。

肌はモチモチのすべすべ。なんだか声も、少し高くなっている気がする。


(どうしよう……『男の象徴』が無いから、どんどん女の人みたいになっていく……?)


最初は恐怖だった。

だけど、だんだんと……


(……あ、あれ? でも、このツヤツヤの髪、ちょっと可愛いかも?)


女の子用のスキンケア用品をこっそり買って使ってみたり。

薬局のコスメコーナーで「妹のプレゼント用で~す」みたいな顔をして、ピンク色のリップクリームを買ってみたり。


(わあ……唇がプルプルだ。すごい、楽しいかも……!)


変化していく自分をコッソリ飾ることが、いつしか密かな楽しみに変わっていた。



       ◇


落とし物をしてから、三ヶ月後。


鏡の前に立っているのは、柔らかい栗色のハーフアップに、ふんわりとしたパステルピンクのワンピースを着た、どこからどう見ても可憐な美少女だった。


フリルいっぱいの袖口をぎゅっと握りしめ、上目遣いで鏡を見る。


「うん♪今日のコーディネート、すごく可愛いかも♡」


ポーズを決めながら、うっとりと囁く。


そう、今の遥人は完全に『男の娘』として覚醒していた。

男の子だった頃のダサいジャージやジーパンは全部タンスの奥へ追いやり、部屋には可愛いコスチュームやフリフリの服がいっぱい。

化粧水やリップのコレクションを眺めているだけで、胸がキュンとときめくのだ。


「遥人〜? 友達が尋ねて来てるわよ〜」


階下からお母さんの声がする。

遥人は慌ててフリフリの服を脱ぎ捨てると、ダボッとした大きめのパーカーを羽織って玄関へ向かった。


「はーい、誰――」


玄関に立っていたのは、クラスの男子・宮内 恒一だった。

恒一は遥人の顔を見るなり、なぜか真っ赤になって視線を泳がせる。


「あ、あのさ……遥人。お前、最近すごく可愛くなったっていうか……いや! その!」


恒一は深呼吸をして、ポケットから『何か』を取り出した。


「お前、3ヶ月くらい前にさ! 帰り道でなんか落としたろ!?俺が拾ったんだけどよ、これもしかして、お前が落としたんじゃないのか 」


恒一の手のひらにあったのは――

手のひらサイズで、なぜかピンク色に輝く、ツヤツヤした『小さなマスコット』みたいなアレだった。


「これ……お前の『アレ』だろ? 最近、女の子ぽくなっているから、もしかして、お前の落とし物かなって」


「きゃ~!?」

遥人は目を見開いた。

3ヶ月間、探し続けていた僕の落とし物。失われた男の象徴。


それをついに、目の前に突きつけられたのだ。


「元に戻したいなら……それ、身体にくっつければ戻るらしいぞ?」

恒一が親切そうに差し出してくる。


遥人はピンク色に光る『アレ』を見つめた。

これを取り戻せば、また普通の男子高校生に戻れる。

フリフリの服も、可愛いコスメも、全部おしまいだ。


遥人はゆっくりと手を伸ばし――


ぽいっ。


「えっ」


遥人はそれを、恒一の手ごと押し返した。


「い、要らないよ恒一くん! それ、恒一くんにあげる!」


「えええっ!?要らないの!?」


「うん! だって……」


遥人はパーカーの裾をギュッと握りしめ、上目遣いでえへへと微笑んだ。

頬をぽっとピンク色に染めて、最高に可憐な声で囁く。


「……だって私、今のほうが……ずっと可愛いだもんっ♪」


「萌えぇ〜〜〜〜!」


真っ赤になって卒倒する恒一をよそに、遥人はクルリとスカートをひるがえした。


今日もこれから、新しいロリータ服の試着をしなくっちゃ!


男の子の落とし物は……うん、落としたままで、大正解だったみたい。



       完



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ