前へ目次 次へ 6/7 第六話 静かなる霧 霧だった。 川中島すべてを覆い尽くす、 深い白霧。 馬の鼻息。 鎧の軋み。 兵たちは互いの顔すら見えぬ。 武田軍の兵が、 不安げに呟く。 「敵は……どこだ」 答える者はいない。 ただ、 霧だけが流れていく。 その頃。 霧の奥を、 静かに進む騎馬隊があった。 先頭を行くのは、 上杉謙信 。 景虎は、 ただ前だけを見ていた。 風が吹く。 次の瞬間。 霧の向こうに、 武田本陣の旗が浮かび上がった。 兵たちが息を呑む。 景虎は槍を握る。 その目には、 迷いなどなかった。 「――時は来た」