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第六話 静かなる霧

霧だった。


川中島すべてを覆い尽くす、

深い白霧。


馬の鼻息。


鎧の軋み。


兵たちは互いの顔すら見えぬ。


武田軍の兵が、

不安げに呟く。


「敵は……どこだ」


答える者はいない。


ただ、

霧だけが流れていく。


その頃。


霧の奥を、

静かに進む騎馬隊があった。


先頭を行くのは、

上杉謙信 。


景虎は、

ただ前だけを見ていた。


風が吹く。


次の瞬間。


霧の向こうに、

武田本陣の旗が浮かび上がった。


兵たちが息を呑む。


景虎は槍を握る。


その目には、

迷いなどなかった。


「――時は来た」

挿絵(By みてみん)

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