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軽トラで美川方面のダンジョンへ
夕暮れ、重機と貨物列車の音が響く小松市の裏道。
カナは軽トラの助手席でシートベルトを締め、髪を風になびかせる。
コウタは運転席に座り、目の前の道に集中しながらも、助手席のカナの視線とドローンの映像モニターをチラリと確認する。
「……また、あの漁港か」
「そう。あそこ、最近素材の出がいいんだよ」
荷台には空の保冷コンテナと、ドローン4機が固定されている。
ドローンのプロペラが静かに回り、カナが目で操作確認をする。
軽トラがダートの未舗装路に入る。
土埃を巻き上げながらも、4WDはしっかり路面を捉える。
荷台の素材保護パネルが小さく振動し、ドローンのカメラが空から前方の地形を映し出す。
「この道でいいの?」
「うん、昨日の偵察映像で確認済み。崖の手前で降りるから」
トラックのエンジン音に混ざるのは、遠くの重機稼働音と漁港の潮騒。
二人だけの空間に、外界の生活感と非日常の緊張感が重なる。
ドローンのカメラが揺れる荷台を映しつつ、カナは軽く拳を握る。
「行くよ、コウタ」
「……わかった」
軽トラは夕闇の中へ向けて走り続ける。
運搬用軽トラと二人、そしてドローン。今日もダンジョン攻略の一日が始まる。
軽トラを降りた瞬間、空気が変わった。
湿った川風に混じって、鼻の奥を刺すような鉄臭さがある。
手取川沿い。普段は「低危険度・素材回収向け」とギルドに分類されている区域だ。
「……カナ」
コウタが低い声で言う。
「気をつけろ。ここからやばいぞ」
川原の石が、不自然に黒ずんでいる。
苔でも油でもない。魔力で焼け焦げた跡だ。
カナは剣の柄に手を置いたまま、視線を巡らせる。
「……わかってる。昨日のログより、川の流れ遅い」
本来なら、マナ結晶が点在するだけの回収スポット。
だが今日は、水面が不自然に澱み、泡も立たない。
ドローンが川上へ進んだ瞬間、映像が一瞬ノイズを走った。
「……通信、乱れてる」
コウタが端末を見る。
GPSは生きている。だが、高度だけが狂っている。
「地形歪んでるな。たぶん――」
言い終わる前に、川底がずるりと動いた。
石が転がったのではない。
石そのものが、這い上がってきた。
「来るぞ!」
カナが一歩踏み出す。
次の瞬間、川原から現れたのは、岩と泥が癒着したような魔物――
〈河蝕岩鬼〉
本来なら単体出現の低級種。
だが、今日は違った。
背後、左右、川面。
同じ個体が、三体同時に起き上がる。
「……増えてる。ギルドの情報、古い!」
「それどころじゃない、地形が巣になってる!」
コウタが即座に水槍を放つ。
圧縮水が一体の頭部を貫くが――
「硬っ……!」
砕けたのは表層だけ。
中から、さらに黒い核が露出する。
カナが舌打ちし、距離を詰める。
「剣通すには、関節だけ!」
踏み込む。
だが足元の地面が沈む。
川原が罠になっている。
動くたびに足を取られ、剣速が殺される。
「……っ、クソ、動きにくい!」
「無理するな!」
コウタが叫び、回復魔法を発動。
清冽な水がカナの脚を包み、筋肉の損傷を一気に修復する。
その瞬間、彼の呼吸が乱れた。
「……はっ、……っ」
連発はできない。
「下がって!」
「無理だ、後ろ――!」
川面が盛り上がる。
今までの倍はある個体が、ゆっくりと姿を現した。
“素材回収用ダンジョン”が、
いつの間にか“魔境”に変質している。
カナは歯を食いしばる。
「……今日、楽に稼げる日じゃなかったみたいね」
コウタは荒い息のまま、苦笑する。
「最初から映えないと思ってたけど……
これ、普通に死ねるやつだろ」
軽トラの方角は見えない。
ドローンは高度エラーで旋回を続けている。
――逃げるか、
――ここで“全部”刈り取るか。
川原の魔力が、二人を飲み込もうとしていた。




