『マイ・フェア・フォークダンス』 運動会の人数合わせで女子の役???
サクッと読めるTS短編。
「可愛い!」「尊い……!」とキュンキュンして、
最後にはニッコリ笑顔になれるような作品をめざしています。
「というわけで、男子の人数が二人余る。誰か女子役でやってくれ」
担任の非情な一言に、教室がざわついた。
秋の運動会、恒例のフォークダンス練習。 女子の人数が足りないという理由で、白羽の矢が立ったのは――
「……なんで僕なのさ」
小柄で華奢、肌だけはムダに白い男子・優輝だった。
周囲の女子たちがキャッキャと盛り上がる中、優輝は不貞腐れたように席を立った。クラスのマドンナであるあの子の近くで、爽やかな男子として踊りたかったというのに、なぜ自分が女子役をやらなければならないのか。
不満と劣等感は、運動場の砂の上に、ぐるぐると音を立てて渦巻いた。
しかも、学校側の妙なこだわりで女子役だと分かるようにと渡されたのは、体操服の下の代わりに穿くピンクのフリル付きミニスカートだった。
「なっ……なんでスカートまで穿かなきゃいけないのさ!?」
半泣きになりながら穿かされたそれは、男子の細い腰元で無様にふくらみ、冷たい秋の空気に晒された膝小僧を頼りなく震わせた。恥ずかしさのあまり、優輝は必首にスカートの裾を下に引っ張り、自分の脚を隠そうとする。
だが、スピーカーから音楽が鳴り響き、運命の歯車が狂い始めた。
フォークダンスの基本フォーメーション。
ペアを組んだのは、少し無骨で背の高い男子――海斗だった。
「じゃあ、よろしく……って、優輝?」
海斗の大きな手が、優輝の右手をそっと包み込む。 その瞬間、電流が走ったように優輝の全身がビクリと跳ねた。
「えっ……!?」
熱い。海斗の手が大きすぎるのか、それとも自分の手が小さすぎるのか。 指先から伝わってきた熱量は、そのまま優輝の骨格を内側から溶かしていくようだった。足元がぐらりと揺れ、視界がわずかに低くなる。背筋をスッと引き伸ばすように、骨盤が、肩幅が、みるみるうちに華奢な形へと組み替わっていく。
「あぁ……」
漏れたのは、男子のものとは思えない、甘く高い声だった。
胸元に違和感が走る。体操服の布地が、内側から押し上げられるようにツッパリ、ふっくらとした豊かな重みが形作られていく。ウエストはキュッと細く締まり、先ほどまで不格好だったはずのピンクのフリルスカートが、丸みを帯びた太もものラインに押し上げられて、ひらりと艶やかに翻った。
スカートの裾が太ももの敏感な皮膚を擦るたびに、ぞくっとするような甘い快感が背中を駆け抜ける。
頬に何かが触れて払いのけると、ライトブラウンのさらさらとした長い髪が指の合間を通り抜けた。
「優輝……お前、その格好……」
目の前にいる海斗の顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。
海斗の目は、もはや同じクラスの男子を見ているものではない。息をのむような、熱を持った男の眼差しだ。「おおっ、綺麗だ。砂漠で蜃気楼でもみているのか……俺は。いや、待て、ここはただの運動場のはず」
その視線を浴びた瞬間、優輝の脳内で何かが音を立てて崩れ去った。
――憧れの女子と踊りたかった? そんなの、もうどうだっていい。
男としてのプライドや不満は、甘美な熱に溶かされて消え失せていた。代わりに胸の奥からせり上がってきたのは、もっと強烈で、もっと本能的な、雌としての飢えだった。
小さな手で、スカートの裾をもう一度ちょんとつまむ。
今度は隠すためではない。目の前の男子を、そして世界を魅了するために。
そこに踊る姿は、ライトブラウンの髪を揺らし、頬を朱色に染めた見知らぬ美少女だった。透き通るような紫の瞳が、熱を帯びて潤んでいる。
音楽はクライマックスへ向海斗、フロア全体が熱狂に包まれる。
もはや、女子役をやらされている男子など、どこにもいない。そこにいたのは、自分の美しさに酔いしれ、愛される悦びを知った一人のヒロインだった。
曲が終わり、静まり返る運動場を茜色の夕光が照らす。
優輝いいや、新しい名前を欲しがる彼女は、軽やかにステップを踏み、自ら海斗の胸元へと身を寄せた。海斗は、ギュッと抱きしめてつぶやく。
「可愛いすぎる。君はもう優輝ではない、……優子、いや、……優子姫」
優子姫と呼ばれるようになった美少女は、上目遣いに男子たちに視線を投げかけ、ふわりと微笑んで、甘い声を響かせる。
「ねぇ……。こんなに可愛い『私』と、次に踊ってくれる素敵な人は、だぁれ?」




